The New World
知らない天井
雨音が耳朶を打つ。艶のある布地の感触が肌をくすぐる。
柔らかな光を目蓋の向こう側に感じ、俺はうっすらと目を開けた。
途端に白い記憶が思い出され、慌てて周囲を見渡す。しかしそこは何もかもが脱色された世界ではなく、簡素な家具が設えられた部屋のようだ。
「夢…か?」
そう呟くが、その可能性は低いと内心では考える。夢にしては異常な内容だし、ここまで明瞭に夢の内容を記憶していることなど通常ではありえない。今俺がいる部屋も全く見覚えがない。それに、部屋の調度品を注意深く観察すると明らかに現代日本では考えられないものが見受けられる。
俺が今まで寝ていたベッドは材質は木に似ているが、本来あるはずの木目が一切ない。
先ほど感じた光源の正体は暖炉だ。日本では見ることが全くないと言っていいほど家屋に備わっているのが稀なものだが、驚くべきは燃料だ。火が灯っているのは薪でも石炭でもなく、赤みがかった透き通る鉱石だ。
ふと、見覚えのあるものが目に止まる。気を失う前にあの自称神から受け取った分厚い本だ。
手に取ると見かけ通りずしりと重く、滑らかな革張りの感触が手に伝わる。
表紙を開いた、その、瞬間、
激震。そんな言葉が思い浮かぶような、名状しがたい感覚。
眩暈と頭痛と耳鳴りと吐き気とを綯交ぜにしたような、圧倒的な不快感に視界が白む。
情報の洪水に意識が押し流され、感覚の驟雨に理性が洗われ、刺激の暴嵐に思考が押しつぶされる。
「…ぅ……ぁ」
声にならぬ声すら上げれぬまま、俺の意識はまた暗闇に沈んだのだった。
足音が鼓膜を震わせた。何者かが近ずいてくるということだけを理解する。
布団を跳ね除けて飛び起きた瞬間、ガチャリとドアノブが捻られ、扉が開かれた。
「あ、お目覚めになったんですね」
高く澄んだその声の持ち主は、エプロンらしきものを着た少女だった。夕焼けのような赤い髪と、黄色人種とは明らかに異なる顔立ちが、ここが日本ではないことを一層際立たせる。
思えば当然のことだが、この家は他人の住居だったようだ。
「おはようございます!」
「ぁ…おはよう、ございます…」
違和感。
先ほどから感じていたが、自ら返答したことで決定的となった。
聞き取る音と、脳が認識する言葉が異なっている。あの自称神が言っていた、言語の違いに対する対応の結果だろう。もしかしたらあの本を開いた時にこうなったのかもしれない。
「外で倒れていたのでお連れしたんですが、大丈夫でしたか?ずっとお目覚めにならなかったので、心配してたんですよ」
「すいません…。体調はもう万全です」
どれだけ寝ていたかは分からないが、実際には一度目覚めた後にあの本のせいで再び気を失ったため、長時間意識がない状態だったと思われている可能性はある。
窓の外を見ると、気を失う前に降っていた雨は止み雲の隙間からは青空が見えていた。
少女が語りかけてくる。
「あの…お名前聞いても、よろしいですか?」
「えっと、秋瀬です。秋瀬リオ」
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