プロローグ
ベッドに横たわりながら、明日が来てくれることをひたすら願う。
隣の母は僕の手を握りながら泣いている。
「泣かないで。」
母に笑いかける。
父は泣いているところを見せまいと、部屋の窓から外を眺めていた。
「こっちを向いてよ。」
父に手を伸ばす。
「ごめんね。」
僕は涙を流す。
母に笑いかける事も、父に手を伸ばすことも、僕には出来ていなかった。そうしたかったのに体は動かなかった。ただ、涙はとめどなく溢れた。
「泣かないで。」「こっちを向いてよ。」「ごめんね。」
そう言いたいのに声が出ない。
そうか僕は死ぬのか。
自分の終わりは自分が一番わかる、という言葉を聞いたことがあるけれど、その言葉には嘘はなかったようだ。
父さん、母さん、今までありがとう。先に旅立つ親不孝者な僕を許してください。
願っていた明日はもう来ないらしい。
意識がふっと遠のく。
ふわふわとしていい気持ちだ。
死ぬのって、こんな気持ちいいのか…。
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寒くなり始めた十一月の初め。
父と母に看取られながら。
僕は死んだ。
ここから物語は始まる。
死から始まる、あの世での僕の物語。