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3.イベントは波状攻撃

 ホールには初々しい…というには社交慣れしているように感じる貴族の皆さまがおおよそ集まっていた。

 特に席は決められていないようなので、前方で華が舞っているようななんとなく明るいオーラを発していそうなあのあたりに王子や攻略対象者がいるに違いないと、後方の席に着く。

 賑々しい感じ、これはやはり王子と婚約者の悪役令嬢(転生)が上手くいっているからに違いない。うかつに近づかないようにすれば、大丈夫だよね。


 周囲をそっと見渡しても攻略対象はいない。これで、横の席に騎士団長の息子がいようもんなら、出会いフラグ一直線だが、幸い両隣は女生徒だ。友人と一緒に来ているようで他愛もない話に花を咲かせている。


 社交界デビューしていない私には、まだ貴族の友人がいないのよね。

 むしろ社交界デビューしている年頃の同級生からすれば、見知らぬ私なんて噂の恰好の的に決まっている。


 平民から男爵家になった図々しい女として、馬鹿にされちゃうのかしら。


 ふと前の席に座っていた男子生徒と目がばっちり合ってしまった。そのまま目をそらすのも気まずくて、にっこり微笑んでおく。

 途端に男の子が顔を真っ赤にして、勢いよく前に向き直った。


 それとも男を誘惑して誑かしているって噂になるのかしら。


 自惚れているわけではないが、私はヒロインに転生しただけあって、可愛らしい容姿をしている。どれだけ貧しい生活でも不摂生をしても、艶々の髪、ハリのある肌が失われることはない。ほんとヒロイン補正で肌荒れしないんで助かってます。

 きっと悪役令嬢とかで美人に免疫のない男爵貴族ぐらいなら、笑顔一つで転がせる気がしてくる。


 あぁ、そんなこと考えているようじゃ破滅フラグが立ってしまう。


 ぐるぐると破滅フラグを考えているうちに入学式が始まる。



 学園長の話、やっぱり長いよー。


 覚悟していたけど、なんでこう話が長いんだろう。隠しキャラで校長が落とせたとしても、話の長い男は嫌われると思うんです。

 体調ばっちりだから、貧血で倒れたりはしないかな。座ってるし。



 ……これも悪役令嬢(転生)が、仕組んでくれたのかな。ヒロインが貧血で倒れないように椅子を準備して出会いイベントを防ぐ、みたいな。



「…。皆さんの学園生活が健やかなものになることを願います」


 ようやく校長の長い話が終わった。

 これでとりあえずイベント1つスルー!


「続いて、新入生代表 ウィリアム・グレーズ・アルディア」

「はい」


 名前を呼ばれてすっと立ち上がったのは、プラチナブロンドのさらりとした髪に涼やかな青い瞳、華やかなオーラが滲み出ている様はまさに少女漫画に出てくる王子様のような人。

 いや、本物の王子様なんですけど。

 そして、先ほどぶつかった人。

 やっぱりあの前方の集団が王子だったか。近づかなくてよかったと胸を撫で下ろす。


 拍手を受けて壇上に上がり彼がぐるりと会場を見渡すと、自然と拍手が止む。


「柔らかく暖かな風を受け、花が芽吹く穏やかな日に今日というこの日を迎えられて嬉しく思います。この学園の……」


 滔々と話す声も為政者としての威厳を感じるようなもので耳朶に柔らかく響く。欲を言えばもう少し深みがほしいが、それは今後歳を重ねて身につけるものだろう。



 ―――――ドサッ

「きゃあ」


 王子が話している途中に女の子の悲鳴が小さく聞こえた。

 声がした方に目をやるとぐったりと座り込んでいる女の子とそれを見ておろおろする女の子。

 周囲は王子様に夢中なのか二人を気にする様子はない。


 目立ちたくはないけど、さすがに倒れている人を無視することはできない。

 そっと駆け寄り声をかける。

「大丈夫?」

「あっ、あのっ、と、突然、かの、彼女がたおれてっ」

「大丈夫だから貴方も落ち着いて」

 なるべく優しい声を出すように心がけながら狼狽える女の子の背を撫でてから、ぐったりしている女の子を覗き混む。


 ………()()()()??


 目は閉じられていて瞳の色は見えないから確証はないが、黒髪できつめの縦巻きロールは、彼女の特徴と一致する。



「どうしたんだ?」

 声の主を救いの神と思いたいが、聞き覚えのある声に自分の運のなさ、いやヒロインとしては運命の出会いの連続かもしれない、ゲームの強制力に天を仰ぎたくなる。


 振り返った先にいたのは予想通りというべきか騎士団長の息子、オーギュスト・グランドルフ。


「彼女が突然具合が悪くなってしまったようなの。申し訳ないけど、彼女を保健室まで運んでいただけるかしら」

「む、アンジェリーナか。分かった。任せてくれ」

 さっとオーギュストが女の子をお姫さま抱っこで抱え上げる。聞こえた名前でやはり悪役令嬢だったかと確信しながら、手をかざして軽く癒しの力をかけておく。これでしばらくしたらすっきり目が覚めるだろう。


「貴方も一緒についててあげてください。目が覚めた時に女の子がいた方がいいでしょう?それに貴方も少しゆっくり休んだ方がいいわ」

 そばで慌てていた女の子にも声をかける。


 …決して自分が関わりたくないからと押しつけた訳じゃない。


 伊達にヒロインをやってない。ふんわりとした微笑みは他人を丸め込む力があると信じている。

「私は先生に事情を説明しておきます」

 そう言ってそっと背中を押し二人+悪役令嬢を送り出す。


 これだけ騒がしくしていると周囲も徐々に異変に気づきざわめきたつが、ちょうど王子の話が終わったようで拍手が沸き起こり、不穏な空気が霧散する。


 その隙に元の席に戻り、何食わぬ顔で拍手をするモブに混じれた。と思う。


 二つ目のイベントも名乗り合うこともなく、記憶も残さずなんとかスルーできたはず。


 残すは、宰相の息子をスルーすれば完璧だ。



 結局クラスが別れることはなかったけど、この調子でスルーできれば、後は関わることなく平穏無事な生活を送れるはず。


 あ、ちゃんと後で倒れたご令嬢のことは先生に報告いたします。

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