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1.はじまりはいつも突然嵐のように

 

 いよいよこの日が来てしまった。


 陽光煌めく、清々しい朝。まるで世界が祝福してるような絶好の入学式日和。


 深緑色のワンピースタイプの真新しい制服は、我ながらよく似合っている。首もとを飾る臙脂色のリボンも左右対称できっちりだ。


 デュボワー男爵に引き取られてから学園に入学するまでの半年間、貴族令嬢としての教育をみっちり受けた。まあ、基礎学力は前世の記憶で補えるので、ほとんどは歴史と貴族のマナー教育だったけど。

 おかげで付け焼き刃なカーテシーもそこそこ見られるものになっているはずだ。


 転生した()()()()()がいる前提で考えているが、念のため本当に悪役令嬢がいた場合も突っ込まれる隙は作らないようにしたい。好き好んで虐められたいなんて思いは微塵もない。


 地味に眼鏡にお下げ髪を装うことも考えたが、似合わないし悪目立ちしそうで却下した。地味ではなく、没個性。その他大勢を目指しているのだ。どちらかと言えば可愛い、よく見れば可愛いぐらいがちょうどいい。


 デュボワー男爵家と仲良くなれそうな子爵家、男爵家、敵対しそうな子爵家、男爵家もバッチリ覚えている。会ったことはないので、ご本人もご息女の顔も知らないけど。

 半年の間で社交界デビューすることはなかった。別にいいけど。社交界デビューは入学してから長期休暇のときにしようということになったのだ。


「アンネお嬢様。そろそろ出発された方がよろしいかと」

 前世は忍者か暗殺者かというほど気配を絶つのが上手なメイド、ニーナに声を掛けられ、私はもう一度鼻息荒く気合いを入れ直す。

 遠くで法螺貝の音が聴こえる気がする。


「ニーナ、どう私は?変な寝癖とかついてないでしょうね!」

「本日はより一層可愛らしくいらっしゃいます」

「私が目指しているのは凡庸よ!」

「大変見事な凡庸ぶりでございます」


 イエスマンのようなメイドとの不毛な会話に満足し、いざ戦場へ!

 入学式は攻略対象との出会いイベントが満載だから、なんとしても避けなければ。



 ======



 学校の門の前に馬車が数台並んでいる。早めに来たおかげで渋滞までは起きていない。

 すぐに順番が来て、そそくさと馬車から下りると御者に礼を言い門をくぐる。

 薔薇で覆われた門にはミスティック学園創始者の有難いお言葉「この学園において生徒は何人たりとも平等である」的なことが書かれている。

 だから馬車での送り迎えもこの門までで、この先校舎までは全員徒歩で向かうことになっている。


 改めて前庭の向こうに見える校舎に感嘆とも悲嘆とも言えない声を洩らす。


「やっぱり“まじ恋”の世界と同じ学校…」


 この学校で3年間を過ごすのだ。前世から数えて二十年以上振りの学校生活。フラグは避けたいけど、なんだかんだで楽しみも多い。


「よしっ!男爵家の令嬢友だち作るぞー!」



 ……と盛り上がっていた時もありました。





 入学式は出会いのフラグだらけ。

 遅刻寸前慌てて走り込んできたヒロインが王子とぶつかったり、校長の挨拶の途中で倒れたヒロインを騎士の息子が保健室に運んでくれたり、教室で隣同士の席になった宰相の息子に冷たくされて怒ってみたり、担任が隠しキャラの教師だったり……

 遅刻しない、睡眠しっかり健康管理で初めの二つは乗り切れる、ハズ。

 席が隣とか担任とかは避けられないだろうけど、基本はスルーすれば問題ないはずだ。



 だから、遅刻間際にならないよう余裕をもって家を出たし、走ったりもしなかった。

 なのにこんなのって、あんまりだ。


 乙女ゲームの世界なのに、少女漫画のベタの世界に陥った気分で項垂れる。


 廊下の曲がり角で出会い頭の事故。

 これで人格が入れ替わったらベタ中のベタだったのに、目の前ではキラキラした王子が手を差し出してくれている。


「すまない。急いでいて前方不注意だった。どこか怪我したりはしてないか?」


 さすが王子!乙女ゲームのメインヒーロー!ぶつかって情けなく尻餅をついた女生徒にも、優しく手を差しのべる。

 でも今はそんな優しさいらない…

 とは言え、王子が声をかけ差し出した手を無視するのは小市民な私にはとてもできない。


「ありがとうございます。…こちらこそ、前をよく見ずにぶつかってしまい申し訳ございません」


 手を借り立ち上がると、最敬礼でお礼とお詫び。正面から王子と顔を合わせることもないまま深いお辞儀をキープする。


「いや、こちらこそ悪かったね。じゃあ僕は用事があるから。気をつけて」

「はい、ありがとうございました」


 一瞬顔を向けるが、すぐさま会釈の角度ですれ違い去っていく王子の背中を見送る。



「…はぁ~」


 思わずため息が漏れる。

 いや、避けられない出会いイベントだとして、今のは最高のスルーだったんじゃないか?特に記憶にも残らないであろう当たり障りのない会話。双方名乗ることはないし、なんだったら目だって合わせてない。

 上出来だ。そうだ。そうに決まっている。


 王子がこの時間にいたのは想定外だが、私が来た方向、つまり門に向かっているということは、本来ならこのあとイベントが起きていたはずなんだから、それを回避できたのは万々歳だ。

 しかしなんだって王子はこの時間に門の方に?そんなイベントあったかな?



 そういえば王子の婚約者筆頭候補の悪役令嬢も一緒に入学するんだっけなあ。



 やっぱり悪役令嬢は転生者の愛されキャラかぁ。破滅しないよう頑張ろ。

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