プロローグ
私は人間が好きだ。
心などという不安定なものを抱き、懸命に生きる様はなんとも滑稽。
基本的に善を尊び、悪を憎む素振りを見せてはいるが。
なに、その善も悪も全てはその不安定で不完全な心とやらが引き起こす疾患。
それを切除してしまえば済む話だというのに、それを手放す気がないらしい。
心ないものは淘汰される。
矛盾を抱えることを良しとし、自ら首を絞めに行くその愚かな勇気に、私は感動すら覚える。
ああ、だから人間は好きだ。
私のような悪魔の囁きに、つい耳を傾けてしまう。
自らの善悪の基準など、あっさりと改変してしまう。
脆い、脆い、脆すぎる。
悪魔は悪か?
否、否。
ほんの少しの接触で、堕ちてしまう人間の弱さが悪なのだ。
しかし、私は愛そう。
君達の弱さを愛そう。
そして喜ぶが良い。
君達にチャンスを与えよう。
かつて、どこかで、いつかの前世で、犯した罪の清算を。
私自らが手伝ってやろう。
悪魔と契約した者に、最後の断罪を。
カルマを抜け出す真の死を与えよう。
私は、サタン。
悪魔の頂点に立つ者であるが、管理職は飽きたゆえに人間の地へと舞い降りた。
最強にして最恐の外科医、左袒先生としてね。
ははははははははははははははははは――――――――。
さあ、オペを始めよう!




