婚約破棄な、あれ
「セフィリア・ラングレーとの婚約を破棄する」
「そう仰って」と私の懇願に、殿下の青い瞳が瞬いた。
「いや、何でだよセフィ!!」
「まあ、ご存じなくて?」と私は首を傾げた。
パチン!と扇子を閉じる。
「私、殿下のお気に入りに嫌がらせをしていましたのよ!」
「なんだよお気に入りって!なんだよ嫌がらせって!」
はぁ?!と威厳など何もなく声を上げる姿が、ちょっとお可愛らしい、なんて断じて思っていない。
むしろ”ムカッ腹が立つ”という気持ちで、私は拳を握る。
「殿下といつも一緒のあの令嬢は今、この魔法学校の女生徒の嫉妬の的ですのよ!?皆がどれほど殿下に憧れていると!」
「彼女とは同じ課題に当たっただけだよ!」
「たったそれ”だけ”に振り回される、狭量女などさっさと捨てれば良いのです!私なんて彼女の教科書を捨ててやったのに!」
「うまいこと言ったつもり?!ていうかそれ、ゴミ箱にあったのを処分して、新しいのこっそり鞄に入れた話でしょ!思いっきりバレてて彼女感激してたからな!」
「か、階段から突き落としたりだってしたんだから!」
断崖から飛び降りるような気持ちで言ったその言葉は、二人の間に響いて、沈黙を落とした。
殿下の目が大きく見開かれ、
そして、
「はあ???!!」
怒鳴られた。
ザ、腹式呼吸。とばかりに、怒鳴られた。
「あの時、丁度、俺が医務室にいたら運び込まれてきたの!君、その時姉上のお茶会だったでしょ!そもそも高所恐怖症の君は階段で振り返ることすらできないでしょ!」
「ひ、人に命じたのです!」
あのねえ!と怒鳴るその剣幕に驚き、思わず私は一歩後ずさってしまう。
「そんなに婚約破棄したいの!」
「しっ、したいくない!」
「どっち!」
だって、
「だって、殿下は」
「俺はむちゃくちゃすっごい君が大好きだよ!」
え
「わけのわからん嫉妬しまくる君は昔から最高にかわいいんだ!」
わかってる?!と何故か怒られ、よくわからないまま首を振ると、殿下に両肩を掴まれた。
いたい。
「魔法しか才能がない第4王子の傍にずっといてくれたのは、君だけ。君だけなんだよ。魔法学校で急にもてはやされたって知らないよやめてよ。」
「殿下の魅力は魔法だけではありません!」
「そういうとこ!子供の頃から好き好きアピール凄くて、好きにならないわけないでしょ!」
あのねえ、と殿下は私の肩におでこをのっけた。
「責任とってよ」
かぼそい、震える声に思わず私は頷いた。
「今すぐ結婚しましょう」