6.
新しい剣、か……。
お買い物メモに書かれていた父ちゃんのもそうだが、実は自分用にも欲しいと思っている。
今の剣は五年ほど前に父ちゃんに隣町まで連れて行ってもらって、私に合うものを作ってもらったものである。
これからもその剣を使っていてもいいのだが、あれは狩り用というよりも果実の皮むき用に近い。
本来の目的にも使えるといえば使えるし、小回りは効きやすいんだけど、大きな体の動物に決定打を与えることは難しい。
だから皮むきとして使ってばっかりだ。
それはそれで兄ちゃんと山に遊びにいく度に役に立ってはいた。だがそろそろもう少し刀身の長いものが欲しいのだ。
兄ちゃんとの婚約解消を無事成立させた以上、誰かが嫁にもらってくれる保証はどこにもない。
それに2人の反応を見たからってわけでもないけど、守ってくれるような人を探すより、自分の身を守れるくらいの力をつけた方が早いと思うのよね……。
まだ小さな動物しか狩ったことはないけど、鍛錬すればこれからどうとでもなるはずだ。
若いということは、たくさんの可能性があることだって村長さんも言ってたし!
それになにより、力さえあれば不器用だろうが独り身だろうが、コンラット村でなら生活できる。
なんだかんだで力こそ正義である。
それに村の全員が事情も知っているから、早く結婚しろなんて残酷なことは言わない……はず!
私はそう信じてる!
――となればまず目指すのは鍛冶屋である。
せっかく王都まで来たのだから、少し値は張っても一生の愛剣と言い切れるだけの品が欲しい。
私は早速目に付いた、金槌のマークの書かれた看板の店のドアノブへと手をかけた。
――だが開いてまっ先に目についたのは武器ではなく、怒鳴る男の姿。
店にいるのは私を除いて2人だ。
片方はまだ子どもと言ってもいい年頃の、店員なのだろう少年。
そしてもう片方はその格好からして冒険者であろうが、背中にいくつもの武器を背負っている、見るからに怪しい様相の男である。
どちらも店に入ってきた私のことなんておかましないしに言葉を投げ続ける。
「下っ端のお前になんて用はない! カディスを出せ! カディスを! Aランク冒険者の俺様が、剣を打たせてやるっていうんだぞ? 名誉なことだろう? それを断るなんて……!」
「親方なら今は不在ですと何度も申し上げているでしょう!? それに親方は武器を大切にしてくれる人にしか武器を作りません。特にあなたのように使えない武器を10も20も持ち歩いているような男の武器なんて作るわけもない! 帰ってください!」
「なんだと!? 言わせておけばこの小僧……」
Aランク冒険者を自称するその男は怒りに身を任せ、少年に向かって拳を振り上げる。
自分の思い通りにいかないからと暴力に訴えるとは、冒険者どころか人間の風上にも置けないような男だ。
自分よりもうんと格上の相手かもしれないと思いつくよりも早く、私は男の頭にコンラット村の女性に代々伝わる不審者撃退チョップを食らわせていた。
「子どもに暴力を振るうなんて最低だわ」
私は自分の今しがたの行動を棚に上げて、男を蔑んだような視線で睨む。
すると男は怒りの矛先を私に向けて、拳をふるう――かと思いきや、頭を押さえてこちらを見ると「き、今日のところは帰ってやるよ!」と捨て台詞を残して、慌てたように店を立ち去っていった。
バタンと大きな音を立てて閉められたドアの窓からは、逃げ去った男の小さな後ろ姿が見える。それは次第に小さくなって、見えなくなってしまった。
何だったんだろう?
女には暴力を振るわない主義だったとか?
なら子ども相手に殴り掛かろうとするのもどうかと思うけど。
なにはさておき、店にとっても迷惑だった客? は帰ったのだ。
それなら私は一人のお客さんとして、この店の武器を見せてもらうことにしよう。