21.
結局、グレンの抵抗? により、カディスに触診してもらえたのは腕だけだった。
「仕方ない。後は構えた時の感覚と、実際に振り下ろした時の感覚で調整していくか……」
「はい」
「……とまず初めに、今使っている武器を見せて欲しい。形や重さはもちろんのことだが、すり減り方で使用者の特徴がわかるからな」
「今は持っていないのよ」
カディスの言いたいことは分かるが、生憎と私は今、武器を所持していない。
だからこそ一度目はお土産を買う目的だったものの、今度は武器を必要として買いに来たという意味が強いのだ。
そう正直に答えるとカディスは「は?」と惚けたような視線をこちらへ向けてくる。
鍛冶師からすれば大きな情報を得る機会を失ったのは大きいのだろうが、こればかりはどうしようも出来ない。だからといって村に取りに帰る訳にも行かないのだ。
だって一度帰ったら確実にこっちに来る気なんてなくなるだろうし、そもそも帰れるのならば王都に残っていないのだ。
馬車さえあれば、さっさと村行きの馬車に乗って、今頃はいくつかの馬車を乗り継いだ後か、上手くいけば到着している頃なのだ。
やっぱりそこまで時間かけたら普通、戻ってこないわよね……。
もしも私がお城の馬車を体験していなければ、この武器のため! ってなるけど、あれを体験した後じゃ連続して馬車に乗るなんて苦行である。それにお金も時間も結構かかる。
だからなんとしても、この王都に滞在している間にカディスの武器を入手したいのだけど……。どう説明したらいいのか。そう考えてはいるものの、上手い言葉が浮かんで来ない。
するとあり得ないとばかりにカディスは言葉で攻めてくる。
「それじゃああんた、丸腰でここまで来たのか?」
「ちゃんとお財布は持ってきているわ」
「いや、そうじゃなくてだな……。護衛は?」
「そんなのいる訳ないじゃない」
カディスってなんでそんな変なことばかり聞くのだろう?
あ、もしかして私、ここまで歩いてきたと思われているの?
今の馬車乗り場は開店休業中だ。いつからそうなっているのかは分からないが、カディスのこの感じからしてきっと長い間、その状態であるに違いない。だとすれば自然と徒歩で来たことになる、と……。だったら護衛もなく。武器も所持していない状態は不自然と言えるだろう。
ああなるほどと納得して「ここまでは馬車に乗せてもらってきたのよ」と打ち明けた。けれどカディスは首を傾げるだけだ。そして私に尋ねることは止め、グレンへと視線を移した。
「……グレン、この嬢ちゃんは一体何者なんだ? どっかのご令嬢、って訳じゃあねぇんだろ?」
「コンラット村の出身で……勇者とは幼なじみらしい」
「そうか、コンラットの……。そういや、レオンが姉がどうのだのって言ってたな。となると、嬢ちゃんのは探すよりも作った方が早えな。あんた、形の要望とかあるか?」
「え、ああ、そうね……。要望は特にないわ。というか私、今まで護身用の短剣しか持ったことないわ」
「…………念のために聞いておくが、その使い道は?」
「襲ってきた獣の退治と果物の皮むきね! だから護身用兼皮むき用って感じかしら。だからそれもあんまり慣れているとは言えないわね……。それよりも私、魚捕り用の銛とか畑で鍬振り回す方が得意よ」
銛と鍬は関係ないのでは? と思ったが、正直に伝えることにした。
だって短剣持っている時間よりもそっちの方が長いのだ。それにおそらくカディスが想定しているのだろう、魔物と対峙したことは未だかつて一度もないのだ。
「短剣使っててこんな腕には普通、ならないんだが……まぁそれはいいか。どうせコンラットの人間だしな。今回は何が一番、身体に合うかを重視していくか」
コンラット、ってどんな万能用語なのだろうと引っかかりを感じてしまう。
だがきっと、兄ちゃんとレオンがそんなイメージをつけてしまったのだろう。
兄ちゃんはともかく、レオンは一体何をしたんだか……。とりあえず私が知っているだけでも馬車を破壊しているのだが、それは仕方のないことだろう。だってあれ、結構もろいし。繊細な物に乗せたのが間違いなのだ。




