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20.

 けれどカディスはグレンにとっての助け船などではなかった。


「見た目は結構細い、が筋肉のつきはいいのか……。触っていいか?」

「え? ええ」


 カディスは私が返事をするよりも早く、腕を触りだした。

 自己紹介とか挨拶とかは一切ない。握手、ではなく腕を掴むところから始めたのである。


 いきなりなんなの? とは思うが、その目からは一切いやらしさなどは感じない。いかにも職人といった、真剣な眼差しである。昨日、ギルドに来た時にクラネットが言った言葉は嘘ではなかったのだろう。


 カディスは私に、いや私の身体に興味津々である。

 だがそれはあくまで筋肉やそのつき方についてだからだろうか。決して気持ち悪いとか嫌だとか、そういうマイナスなイメージが湧きあがってくることがない。

 それにカディス自身は初対面ではあるものの、グレンの知り合いという面が大きいのだと思う。

 でなければ今すぐチョップをお見舞いしているところだし。とりあえず私はカディスのなすがままに大人しく待機することにした。


 しばらくしてようやくカディスは一度、私の腕から手を離す。けれどそれは決して終わりの合図などではない。


「なるほどな、腕はこんな感じか。それじゃあ今度はそっちの椅子に腰掛けて、靴脱いでくれ。今度は足の方の筋肉の付き方をみる」


 さすがは職人というのだろうか、満足するまで確かめたいのだろう。

 驚きが湧きあがってくることはない。もう満足いくまで調べてくれと思う。不思議と私の筋肉を見定めようとするその漆黒な瞳に抗える気はしない。


「わかったわ」

 返事をして、近くに用意された椅子に腰掛けて、ブーツの紐に手をかけた――ところでグレンが声を上げる。


「ストップ! カディス、ストップ!」

「なんだ?」

「ミッシュは女なんだぞ! 腕はまぁいいとしても、足は問題あるだろ!」

「何をいまさら……。グレンさん、何度も親方の触診見てきたでしょう?」

「そうだ、グレン。確認しなきゃいい武器選べねえだろ。特にこの嬢ちゃんの腕の筋肉の付き方は異常だ。同世代の冒険者だろうとこんなにしっかりとついているやつはいない。俺が見てきた中だとそうだな……勇者とその幼なじみのレオンぐらいか? だからこそちゃんと確認してから選ばねえとだろ」


 鍛冶師が直々に武器を選んでくれるというなら私に異論はない。それどころかそんな理由があるのであればむしろ大歓迎である。身体に合わないものを選んでも後々困ることになるし。


 なのになぜこんなにグレンは声を荒げているのだろうか?

 よりによって『女』という性別を強調して。


 私の今の服装はワンピースだ。それも王都にくるためにおめかしした一張羅である。数日間、同じ物から着替えていないとはいえ、不思議と汗臭さとか気持ち悪さはない。というかあれだけ酒を飲み、さらに酒場にずっと居続けたにも関わらず酒臭さすらないのは冷静に考えてみると不思議を通り越してどうなっているのだと突っ込みたくなるが、今は置いておくことにしよう。

 今大事なのはさすがにこの格好をしていて男と間違えられるということはないだろうということである。

 そんなことがあったら私は今すぐ怒りに身を任せてこの店を後にすることだろう。だがカディスが私の性別を勘違いしているという様子はない。


 だからおかしいのはグレンの方だ。

 この店に来る前も様子はおかしかったし、もしかしたらどこか調子が悪いのかもしれない。


 サブマスター代理のお仕事って大変なのかしら?

 頭をいっぱい使うと疲れるものね……。


 カディスとクラネットの『お前は一体何を言っているんだ?』という訝しげな視線と一緒に、私はグレンに向かって『お仕事そんなに大変なのね……』という哀れみの視線を送るのだった。


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