14.
「あー、よく寝た!」
柔らかに差し込む日の光に照らされ、気持ちよく起床する。
ぐっと大きく背伸びをすると身体がバキバキっと音を立て、すっきりとした目覚めを迎えることが出来る。
今日も快調。眠気もバッチリ吹き飛んで、さて着替えて畑仕事へ! と気合いを入れてベッドから這い出る。
そしてあれ? と首を傾げる。
なんで私、洋服着たまま寝てたの?
それにこのベッド……一体誰の?
シンプルに白で揃えられた寝具に全く見覚えがない。
私のじゃないし、ましてやレオンのでも、兄ちゃんのでもない。父ちゃんと母ちゃんのに至っては大きさが全然違うし……。
そして一番大きな問題は『ここは一体どこか』である。
ベッドどころか、机やハンガー、本棚と必要最低限の物しか置かれていない部屋にすら見覚えがないときた。
昨晩の記憶があるのは途中まで。お酒飲んで、ご飯食べて~と途中から記憶が薄らいでいく。正直、どこまでが現実で、どこからが夢なのかも分からない。
けれど確かに言えることは、知らない人について行った記憶など全くないと言うことだ。
いくら睡魔に襲われていたとはいえ、その手のことに関する判断力は鈍っていなかった、と信じたい。
だが今、私は全く知らない場所にいるわけで……。身代金目的の誘拐とかだったらどうしよう……。
あんだけ飲み食いしていれば、お金持っていると勘違いされてもおかしくはない。だけど実際、私は昨晩とその前と、銅貨一枚たりとも払っていないのだ。お財布は潤っていると言えるだけの金額はお財布に残ってはいるが、さすがに毎日あれだけ外食するだけのお金はない。
そもそも貴族様でもあるまいし、そんなお金はうちにはない!
レオンが帰ってきたら多少は報奨金とかもらえるかもしれないけれど、それはレオンとレニィちゃんの結婚式や新婚生活に使われるものだ。決して姉なんかに使われることはない。それにレオンならきっとこう言うはずだ。
『姉ちゃんなら、料理以外のことなら大抵なんとかなるって』――と。
何かあると必ず言われたこのレオンの言葉を信じて、行動してみるべきかしら?
手足に拘束道具などは一切見あたらず、ベッド自体もごくごく普通のもの。服には切りつけられたりした痕はない。窓には柵などは付けられておらず、遮るもののない外の景色も見える。確認してみればどうやら鍵もかけられていないらしい。ドアの方は確認していないが、誘拐されていた場合、見張りが立っている可能性も高い。
つまりここは音を立てずに窓から逃げるのが吉!
外に誰もいないことを入念に確認し、ゆっくりと窓を開く。そして目の前の木との距離を確認して窓から飛び移る。
ガサガサっと想像以上に大きな音が立ってしまったが、どうやら部屋に誰かが踏み込んでくる様子はない。
だからと言って、ここで安心して木の下に降りるのは得策ではない。
まさかここで昔、父ちゃんの隠していたおやつを盗み食いしたのがバレて逃げ回ったことが生きてくるとは思わなかった。
真っ先にレオンが捕まって、怒られているのを見てからは一層捕まるものかって息を潜めて逃げ隠れたものだ。
あの時は結局、空腹に負けて出てきたところを捕まったのだが今回はそんなヘマはしない。
なにせ相手が誰かわからないのだ。父ちゃん相手なら怒られて、ペナルティとして何かを課せられるだけだが、そうはいかないだろう。
木の中で葉や枝に隠れながらただただじいっと息を潜めて、先ほどまで自分がいた部屋を見つめる。ここが王都であろうとなかろうと、村以外の場所である以上、私に地の利はない。下手に逃げても無駄である。それどころか仲間でも呼ばれたら大変だ。
まず先に誰が入ってくるか。また、それは知っている人物かをまず見極める必要があるのだ。獣相手でも人間相手でも、まずは相手を知らなければ対処が出来ない。
こういう時こそ落ち着きべきよ、ミッシュ……。
枝にへばりついて誰かがやってくるのをしばらく待つ。
――そしてやってきたのは想像もしていなかった人物だった。




