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13.

「ふぁぁぁ、っふ」

 口から出てきた大きなあくびをかみ砕く。

 けれどもう睡魔は私を眠りの世界に誘う気満々のようで、頭がぼやっとしてきた。


 あの後、カウンターの三人組や他のお客に勧められるがままにいろんなお酒を飲み続けた。

 頼まずともやってくるおつまみを摘まんでいると、また増えて、また平らげて……の繰り返しであった。


 途中でルカさんの「また明日も買い出しにいかないと……」という嘆きと降参の合図が出されるまでずっと……。


 だがもう物がないと分かり、周りを見渡せばそこにいたのは寝伏せっている男ばかりであった。

 昨日に引き続きの酒盛り。それに彼らは昼間は仕事をこなしていたようだ。そこに酒が入ったとなれば眠くなるのも無理はない。



 それに私だって、昨日も寝たのはほんの少しだけ。その前だって寝たのはもう結構前のことだ。

 思えば村から一日近く馬車に乗り続けて、城で兄ちゃん達に会って、王都でおみやげ物と武器を探して、帰ろうと思ったら馬車がなくて、なんだかんだでギルドにやってきたら始まったのは酒盛り……。


 疲れていたのに全く身体を休められてはいない。

 頭が興奮状態で、気を張っていたというのもあるのだろう。

 今だってこんなところで寝ちゃダメだと訴えている自分がいる。だが眠さゆえか非常に弱々しい声である。

 それこそ、ここで寝なければどこで寝るんだ! という声にすぐさま弾かれてしまいそうなほど。


 帰る馬車はないし、そもそも私はしばらく王都からも出られない。

 しばらく住むところを用意してくれるらしいグレンは、いつの間にか酒盛りから逃げるように姿を消してしまった。


 何とも無責任な話である。

 もちろん、その話になった時点で詳しい話を聞いておかなかった私にも非はあるとは思う。

 キッチンの奥にいるルカさんに聞けば、グレンがどこに行ったか知っているかもしれない。だがもう……無理だ。キッチンで後かたづけをする彼女に話しかけるような元気はもう私には残っていない。



 眠い。限界なのだ! 仕方ない、諦めよう。

 どうせ昨日もここで寝たんだし、違うことと言えば前にグレンがいるか、カウンターの板があるかの違いである。

 隣では、くかーと気持ちよさそうな寝息が聞こえてくる。カウンターの三人組もどうやらここで一夜を過ごすことに決め、一足先に眠りの世界に旅だったらしい。彼らの寝顔を眺めているともう一度、私の元へあくびが襲来してくる。


「はぁああっふ、寝よ」

 もう今度はかみ砕くことなく、受け入れることにした。

 だって眠いし。細かいことを気にしても仕方ないし。


 そして私は彼らに倣うように、そのままカウンターに突っ伏すように眠りについたのだった。






「ミッシュ、ミッシュ」

 意識の遠くで私を呼ぶ声がする。


 男の人の声?

 でも父ちゃんでもレオンでもない。

 これは……兄ちゃんだろうか?


 意識を浮上させて、枕にしていた腕から少しだけ顔を上げる。けれど目の前にあるのは何かの板である。

 いないのなら、と再び顔を埋めたいところだが「ミッシュ」と呼ぶ声はお隣から聞こえてくる。そりゃあ前を向いてもいないはずだ。そう分かってはいるのだが、視線を横に向けても見えるのは私の栗色の髪だけ。


 だからといって、首をひねるのは面倒臭い。

 仕方ないとあくび混じりに用件を尋ねてみる。


「ふぁあに、兄ちゃん?」

 眠いから本当は後にして欲しいんだけど、こういう時に話聞かないと後で面倒なのよね……。


 今度は何だろうか?

 流星群? 隕石? 動物の求愛ダンス? それとも何か珍しい物でも見つけたとか?

 色々と眠い頭で考えてみるものの、いつものような激しい揺れが来ないせいか再び意識が眠りの世界へと戻ろうとする。それにつられて開きかけていた瞼もぴったりとくっついていく。


「兄ちゃん、ってな。ミッシュ、お前警戒心なさすぎだろ……。ってまぁいいや、こんなところで寝てると風邪引くぞ。奥の部屋のベッド、用意したからそっちで寝なさい」


 ベッド?

 寝ているところにわざわざ起こしに来てベッドって何?

 兄ちゃん、寝ぼけてるのかしら?

 まぁ兄ちゃんなら私が寝てても現地まで運んでくれるだろうし、このまま寝ててもいいよね……。目的地がベッドだと言うならそこまで運んでくれるはず……。難しいことは考えたくない。だって眠いんだもの、仕方ないわ……。


「着いたら起こして~」

「はぁ!?」

 耳元で大きな声がする。

 その声は何だか兄ちゃんのものと違う気がする。


 兄ちゃんの声って確かもっと低かったような? 

 まぁいっか、眠いし。後のことは兄ちゃんに任せよう。兄ちゃんには悪いけど、眠いのだから仕方のないことなのだ。


 起こされても起きる自信ないけど……と思いつつも、私は再び眠りの世界へと旅立つのだった。


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