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11.

 クラネットが出て行くと、グレンの機嫌が直ったことを察したらしい冒険者達がカウンターやボードの前に集まっていく。


「グレン、酒」

「ねぇよ! お前等が昨日飲み干したんだろ!」

「俺らじゃない。ほとんどはそこの嬢ちゃんが飲み干したんだ!」

「なら私、ジュースでいいわ。なんかのど乾いちゃった」


 早く、早くと急かすその姿は、先ほどまでグレンを避けていたとは思えない。避けていたというか、巻き込まれたくなかっただけなのかもしれないけれど……。

 グレンもグレンで「何で俺が……」と呟きつつも、しっかりと人数分のコップと飲み物を用意している。


「つまみはないけど、我慢しろよ」

「ルカが仕入れもしてくんだろ」

「ああ。ソフトドリンク以外は見事に空だからな……」

 グレンは冷蔵庫や棚をのぞき込んでから、フルフルと首を振る。

 買いだめが少なかった、訳ではないのだろう。

 あの場にいたほとんどの人が体格が良かったし、それに比例するように食べる量も飲む量も多かった。まさかコンラット村の外であんなに気持ちよく食事が出来るなんて思ってもみなかった。

 そもそも村の外に出たことなんて、片手で足りるほどなんだけどね。


 これを機に、ちょくちょく村の外に遊びに行くのも悪くないかもしれない。そう思うくらいに印象的な夜だった。

 グレンに継ぎ足してもらったジュースを飲みながら、少しくらいだったらここにいるのも案外悪くないのでは? なんてことを考え始める。


 どうせならこの機会に王都を、村の外を見て回るのも悪くないんじゃないかって。

 そんなことを考えていると、隣の三人は壁際に寄せられたイドラを見ながら酒盛りにはなれなかった何かを始める。


「いやぁそれにしてもイドラのやつ、こんな嬢ちゃんに負けるとはな~。Aランクに上がったの、間違いだったんじゃねえかぁ?」

「そもそもカディスのところの子どもに手をあげようとするところからしてバカだろ。この判断能力の低さは冒険者として致命的だぜ」

「人数合わせの面もあったんじゃない? マスターの不在は痛いけど、グレンの代わりなんて入れなくても、今のままでも十分だっていうのに……。マスターってば不安症なのね~」

「確かに、グレン一人くらい抜けたとこでな~」

「そうだな」

「ちょっと待て。お前ら途中から俺のことバカにしてないか!?」


 途中からなぜかグレンいじりになっているけど、この三人はどうやらグレンと仲がいいようだ。


「ん? 何をいまさら」

「お前がパーティーから抜けるのなんかしょっちゅうだしな」

「むしろお金に困ったときしかこないじゃない」

「っ……、それはまぁ確かに……」

「あの」

「なんだ、嬢ちゃん」


 話に割り込んでしまって申し訳ないとは思うものの、私は一つだけ、早めに解消しておきたい疑問がある。


「グレンってサブマスター? っていうのの、代理なんですよね?」

「ああ。こんなんだけどな」

「なのに強くないんですか?」

「っふ、はははははは」


 純粋に疑問に思ったことを聞いてみたのだが、男達は豪快に笑い出し、女性に至ってはバンバンと力強くカウンターを叩き出す。


 私、なんかおかしいこと言ったかしら?

 だがグレンが強くないというのなら、私は今後どうやってこの王都で生活するのかを考え直さねばならない。

 もちろん、グレンが強くなかったとしても、彼の肩書きである『サブマスター代理』がある程度は機能してくれるとは思うけど……。だがやはり心配なものは心配なのだ。


「ミッシュ、俺ってそんなに弱そうに見えるのか?」

「人は見た目じゃ分からないわ。それに私が知っているのは、グレンがお酒に弱いってことぐらい。だから聞いてるんじゃない」

「くくっ、嬢ちゃんの言う通り、こいつは酒に弱いな。だがこんなんでも強いぜ? なんて言ってもSランクパーティーの、俺らのリーダーだからな」

「リーダーのくせに最近めっきりクエストに参加しないけどね。これでも一応は強いのよ、一応は」

「お前ら……」


 散々な言いようにグレンはフルフルと身体を振るわせる。けれど先ほどのような冷気は一切感じない。仲間うちのふざけあいだからなのだろう。


 イドラはきっと、カディスにとっての地雷を踏み抜いた……。ギルド内の誰もが知っているような、彼の地雷を。


 私はそれが何か知らないし、正確には何か分からない。

 けれどそれにあのクラネットという名前の少年が関わっていることだけは何となく分かった。そしてグレンはきっとその特定の地雷さえ踏み抜かなければ、優しいままだということも。


 だからこそ、グレンは誰とでも距離が近い。そう、昨日会ったばかりの私とさえも。


 コップへと手を伸ばし、ああそう言えば飲み干してしまったのだと持ち上げてから思い出す。けれど持ったコップは想像するよりも重い。空ではなかったのだ。


 いつの間にか、コップには新たにお茶が注がれていた。

 グレンへと視線を向ければ、彼がちょうどその瓶をしまっているところだった。

 普段はカウンターの中にいないだろうに、なんてタイミングがいいのだろう。

 見ていないようで、結構人のこと見ているんだなぁと感心してしまう。


 グレンは私の視線に気づいているのか、いないのか、カウンターの3人とふざけあっていた。


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