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10.

「おい、イドラ。それはどういうことだ?」

 私と男の間に発生していたものが火花だとすれば、グレンが発しているのは冷気もしくは見えない氷柱である。

 それが一点、男に標的を定めて発せられている。ただ一方的に、獲物を逃がさないとでも言うように。


 この人がさっきまで酒につぶれていた男と同一人物だと、誰が信じるだろうか?

 その視線が私に向いていないと分かっていても、思わず背筋をピンとのばしてしまう。

 チラホラと仕事探しに来ていたのだろう、冒険者達はそそくさとギルドの入り口へと向かっていく。


 当事者の一人でもある私は逃げたくても逃げられないというのに……。残念ながら助けてくれる者は誰もいなさそうである。


「イドラ。お前、あの鍛冶屋が俺にとってどんな場所か、知らないわけじゃないよな?」

「そ、それは……その……」


 当事者である私は逃げることは出来ない。誰もが絶対零度に凍えてしまいそうな時だった――


「お届けにきました~」

 聞き覚えのある、高い声の主がやってきたのは。


「クラネット!」

 彼こそ昨日、あの鍛冶屋で自称Aランク冒険者に絡まれていた少年である。


「あ、お姉さん。昨日はどうもありがとうございます。助かりました! 冒険者だったんですね」

 クラネットと呼ばれた少年は昨日の男が目の前にいるというのに、ガン無視である。

 それこそ昨日の男と気づいていないかのように……。腕に抱えた箱をドンっと音を立ててから、この雰囲気をものとのせずにグレンへと話しかける。


「グレンさん。頼まれたもの、ここに置いておきますので」

 クラネットはそれだけを告げて、さっさと出口へと向かって歩こうとする。そんな彼をグレンは引き留めた。


「なぁ、クラネット」

「はい、なんでしょう?」

「お前さ。昨日、こいつに絡まれたか?」

 そう言いながら、イドラの首根っこを鷲掴みにしてぽいっと投げる。先ほどよりもいくらか声の低さはマシではある。

 けれどそれは決してイドラを許したからとかではないのだろう。


 クラネットは男が物のように投げられたことに疑問を持つことなく、マジマジとイドラの顔をのぞき込む。


「こんな感じだったような? 覚えてないです」

「覚えてないって……」

「そっちのお姉さんの方が印象的だったので。あ、そうだお姉さん」

「え? 私?」


 まさかこのタイミングで私に話が振られるとは……。

 思わず自分を指さして、本当にあっているのかと確認してしまう。

 するとクラネットはコクリと頷いてみせる。


「もしよければ普段使っている武器を見せてくれませんか? うちの親方が今度はお姉さんに買ってもらえるような武器作る、って朝からうるさくて……」

「えっと、武器は今、家に置いて来ちゃってて……」

 だから見せられないの、と続けようとすると、その言葉にグレンが言葉をかぶせる。


「この子の武器なら明日にでも見に行くから、カディスにいいもん作っておけって伝えておいてくれ」

「え、ちょっと何勝手に約束しているのよ!」

「どうせしばらくここで暮らすんだ。武器は必要だろ?」


 滞在するだけで武器が必要ってどれだけ物騒なのよ、とつっこみそうになる。

 けれどふと思い出すのは昨日の男達だ。彼らは弱かったから、体術だけでどうにか撃退できた。だが彼らよりもうんと強い男達、それこそ5人も6人もに囲まれたら終わりである。


 このギルドに居座ったり、グレンの側に居続けたりすれば安全なのだろう。だがずっとそうしている訳にもいかない。


 ならば護身用に短剣の一本でも持っておいた方がいいだろう。

 自分の身ぐらい自分で守れるようにならなければ!


 それに帰りの馬車の時間の兼ね合いであの店を出ざるを得なかっただけで、気にはなっているのだ。


「本当ですか!? 楽しみにしてますね!」

 はしゃぐクラネットの背中を見守りながら、私は再び武器を選ぶその時に心を弾ませるのだった。


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