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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

死因を喰らう死因使いは、気がついたら万能能力者になっていた【短編版】

作者: 桐亜


 運命とは、なんて残酷なんだろう。

 

 人間誰しも平等ではない。


 そんなことはわかっている。


 でも、これはあんまりだ。


 僕の運命は明らかに“平等”からかけ離れている。


 逃げても逃げても振り切れない“運命”


 それはまるで影のように、僕に付きまとう。


 決して高望みでは無いはずだ。


 夢を叶えたいだとか、宝くじを当てたいだとか、難しい事を願っているのでは無い。


 なのに運命は、僕に苦痛を強いる——————


 















 僕は逃げていた。



 「ハアッ、ハアッ、ハアッ」



 全身血まみれのまま、構うものかとただひたすら逃げる。




 「いや、だ。まだ………まだ僕は………!」


 痛いのは怖くない。だってもう慣れてしまったから。

 でも、死にたくない。

 死ぬのだけは、嫌なんだ。


 「どこだァァァァ!!」


 ああ、聞こえる。

 僕を苦しめる、死の権化の声が。



 どうして僕がこんな目に遭っているんだ。

 どうして僕がこんな目に遭わないといけないんだ。

 どうして僕をこんな目に遭わせるんだ。

 あんたは………家族じゃないのか。



 「やめてくれよ………」


 少年の父は拷問具を振り回して暴れまわっている。



 今までは痛めつけるだけだった。

 でも今日は、違った。

 あいつは僕を殺そうとしている。



 パン



 と乾いた音が鳴り響く。


 「いぎっ!」


 銃弾は少年のももを貫き、走力を著しく低下させた。

 だが、それでも捕まらないために足を引きずりながら進む。

 外にさえ出られれば逃げ切れる。

 そう信じて少年は逃げる。


 

 パン



 逃げ切れるわけがなかった。


 「があッ!」


 もう片方の足にも穴が空いた。

 両足とも、もう動かない。

 少年は膝をつき、崩れ落ちた。


 「ふーっ、ふーっ!」


 それでも進む。

 足が使えないなら手を使う。

 手が使えないなら体を使う。

 体が使えないなら頭を使う。

 少年はそうまでして生き延びたいのだ。


 「ぼ、くは」


 「つーかまーえたァ」


 「!!」


 その声が、少年をより一層焦らせる。

 死はゆっくりと確かに近づいていた。


 「どこ行くんだ………よォ!!」


 「ぁ」

 

 父親は被弾した場所を思いっきり踏みつけた。


 「い、っぎぃあああああああああ!!!」


 激痛に悲鳴を上げる。

 この悲鳴を聞いても誰もこない。

 誰か助けてくれるかもしれないという淡い期待も潰えた。


 「さぁて、帰ろうかァ」


 「嫌だァァ! やめろォォォ!!!!」


 バタバタと暴れるが、その抵抗も虚しく引き摺られて行かれる。


 「うっせぇ! 黙ってろ!」


 「ぎッ! あ、ぁ………いや、だ……」


 父親は少年の頭を掴み、壁に叩きつけた。


 何度も何度も何度も何度も、ぶつけて静かになった後、少年たちの家へ向かった。


 「………」


 薄れゆく意識の中、少年は思う。


 ここで、終わる。これから僕は家に帰って、殺される。

 願いも叶えられず、誰にも知られずに………死ぬ。



 あは、あはは、はははは、ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!!!!!!!



 頭の中が狂々廻る。

 扉の奥は地獄の底のそのまた地獄。

 

 この少年、不剛 志門はその晩、命を落とした。


 




 ——————僕はただ、普通に生きたかっただけなのに










———————————————————————————












 ——————声が聞こえた。


 不思議な声が。


 何もわからない。一体誰の声だろう。ここはどこなのだろう。


 けれど少年に違和感は無かった。

 むしろここは、今自分が居るべき場所だと認識している。

 しかし、呼ばれている、誘われている。


 ここは居るべき場所。

 でも少年はここに居たくなかった。

 だから少年はその声に縋る。

 何なのかはわからない。

 けれどそれは、その声は自分をここから連れ出してくれるものだと確信していた。



 虚ろな意識の中、声は少年に言う。


 ——————まだ生きたいのかい? 生に縋りたいのかい?



 まだ生きたい。まだ、まだ、果たせてないんだ。



 少年は声にそう言った。



 —————— そう。だったら来なよ。私が君をを連れ出してあげるからさ。それじゃあ差し当たっては君に一つ質問だ。なぁに簡単な質問さ。簡単で最も重要な質問。だからちょっと真面目に尋ねるよ。



 その問いは(終わり)を終わらせ、始まりを創る。

 果たしてそれは少年にとって、どのような運命となるのか。

 それは、全て少年次第。


 さあ、物語の始まりだ。




 ——————貴方の死因は何ですか?


 











———————————————————————————











 「ここは………」


 一体どこなのだろうか。

 シモンはボヤけた頭で考える。

 

 「暖かい………」


 今までに感じたことのないような温もりが全身を優しく包む。

 まるで、母親に抱かれたような安心感。


 「………母さん」




 「ハァ〜イ」


 パチクリと目が動いた。


 ナンダコレ?


 いきなり声をかけ、頭上に現れた何かと目があったシモンは、


 「うぉおおああああ!?」


 驚いて後ずさった。

 シモンはクマなのかどうか怪しい着ぐるみをきた奴に膝枕をされていたのだ。


 「ななな、何、なぁ!」


 「ちょっと落ち着きなさいな」


 声は女性のものだった。

 しかし、シモンには聞き覚えのない声だ。

 

 「焦っても人生いいことないわよ。あ、もう死んでるんだっけ?」


 「………死?」


 死

 死

 死

 死

 死。死んだ ぼく なんで 父さん 暗い 痛い 怖い。

 しんだ。

 


 「うっ………! おぉぅうぇえええええ!!!」



 自分が死んだ瞬間を思い出し、嘔吐してしまう。

 そう、シモンは自分の父の手によって殺されている。

 記憶はここで完全に元に戻った。


 「あらまぁ、思い出しちゃった? ゴメンねぇ、それは辛かったでしょう」


 それは決して他人を気遣う時の話し方では無かった。


 「ハァ、ハァ、うっ、ぷ………」


 無理もない。

 ()()()死に方をしたのだ。

 誰でもそうなる。

 しかし余計に状況がわからなくなった。

 今何故ここのいるのか。

 ()()()は?


 「………ここは、あの世ですか」


 死んだと言う事は生きていない。

 つまり、ここはシモンの生まれ育った故郷ではないのだ。

 それで意識があって、このような状況なら、天国か地獄くらいしかないとシモンは思ったのだ。


 「あの世かぁ。うーん、当たらずとも遠からずね」


 「え?」


 どう言う事? 僕は死んだはずじゃあ………


 思い返すが、思い返すほど自分が死んだと、シモンは強く感じる。

 ならば、ここはどこなのだろう。


 「あ、あの………」


 「ちょっとタンマ。もう少しで来るから」


 「来る?」


 「あ、来た来た」


 着ぐるみがそう言った瞬間、空中からいきなり女が出てきた。


 「なっ!」


 シモンは突然の事態に驚愕した。

 自分の常識から外れたことが起きたのだ。


 「よっと」


 着ぐるみは今度、その女を膝枕した。


 「いやいやいやいや! 何してるんですか!」


 「あらいい反応。百点」


 「やかましいわ! なんで膝枕してるんですか! びっくりしちゃいますよ!?」


 「それが、私の使命だからよ!」


 なんて奴だ、とシモンは思った。

 そしてなんてタチが悪いんだ、とも思った。


 「ちょい待ち、この子で()()だから」


 「最後? 僕たち以外もいるんですか?」


 「へぇ、なかなかどうして感がいい。そうよ。まだたくさんいるわ」


 たくさんいるとは思っていなかったが、予想通り人はいるようだ。


 「だから」


 「!?」


 ぐらりと景色が歪む。

 何もかもが屈折しているように見え、着ぐるみの声もおかしな感じに聞こえた。


 「もウ少シ、ねムッ、てテ、ne」


 もう少し眠っててね。そう言ったと理解したのは、しばらく後だった。











———————————————————————————








 「………ん」


 なんだ? 頭がぼーっとする………そうだ、あの時僕は確か眠らされて………


 シモンはボヤけた頭で今状況を整理する。


 「あ! 起きた!」


 頭上から元気のいい声が聞こえた。

 さっきの着ぐるみか? とシモンは思ったが、どうやら違うらしい。

 さっきよりずっと若い声だった。


 「人だ………」


 彼女が言った通り人がいた。

 人数は5人。

 男2人、女3人だ。


 「起きたよ!」


 さっきから大きな声を出しているのはシモンが眠ってしまう前に着ぐるみに膝枕されていた女だ。


 「ウルセェ、騒ぐな」


 そう言ったのは強面の中年だった。


 「まあまあ、そう言わずに。気がついたみたいだね」


 「やっと起きたのぉ? おっそいわねー」


 声の主は爽やかそうな短髪のイケメンと金髪で制服姿の女だ。


 「………」


 一人だけ何も言わなかった。

 ポニーテールの女でシモンと同じくらいの歳に見える。


 「あの………ここは?」


 「ん? わかんない」


 元気の良さそうな女がそう言った。


 「起きたらここにいたの。その時にはこの4人と寝ている君がいたよ。あ、私は海野 優姫ね。よろしくー」


 「あ、はい。僕は不剛 志門って言います。よろしくです」


 なんとなく挨拶を交わした。

 人と会話をしたことでシモンは少し落ち着けた。

 

 少し落ち着けた。たくさんいるって言ってたけど、5人しかいない。ここ以外にもいるのか? そもそもここにいる人って………ん? 海野 優姫? どこかで………あ


 「あの、もしかしてアイドルのヒメリンって言う芸名で活動してましたか?」


 「あ! 知ってるの? 嬉しいなぁ。そうだよー。ヒメリンだよ」


 海野 優姫。

 ここ数年で人気が急上昇したアイドル、ヒメリンの本名だ。

 歌とダンスの上手さとそのルックスから一躍有名になった、今最も人気のアイドル。

 しかし、


 「でも確か、鉄骨事故で亡くなったって………あ」


 そう、ここにいるのはみんな死んだ人間だ。

 当然シモンも。

 この中には新聞やテレビで記事になっていた人物もいた。

 あの金髪の女子高生は別れた彼氏にロープで首を絞められて殺されたと書かれてあった。


 「あれは事故じゃないんだよ。私のストーカーにね、落とされちゃったの」


 「じゃあ、殺されて………」

 

 もしや、とシモンは思った。

 ここにいる全員の共通点。

 それは誰かに殺されたと言うことだと。


 「………皆さん、誰かに殺されたんですか?」


 「俺は違うよ」


 そう言ったのは爽やか風な男だった。


 「自己紹介がまだだったね。俺は工藤 悠人。シモン君でいいかい」


 「はい、大丈夫です、工藤さん。えっと、違うって言うのは?」


 「僕はね、仕事で電線の修理をしていて、その時感電死してしまったんだ」


 「………すみません。そんなことを聞いてしまって。海野さんも申し訳ないです」


 嫌なことを聞いてしまったと思い、シモンは謝罪する。


 「別に気にしてないよ」


 「そうだよー」


 二人もと気にしていなかったようだ。


 「おい、さっきからピーチクパーチクやかましいのお。ダァッとれや!」


 「………すみません」


 シモンは心の中で、


 うわぁ、この人絶対ヤクザ関係の事件で亡くなったに違いないな。


 と、思っている。


 「んだよここは! 早よこっから出せや!」


 ヤクザ(風の男)は我慢できなくなり、暴れだした。

 だが、わからなくもない。

 みんなそう思っていた。

 


 「ヤッホー」


 全員バッと後ろを振り返った。

 そこにいたのは例のクマの着ぐるみだ。

 

 「な、なんだテメェ!」


 「着ぐるみ!?」


 「あはは、ウケるわー」


 「おお、クマさんだー」


 全員様々なリアクションをとっていた。


 「さてさて、ようやく揃ったね。自己紹介とかしたのかな?」


 クマの着ぐるみは軽い口調でそう言う。


 「おい! テメェが俺たちをこんなとこに閉じ込めたのか? あぁン?」


 ヤクザが威圧感たっぷりにクマの着ぐるみに迫る。

 しかし着ぐるみはそんなヤクザを気にする事なく

 

 「やれやれ、自己紹介は出来てないみたいだねー。それじゃあ私の方からチャチャっと言っちゃおうか」


 と、全員の紹介を始めた。

 紹介と言っても、名前だけの簡単なものだった。


 まず、ユウトとユウキの紹介をして、次に金髪の女子高生の名前が明らかになった。

 彼女の名前は桃園 真矢。


 次はヤクザの名前だった。

 彼の名前は、岡崎 源蔵。


 最後はあの無口な女だ。

 彼女の名前は白雪 沙彩。


 「ま、こんな感じかな」


 「おい、無視すんなや!」


 未だに騒いでいるゲンゾウ。

 そろそろシモン達イライラしてくる頃だった。

 ものすごい形相で着ぐるみを睨むゲンゾウ。

 威圧感は半端じゃなかった。

 しかし、


 「煩いなぁ」


 この着ぐるみから発せられる威圧感は、





 「静かに出来ないかなぁ」



 


 ゲンゾウのそれとは比べ物にならないものだ。

 いや、それは威圧感と呼べる様なレベルでは無かった。

 もっと、絶対的な何か。

 

 故にその場は一気に静まりかえる。


 「はぁあ、こうなるから威圧するのが嫌なのよ」


 クマの着ぐるみは大げさに肩を落とした。

 すると、


 「あの、着ぐるみさん」


 シモンは着ぐるみに恐る恐る尋ねた、


 「はいはい、何かな? 少年」


 「結局、ここは一体なんなんですか?」


 これはここにいる誰もが知りたかった問題。


 「そうだった、そうだった、説明するんだった。いやぁ、私としたことが」


 照れているのだろうか。

 着ぐるみなので分かりづらい。


 「それじゃあ教えてあげよう。ここは君たち風で言うなら」


 その口から出たのは、この世でもあの世でもなかった。


 「異世界さ」


 シモンは突拍子もない話に唖然とした。


 「異世界、ですか?」


 「そうよ、異世界。ライトノベルやらアニメやらで流行ってるあれみたいな感じ。君たちの世界とは異なる場所に、いや、異なる空間にある世界。本来は干渉しないはずの世界よ」


 小難しい。

 完全にわからない訳ではないが、完全にわかる訳でもない。

 

 「なぜ、僕らをこんなところへ呼んだんですか?」


 「呼んだ?………ぷっ、あっはっはっは!」


 クマの着ぐるみは突然大声で笑い始めた。

 何がおかしかったのか、シモンは理解出来ない。


 「何で笑ったんですか?」


 「いや、それはもう勘違いとかそういうレベルじゃないわね。ふふ、もう逆よ、逆」


 「逆?」


 「そう、逆。私があなた達を呼んだんじゃない。あなた達がこちらへ来ることを望んだのよ」


 「は!?」


 身に覚えがない。

 それはシモンだけに関わらず、全員そうだった。

 

 「望んだと言っても、無意識にね。死の間際に思ったでしょ? 生きたいって」


 「そんなの当たり前………」

 

 「当たり前じゃないんだなぁ、これが。人ってね大抵最終的には、死を受け入れちゃうんだよ。でも稀にそうじゃない人がいる。それが君たちよ」


 ビシッと指を指す着ぐるみ。


 「君たちは選び、そして、()()()()


 「一ついいかい?」

 

 ユウトが尋ねる。


 「いいわよ」


 「ここに来た理由はわかったけど、俺たちがこんな何も無い場所にいるのはどうしてだい?」


 確かに。

 ここは一体何なのだろうか。


 「選別ね」


 「選別………選んでるんですか? 死者を」


 「そうよ。この世界で生きるに値するかちょっとした試練を与えるの。そろそろ頃合いね」


 クマの着ぐるみがそう言った瞬間、白い空間が裂け始めた。


 「こっ、これは?」


 「ここは待機室みたいなものよ。これが済んだら見えるわよ」


 裂けた場所から光が差す。

 見覚えのある光。

 太陽の光だ。

 徐々に青空が広がっていき、全て終わると、それは見えた。


 「なっ………!」


 シモン達が今までいた場所は、天高くそびえ立つ塔の頂上だった。


 「ここは“境界の塔”。生者となるか死者となるか、それは全て貴方次第」


 「境界の塔………」


 シモンは当たりの見回す。


 僕らがいるこの場所………同じ高さに雲が見える。種類は層雲。ならこの塔の高さは、


 「2000mの塔?」


 そう呟いた。


 「に、2000m!?」


 ゲンゾウは端の方まで走って下を覗き込んだ。

 みるみる顔が青くなっていく。


 「嘘だ………おい! こんなとこから落ちたら死んじまうだろうが!」


 「飛び降りろ何て言ってないわよ」


 「じゃあ、どうやって下りンだよ!」


 「ここからよ」


 すると、床に大きな穴が空いた。

 人が余裕で入る大きさの穴だ。


 「あ、ちなみにここにはバケモンやらトラップがうじゃうじゃあるから気をつけてね」


 「化け物って、そんな無茶苦茶な………」


 異世界で化け物と言えばモンスターである。

 しかし、この中でそんな奴とまともに戦えるような人間は一人もいない。

 生前ヤクザだったゲンゾウでも歯が立たないだろう。

 シモンはそう思った。


 「だ・か・ら、君たちにはプレゼントがありまーす」


 「プレゼント? ハッ、拳銃(チャカ)でも出てくんのかよ」


 平然と言ってるあたり、日常的に使ってたんだなと思った。

 でも確かに銃があれば対抗できるかもしれない。


 「あっはっは、拳銃(そんなもの)よりもっとずっと良いものよ」


 「なに?」


 ゲンゾウは眉をピクリと動かした。

 拳銃より良いもの。

 その一言で、シモン達は期待を膨らませた。


 「な、何ですかそれは」



 「君たちは自分がどうやって死んだのか覚えているかい?」



 「何の話………」


 ユウトがシモンの肩に手を置いた。

 余計なことを言わないほうがいいと言うことだろう。



 「死に方と言っても人それぞれ。老衰もあれば、自殺や他殺もあるし、人は色々な要因で世を去っていく」



 その瞬間着ぐるみがボロボロと剥がれ落ちていった。

 足元からゆっくりと、少しずつその姿が見える。

 着ぐるみから現れたのは、


 「女だ………」


 中から出てきたのは今まで誰も見たことがない様な美女。

 その美貌はこの世のものとは思えない神秘さと言い得ぬ恐ろしさを感じた。



 「その“死因”は己の魂に刻まれ、それをあちらで洗い流して、人は再び生を受ける。しかし、」



 女はゆっくりと歩き始めた。



 「あちらで洗い流せないものがある。それは俗に言う未練というやつだ。そんなものが残ってしまったら人は生まれ変われない。本当に未練のある人間は数少ない。それでも確かに存在する。己の運命を呪いながら生にしがみついている者が」



 それはここにいる6人の事だ。

 皆、それぞれの事情で生きることを諦められなかった人間だ。



 「だから、こうする事にした。未練がある者には再び生を与える。ただし、そこで死ねば転生は叶わない。その魂は永遠に失われる」



 「!?」


 永遠に失われる………つまり、生まれ変わって幸せな人生をつかむ可能性があってもそれがパーになると言う事。


 「それって………」


 「だからね、覚悟を決めなさい。ここで諦めて生まれ変わるのか、それとも、己の魂を賭けて生きるのか」


 これはかなり重要な問いだった。

 かかっているのは可能性。

 ここで選択を間違える事は許されない。

 しかし、


 

 「「やります」」



 一斉にそう答えた。

 ここで生を諦められるのならこんな場所にはいない。



 「わかったわ。そこで最初の質問だ。君たちは自分がどうやって死んだのか覚えているかい?」



 「「………もちろん」」


 むしろ、最も鮮烈に覚えている筈だ。

 人生で一度の体験。

 死を。


 「そうだろうね。死というものは否応無く魂に刻まれる。それがどんな死に方でも。この世には様々な死因がある。例えば老衰、例えば自殺、他にもたくさん。しかし、ここで言う死因は、少し意味が違う」


 女は手を広げる。


 「普通、死因という言葉は、死の原因という意味だ。失血や臓器不全など、一つの事を言ってる。だがここでの“死因”は死の要因、つまり失血は失血でも、ナイフの刺突による失血といった具合にね。しかし、要因によってはその逆もまたあり得る。プレゼントというのは()()


 「それ?」


 全員、全く意味がわからなかった。

 しかし、すぐ知る事になる。

 ()()の恐ろしさを



 「君たちには贈るのは“力”。そう、それは——————」


 その力は、呪い。


 魂に刻まれし彼らの因果。

 

 それは、


 「因を具現化する力。それが君らへの贈り物さ」


 「!」


 その瞬間、シモン達になにかが流れ込む。


 「さぁ、受け取りなよ。これが、力という物だ!!」


 





———————————————————————————








 熱い、これは一体何なのだろう。


 何かが見える。


 これは………記憶だ。



  薄暗い部屋。

 見えるのは傷だらけの少年と、その少年に返り血を浴びた男だった。


 部屋には血と、拷問器具が散乱してあった。


 「シモーン。起きたー? いやぁ、そろそろお前を痛ぶるのにも飽きたんだよなぁ」


 シモンの父親はシモンにそう言った。

 彼は病気といって良いほど嗜虐趣味で、毎日シモンを拷問していた。


 「………!!」


 そんな父が飽きたという事はもう拷問はされないだろう。

 しかし、それは、開放ではなかった。


 「だァかァらァ、最後ぐらい今までにないくらい楽しいいい事をしないとねぇぇぇ!!!」


 「むーっ! むーっ!」


 シモンはバタバタと体を揺らす。

 しかし、動くのはもちろん、猿轡のせいで喋る事も出来ない。


 「そこで、」



 父親が奥から持って来たのは檻。

 そしてその中には


 「………………!!」


 「今からこの猛獣たちにィ、お前をォ」


 父親の顔は今までにないくらい歪んだ。


 「喰わせまああああああああす!!!」


 「むぐーっ! むーっ! むーっ!」


 「ぎゃはははははははははははははははははははははははははははははは!!!!!!」


 この父親は息子を息子と思っていない。

 妻も、もう一人の息子も、痛ぶって、その挙句に死んでいる。

 シモンは檻に引っ張られる。

 拘束と猿轡は解かれた。

 それは抵抗する姿を見るため。

 悲鳴を聞きやすくするためだ。


 「嫌だあああ!!! やめて下さい! 父さん!」


 「はいドーン」


 シモンは突き飛ばされ檻の中に入る。


 「じゃ、頑張って抵抗してみろや」


 シモンは抗った。

 中にいる獰猛な獣に喰われないために精一杯抵抗した。

 それでも、


 「いぎぃぃぃぃ!!!」


 右足を噛みつかれる。

 ももの部分が完全に喰われ、崩れ落ちた。

 そこからは一気に展開が進んでいった。


 バタバタと動いている手や足から順にゆっくり千切られていく。


 「ああああああああああああああ!!!!!」


 痛い、

 痛い、

 痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!


 シモンは徐々に喰われ、四肢が完全になくなった。


 「はーっ、はーっ、はーっ!」


 「いい! 素晴らしいぞ! シモン! やはりお前は最高だ!」


 それでもなお、絶命するどころか、気を失うことすら出来ない。

 

 「さあ、フィニッシュだ!」


 「や、やめろ」


 獣はゆっくりと迫ってくる。


 「やめてくれ………!」




 喰われる。


 痛みは徐々に痛みではなくなり、感覚が狂っていく。


 脳が、だんだん、まともな、しこう、あれ?


 なにこれ??


 いたい? いたくない? あ? え


 くらい、あああ?


 あ、しんだ。



 僕はこの時死んだ。

 ああ、そうか。

 これが力なのか。


 シモンはその能力を理解した。

 そして誓った。










———————————————————————————










 「能力は得ただろう?」


 誰もなにも言わない。


 「今からするのは殺し合い。塔攻略の前哨戦だ。2人。2人死ねば残りはクリア」


 みんなその言葉がスッと落ちて来た。

 そして納得し、お互いににらみ合った。


 「生き残りたければ奪うしかない。君たちがいるのはそういう世界だ。敗者は永遠の終わりを抱いて消失し、勝者は願いを果たす。さぁ、夢を叶えよう(殺し合おう)じゃないか!」


 一斉に武器を出した。

 1人は銃を構えている

 1人は鉄骨を抱えている

 1人はメスを握りしめている

 1人は鞭を振り回している

 1人は床に手を当てている

 

 だが、なにもしていない人物が1人。


 シモンだ。



 「試合開始——————」



 「「うあああああああああ!!!!」」

 

 戦いの火蓋は切って落とされた。

 転生者達は檻から解き放たれた獣の様に雄叫びを上げる。

 だが、それは所詮己を鼓舞している人間だ。

 獣の真似をする人間。

 ただ1人を除いて。


 「「!?」」




 「ウオアアアアアアアアアアアアアア!!!!」




 彼の力は己を喰らった獣の呪い。

 故に、その獰猛さは誰よりも獣に近い。

 思わずそれがいるのだと錯覚する程である。


 「う………!?」


 そして一瞬の隙が生まれる。


 シモンは横にいた、ユウトに飛びかかり、腕に噛み付いた。

 突然の奇襲で鞭を打てなかったのだ。


 「ぎィッッ!?」


 咀嚼。

 血生臭くて柔らかく、生暖かさに思わず顔を顰める。

 だが、不快ではない。

 何かが再び、体の中へ入っていった。



 ——————熱い、これが僕の能力。

 僕は生き延びるんだ。

 絶対に。




 「ごめんなさい。あなたに恨みはないけれど、殺します。僕は——————」




 シモンの手には、悠人が鞭があった。


 これは、喰らった相手の能力をコピーする能力。

 シモンは喰らい続け、殺し続けることでより強くなる。




 









———————————————————————————












 「………」


 夥しい数の尸。

 シモンはこれら全員の能力を手に入れた。

 そして、この塔最後の敵が目の前に。

 何も変わらない。

 喰らって殺すだけ。




 「くそっ、くそっ! 化け物め! もう俺は死にたくないんだ! 頼むよ! 見逃してくれよ!」


 

 シモンはスッと手を挙げると、万の剣が宙に浮かんだ。

 そして、億の銃弾が敵を囲んだ。


 「貴方も、僕の糧になってください」


 「うわあああああああ!!!!」

 

 男は手に持ったマシンガンを連発する。

 しかしシモンは、バリアを張り、それら全てをはじき返した。


 「………………!!」


 あまりの理不尽さに絶句する。

 シモンは放心状態の男に向かって指を鳴らした。

 すると、床から磔の様なものが現れ、男を縛り、吊るした。


 「うわっ!! わあああああああああ!!!!」


 どうにか逃げようと体を捻るが、その抵抗も虚しく、一切解けることなく、男の体を縛り付けた。

 そして、



 「嫌だあああああああああ!!!!」


 「死ね」



 無数の刃と弾丸が空を飛び交う。

 その中心では鮮血が飛び散り、肉を刻み、腑を突き破り、悉くを蹂躙された男の無惨な姿があった。



 これで、シモンは塔をクリアした。

 空を仰ぎ、大きく手を広げる。


 「終わったよ。もう僕は自由だ。だから、今度こそ僕は掴むんだ」


 仲間達が後ろから現れる。

 シモンは彼らと異世界を旅する。

 そして、いつか夢を叶えるためにこの力を振るい続けると誓った。

 

 それは小さな夢だ。

 何も持たなたい少年が、ただ一つ持つ希望。

 それが、


 「幸せを」


 幸せに生きること。


 ただ、それだけだ。

タイトル変更につき、ラストを変更しました。

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