よくわかんねーよ!!
「わけわかんね!」悠平
「早く帰ろーよ」茜
「全然、帰らしてくれねーんだよ」悠平
「本当に、もぉーう!」茜
「待ちぇよう!! テメーにんげんるんじゃんねえいよんす(待てよ!! テメー逃げるんじゃねぇよ)」と暴走族の集まりの中に補助付きのチャリンコに乗った不良が俺を怒鳴って引き留めた。
「なんだって!?」と俺は耳を向けて返事をした。
「にんげんるんじゃんねえいよんす」と赤い学ランを着たオールバックでハチマキをした眉毛のぶっとい不良がメンチを切りながら言った。
「ワンモア」
「おもうえのたいでがあるすぎるから、すげぇー、むかとおいた(お前の態度が悪過ぎるから、凄い、ムカついた)」
「なんだって!?」
「おりはかさりつめいぜ(おれはかなり強いぜ)」
「なんだってよ!? わからんよ」
「にぉい、にぉい、そんささ、まにくなあおをすせよう、はかじゃらいのか? ハハハハ(おい、おい、そんなさ、まぬけな顔をしてよ、馬鹿じゃないのか? ハハハハ)」赤い学ランの不良が笑うと、上と下の前歯が合わせて10本近くも抜けていた。
「わからんよ、わからんなぁ。どこの国の言葉だろう? アトランティス大陸と深くて強い関わりがあるかもわからんね。このイントネーションからすると」と俺は目を閉じて耳を澄ませた。
「きねよ、かみからをさえたろによ、すぐおいきげるがよかんまのによ、てめいのへいで、ひふんからいらしにあった(きのう、髪型を変えたからよ、凄い機嫌が良かったのによ、てめえのせいで気分が台無しになった)」と赤い学ランの不良がメンチを切りながら言って補助付きのチャリンコから颯爽と降りた。
「なんだろう? 本当になんだろう?」
「たっきさらまなずれずれまれるんら? あ!!(さっきから何ジロジロ見てるんだ? あ!!)」
「歯を入れてから、ちゃんと喋れよ」と俺は自分の歯を指差して話した。
「するは、するは、そめませんね。だうもそめませんね。なれやらっへ!!(それは、それは、すみませんね。どうもすみませんね。なめやがって!!)」と赤い学ランの不良がメンチを切りながら威嚇した。
俺と茜は無視してカナリア公園から出ていった。
「にんげんるんじゃんねえいよんす! にんげんるんじゃんねえいよんす!」と後ろから赤い学ランの不良が怒鳴りながら言った。
俺と茜がカナリア公園から出ていくと、俺は驚いて立ち止まった。5メートル先の道路を母親と弟子志望の不良たちが全力疾走で横切っていく姿が見えたので俺は向きを変えて別な道から逃亡を図る事にした。
茜は首を傾げて俺を見ていた。
「悠平、どうしたの?」茜は俺を見上げていた。
「茜、今さ、母ちゃんが通り過ぎたんだわ。事情があってね、俺、逃走中」
「喧嘩しているの?」
「いや、していないよ」
「謝りなさいよ」
「いや、俺、学校をサボったからヤバイの。謝ると怒りが増すから冷めるまで逃げなきゃならん」
「サボっているから怒られるんでしょう? 早めに頭を下げた方がいい」
「あっ!!」また5メートル先の道路を横切っていく弟子志望の不良と母親の姿が見えたので、俺は別な道から逃げようと向きを変えてみた。
「にんげんるんじゃんねえいよんす!!」と赤い学ランを着たオールバックの不良が補助付きのチャリンコを懸命に漕いで俺の前に来た。
「うるせー!! 今、それどころじゃねぇーんだよ」と俺は赤い学ランの不良の頬っぺたをビンタした。
「いつ〜! てへー! なぐるたな?(いて〜!テメー!殴ったな?)」
「やんのかよ」と俺は赤い学ランにメンチを切って言った。
「やふのか?」
「なめんなコラ!!」
「へめーが、なれんな!!」
「うるせーバカ!」
「へめーが、うれへ!!」
「やんのかコラ!?」
「はんのか!? ほら!?」
「クソバカ歯抜けウンコ」
「はんだと!? ちぇめー」
「クソバカ歯抜けウンコ」
「はんだと!? ほらー!?」
「クソバカ下痢ウンコ」
「へめー、ふっとばふ!!」
「クソバカ鼻くそウンコ」
「おいおい待てよ!!」
とカナリア公園からまた馬鹿がしゃしゃり出てきやがった。
「坂上、戻れ!!」と今度は黒いジャケットに白い短パン姿の不良が出てきた。
「あかりたした(わかりました)」赤い学ランの不良、坂上が頭を下げると補助付きのチャリンコに股がって公園に引き返していった。
「俺の名前はな、岡崎太蔵だ。このグループのリーダーだ」
「ここのリーダーに相応しいのは絶対によ『めそしるき』だろうがよ?」悠平は太蔵にメンチを切って言った。
「もちろん、そうだ。めそしるきさんはトップ中のトップで会長と総統を兼ねている。めそしるきさんの親は綿と豚の兼業農家をしていて金持ちなんだ」
「だからなんだよ」
「めそしるきさんの親がこのグループのスポンサーなんだ」
「スポンサーって何だ? 暴走族にスポンサーなんか付いていてヤバイよ」
「暴走族ではない。ツーリングクラブをしている」
「バレる嘘を言うな! 喧嘩を吹っ掛けてきたり、リーゼントやスカジャンや補助付きのチャリンコがあれば一目で暴走族だろ?」
「『〈暴〉れたような夏の風に向かって〈走〉りながら青春を感じてたいだけの家〈族〉の物語』がスローガンのツーリングクラブなんだよう! ヘイ、メーン」と太蔵は悠平にスローガンが書かれたチラシを手渡して最もらしく説明をした。
「ボールペンでヤマカッコを濃く書いてある言葉を合わせたら暴走族じゃねーかよ!」
「確かに客観的に見たら周りは皆俺たちを暴走族と思うかもしれない」
「暴走族なんだよ」
「仲間に入らないか? 友達になろうよ」
「めんどくーせから、嫌だね。おい、あそこで坂上がビニール袋に入れたものを吸っているぞ」と俺は補助付きのチャリンコに股がって、口元にビニール袋を当てて恍惚とした顔を浮かべている坂上を指差した。
「チッ!! あれほど止めろと言ったのに!!」と太蔵は走って坂上の元に行くとビニール袋を取り上げた。
「何してんだよ、このばか野郎がよ!!」と太蔵は怒鳴った。
「そめません(すみません)」と坂上は下を向いて縮こまった。
「今日のは何だ?」と太蔵は袋の中を確認した。
「えいねよえでしてにぇい、はえらんですよ(良い匂いでしてね、ハイなんですよ)」と坂上はウットリとしながら言った。
俺は侮蔑の眼差しで坂上を睨んでいた。茜は不安げな顔をしていた。
「ちょうはれすれ、ちらめすだす(今日はですね、ティラミスです)」と坂上は元気な声で言った。
「は、何て言ったの?」と俺は太蔵に尋ねた。
「ティラミスだよ。坂上はティラミスの匂いを吸っていたんだよ!!」と太蔵は怒鳴った。
「歯がないのは虫歯が原因なのかい…」と俺は苦笑しながら呟いた。
「あれだけ医者に止めろと言われているだろう? もう甘いものは止めとけよって!! 総入れ歯になりたいのかよう!? ヘイ、ガーイ」と『めそしるき』が久々に怒鳴り声を上げた。
「めそしるきさんのご両親は昔なぁ、新婚旅行でタクラマカン砂漠に行きたくて仕事をしてお金を貯めていたんだ」と突然、太蔵は回想し出した。
「で?」
「お金が目標金額を越えたので、それを資金に農家を始める事にしたという訳なんだよ」
「タクラマカン砂漠はどうなったの?」俺はキョトンとしていた。
「お金がもったいないということで、鳥取砂丘に変更したようだ」と太蔵は肩を回してスクワットをしながら言ったあとアクビをした。
「もう本当にね、下らない話は聞きたくないんだ。俺は今、訳があってね、逃亡者なんだよ」
「お前、サツに終われているのか?」とめそしるきが静かに言った。暴走族の皆はどよめき出した。
「まっ、そんなところ。ヤバイ奴等にはかわりねぇかもな。例え肉親であろうともな」と俺は茜と一緒に歩き去ろうとした。
「あー!、師匠発見!」と弟子志望の不良が遂に俺を見つけた。
つづく
「またな」悠平
「バイバイ」茜
(* ̄▽ ̄)ノ~~ ♪