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ナメんな

ナメんなよ!

 「おい、待てよーっ!」俺は電話を掛けようとしたが、顔を上げて声がする方を向いた。ブランコを漕ぐ男が目に入った。


 男はソフトクリーム並みのリーゼントにハゲしいまでの剃り込み、学ランを着てボンタンを履き、ピンク色の長靴を履いていた。

 色の薄い茶色いレンズのサングラスは、確実に700円程度の安物。眉毛が何処かの麿みたいに、黒い小さなボタンのようにカットしていた。


 男はブランコを漕ぎながら話し掛けてきた。


 「テメーコラ、よくも仲間を倒してくれたよね」


「クソガキのクズ野郎だからな」


 「あんだと!? 仲間をガキ扱いすんなよ」



 「うるせー。でけぇ頭しやがって。髪切れ。じゃあな、バイバイ」


 「コラ、テメー待てよ〜う! テメーこの野郎、待てよ〜う!」ソフトクリーム・リーゼントの不良はブランコを漕ぎ続けながら叫んだ。


 俺は完全にバカを無視した。


 「茜、ここからでも歩きだと結構大変だろう。体が震えているじゃないかよ。茜(自転車のこと)に乗れよう」と俺は茜(自転車のこと)に親指を向けて茜に乗るようにと促した。


 「ちょっと、悠平! 2人乗りは禁止だよ!」と茜はむくれた可愛い顔をして言ってきやがった。


 「チッ。こんな時にまで交通ルールを持ち出しやがってよ。あたりめぇだろうがよ! 俺は交通ルールを守る不良だぜ? バイクが好きなんだぜ? わかってんのかよ、マイ・ハニー」


 「悠平、二人乗りはダメだって!」


 「誰が二人乗りなんかするつったんだよ? マイ・ハニー。気が立っているのは分かるけどよう、あんまりカッカすると体に良くねーぜぇ」と俺はよ、茜にわりと強めに怒鳴ったわけなんだよ。


 「茜、いいか? 茜が茜(自転車)に乗りなさいな」と俺は茜を茜に差し出す。


 「わかったわよ」


 俺は茜に茜を乗せた。俺は茜の鞄を持った。俺は茜の隣に並んで歩いた。静かに歩を進めていく。


 茜が運転する茜はペダルをゆっくりと回して走らせていた。ほぼ地面に両足を付けて茜(自転車)に股がる形で茜は茜をヨロヨロと走らせていた。ヨチヨチ歩きのベイビーみたいで頼りない走りだった。


 茜はやっぱマブイぜ。スゲェー、いいオンナ。可愛いーしよ、綺麗な瞳がマジで最高なんだよなぁ〜。いい匂いするしよ。俺、マジで決めたぜ。コイツと、ぜってぇーに結婚する。茜を幸せにするよ。茜のおっぱいとお尻は俺が守る。茜を永遠に愛する。嫁にしたら茜だけと愛し合うぜ。子供は5人は欲しい。家族は守る。5人の子供は男だと俺に似てよ、ハンサム・ボーイな男でよ、娘なら茜に似てよう、マブイ女になるはずさ。


 おっと、マジーいな…、照れるぜベイビー、アイ・ラブ・ユー。チッ、チッ、チッ。


飛躍してゴメンよ。俺のエンジェル・ベイビー茜。好きだぜ。


 茜、アイ・ラブ・ユー、マイ・ダーリン。


 「待て!! 無視すんな」ソフトクリーム・リーゼントの不良が俺の肩を叩いてきやがった。


 「テメー、コラ! ナニしてんだよ!!」と俺はリーゼントを強く引っ張った。


 「いててててててて!」と叫んだソフトクリーム・リーゼントの不良はサングラスを鼻先にズリ落とし、鼻水を垂らしていた。


 「文句あんのかよ、このクソ野郎がよう!」と俺はソフトクリーム・リーゼントを強く左右に揺すりながらクリスマスの心の名曲である【赤鼻のトナカイくん(パンク・バージョン)】を歌った。


 「いててててててっ、離せよ、テメー、コラ」とソフトクリーム・リーゼントの不良は白目を見せながら叫んだ。


 「テメー、さっきから、ピーチク、ピーチク、うるせーんだよ!」と俺はリーゼントを引っ張ったまま水のみ場まで連れて行くと蛇口を捻った。


 「やめろ!! 冷たい〜」と鶏冠並みだったソフトクリーム・リーゼントは萎れていき、ストレートヘアーに戻った。


 「こっちの方がお前の母親が喜ぶよ。あはははは」と俺は言って、学ランのポケットからクシを取り出すと髪型を1分9分けに整えてやったよ。


 「やめろ!! テメー! この野郎。 リーゼントは命なんだぞ!」と言いながら俺の腹を殴ってきた。


 「グッ、痛い。テメ、コラ、上等じゃねぇか!!」と俺は叫ぶと不良を離した。


 「俺はよ、矢沢昌孝だ。虎拳をやっているんだ。勝負しないか?」


 「やってもいいけど」


 「じゃあ、勝ったらその女を頂くぜ」


 「また勝手なこと言ってる。止めてよね!」と茜は怒鳴った。


 「威勢の良いネーチャンだねぇ。気に入ったよ。おいネーチャンよ、俺の女にしてやるから、待ってろ」


 「ふざけんな。テメよ、俺をな、ナメているとただじゃすまねぇぞ、コラ」と俺は言ってから学ランの上着を脱いで茜に手渡した。


 「何が、キングコブラ拳だよ、ふざけやがって。虎拳をナメんなよ」と矢沢昌孝は俺のアゴを殴った。


 「効かん、1才のパンチ力だな。虎拳は俺も知っているが、逆に虎拳をナメんなよう!」



 「なんだコラ、テメー」


 「うるせー、コラ」と俺は矢沢昌孝の股間を思いっきりインステップキックをした。


 「ギャー」と矢沢は叫んで股間を押さえたまま地面に倒れた。


 「ざまみろ、バカ」


 「ひ、ひ、秘境だ」


 「卑怯だ、だろ? 卑怯もクソもあるか、クソバカ野郎」


 「痛いよ」


「あたりめーだ。股間蹴ったら痛いのは当然だよな」


「テメー、キングコブラ拳は卑怯じゃねぇかよう」


「キングコブラ拳は使っていないよ。ただの蹴りだ」 「なめやがって」



 「テメーこそナメんな」


 「ナメんなよ」



 「テメーがナメんな」



 「ナメているのはテメーの方だろうが?」と矢沢昌孝は目を充血させていた。


 「ナメてなにが悪い?」と俺は言って矢沢昌孝の鼻を殴り付けた。



 「痛い。ナメんなよ!」


 「赤鼻のトナカイくんにソックリだ。良かったな」


 「ナメやがってよ!! 完全に頭にきた!! 受けろ!! 虎拳だ! ガオー!!」


 矢沢昌孝は虎拳の構えをした。


 「食らえ」と俺は叫び、矢沢昌孝の鎖骨に目掛けてキングコブラ拳「怒りの突き焼きパンチでヨロシク」を出した。


 パキーンと乾いた音が響き渡った。


 「いちぁーい!」

必殺の一撃で矢沢昌孝の鎖骨が見事に砕かれて折れたのだが、俺の右手の中指にも異変が感じられた。


 「チッ。クソが。おい、矢沢、テメーの鎖骨のせいでよ、俺の中指を砕こうとするなよ! ナメんなよ。俺はよう、1秒間に19連射ができるんだからな」


「なんのことだよ?」


「歴史を知らないのか?」


 「知らねー。ちょっと待てよ。肩が下がるわ。なんだこれ?」と矢沢昌孝は体の左側を横に捻るように下げ出した。矢沢は鎖骨が折れたせいで肩が下がり落ちていた。

 矢沢が肩を下げてゆっくりとこちらに歩いてくるこの姿は…、この動きには見覚えがある…。確かホラー映画の中のゾンビにいたような気がする。


 「おいおいおい。俺の鎖骨、折れたの?」と矢沢は気軽に俺に尋ねてきた。


 「知らねー。俺の中指も折れていたら、テメーによう、慰謝料請求するからなヨロシク」と俺は矢沢に向けて右手の中指を立てるゼスチャーを見せてアピールをした。


 「失礼なゼスチャーするなよ。テメー、コラ、ナメんな!」と矢沢は叫びながら左側に傾いたまま殴り懸かってきやがった。




ドルルルルー!




 突然、バイクのマフラーが轟き渡った。


 カナリア公園の入り口に暴走族が現れた。その数、およそ20人。20台のチャリンコとバイクが混じり合って公園内に侵入してきやがったのだ。


「矢沢ー! どうした? 急に連絡してきてよう。ソイツか? シメて欲しい野郎ってのはよ」


 250のバイクに股がる暴走族の頭が、俺の側まで来てジロジロとガンを飛ばしてきた。


 「なんだテメーはよ〜」と俺はメンチを切った。


 「俺は、中沢だ」と暴走族の頭は名字を名乗った。

 「下の名前はなんだ?」と俺は興味なく聞いた。


 「カンケーない」


 「ふざけんな。名乗れ。俺は川崎悠平だ」


 「俺は中沢…だ」


 「聞こえねー」


 「中沢……だ」


 「聞こえねよ、ハッキリ言えよ」


 「中沢…、中沢だ」


 「おい、俺をおちょくるなって。ナメんなよ」


「クソ〜、中沢芽蘇詞流己(なかざわめそしるき)だよ!! 文句あっかよ〜、コラ」


「ダハハハハ。だっせ〜。めそしるき、だってよ。味噌汁好きにしてもらえばよかったのに。俺はよう、味噌汁が好きなんだよな。ダハハハハ」


 「笑うなー!」と中沢芽蘇詞流己は怒鳴ったが、暴走族の仲間も俺の笑いに吊られ、肩を揺らして笑いを堪えていた。


 「ナメんなよ、コラ。おめえコラ、ナメんなよ、テメー、コラ。俺の母ちゃんがよう、夜なべをして考えた名前なんだよ」と中沢芽蘇詞流己は半べそをかいて俺の胸ぐらを掴んできた。


 「ふーん、あっそう。それはそれはようござんしたね」と俺は中沢芽蘇詞流己の腕を払いのけた。


 「ナメんなよ」と中沢芽蘇詞流己は俺の肩を揺らして半べそをかきながら言ってきた。


「おめえこそ、ナメんな」


「テメーが、ナメてるんだろうが!! 芽蘇詞流己の何が悪いんだよ!! コラ!!」


 「悪くも何も、「めそしるき」なんて、すげぇ〜複雑で奇々怪々な名前すぎでよう、こっちはなぁ、訳が判らない名前を知った時の驚きの方がデカすぎてな、結構、精神的なダメージを喰らってんだよう。どう対応すりゃいいのか、逆に教えて欲しいんだよ! めそしるきくん。ダハハハハ」


「なに言ってんのか全然わかんねーよ…」


 「さっきの言葉は間違いなく日本語だ。めそしるきくん、本を読んで言葉を知りなさい」



「テメー、ナメんなよ」



「テメーこそ、ナメんな」


「おめえが、ナメてるんだろうがよ」



「じゃあね、めそしるきくん。バイバイララバイ」と俺は茜を守りながらカナリア公園から出ようとした。




つづく

ありがとうございました!

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