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危険な女

マジでヤベー!

 今、俺と茜は風を受けている。チリンチリーン♪


 どんどん馬鹿から遠ざかってる。チリンチリーン♪


 そう簡単に蛇拳を教えてやるもんか。


 正直に言おう。あれは蛇拳の進化系で蛇拳とは関係ないのだ。


 あれはキングコブラ拳なんだよ。勝手に俺が付けた正式で形式な名称なんだけどよう、俺が開発した独自の拳法であり型なんだぜ。

 技や動きは映画そのものを模倣しているが開発した部分も多くあるんだ。


 この先は赤信号、横断歩道手前でスローダウンだ。


 「おーい、センパーイ。まってくださーい」


 俺は茜のハンドルに装着したバッグミラーを見た。


 「チッ、しつこいぜ!」 二人組の不良が後ろから自転車で追い掛けてきた。 自転車は赤色と銀色のBMXだった。


 「なかなかイカす。カッコイイじゃん」と俺は自転車に興味を抱き始めたが、あいつら、すげぇうるさいので早く信号を渡りたくてベルを鳴らしまくった。


 チリンチリーン♪


 チリンチリーン♪


 チリンチリーン♪


 と俺はリズムよくベルを鳴らした。


 「センパーイ、俺たちの気持ちに答えてくれたベルなんですか?」と奴等は嬉しそうに笑いながらベルを鳴らしまくってきた。


 チリンチリーン♪


 チリンチリーン♪


 チリンチリーン♪


 「違う。バカたれども。頼むからついてくんなよ! お前らよ、入門前に破門だ、破門」と俺はバカデカイ声で後ろに怒鳴った。


 「センパーイ、弟子にしてくだせぇー。厳しい修業をやり遂げやすから」と奴等は大声を出しながら後ろから迫ってきた。


 信号が青に変わる直前、向かえの道路に鬼がいた。

 『これはヤバイ。母ちゃんだ。確実に殺される』


 母ちゃんは俺に目を見開いて強烈なメンチを切りまくっていた。ハンドルを左右に揺らせていつでも、スタートダッシュを出来る体勢になっていた。母ちゃんの体が灼熱の太陽みたいにサンサンと輝いていた。


 母ちゃんは黒色のリュックサックを背負い、黄色のママチャリに乗っていて自転車のカゴに買い物袋を入れていた。


 母ちゃんも姉ちゃんも元々スケバンだった。


 今は鋼製、いやいや、更正しているから当時の面影は無いのだが、喧嘩になると非常に危険な女に豹変するのだ。


 姉ちゃんに至っては女番長、レディースの総統にまで登り詰めたヤバイ女だ。

 周りのダチは姉ちゃんを「マブイ女だな」と誉めちぎっているし、中には姉ちゃんを狙っているバカもいるにはいる。


 止めておいた方が身のためだと説得して回る俺の身にもなって欲しいぜ。姉ちゃんの彼氏が俺の友達だったらナーバスにならざる負えないだろうがよう? 


 姉ちゃんが以前に付き合っていた彼氏についての話だけどよう、一緒に他校に乗り込み喧嘩に明け暮れる毎日を過ごしていたんだ。


 姉ちゃんのグループと他校の男女が入り乱れる中での荒れ狂った格闘の最中、敵のスケバンと勘違いをした姉ちゃんが後ろにいた彼氏を殴ったら、彼氏が悲鳴を上げてその場で伸びてしまった事もあったそうだ。


 要は見境がつかなくなる怒りが姉ちゃんの怖さだ。 その怒りぶりが、たまに顔を出すから物凄い厄介なんだよ。猛獣を扱うよりも大変だからな。


 母ちゃんは更に危険。家のボスだから。姉ちゃんが5人いるみたいな女だ。 昔はチェーンを持って学校に登校していたとか。チェーンソーだったかな?

 本当かどうかは判らないけどよう、とにかく、母ちゃんに接するときにはなるべく地雷を踏まないようにすることが大切なんだよ。 マジな話。母ちゃんについては、またいつかな。


 「悠平ーっ! テメー、この野郎!! コラー!!」と母ちゃんが信号が青に変わると同時にこちらにダッシュしてきた。


 「こんちわ! 悠平のそっくりさんで龍平でぇす」と俺は苦し紛れのオチャメな嘘を言ってみた。


 「テメー、サボってんじゃねーよ!」と母ちゃんは猛烈にチャリンコのペダルを漕ぎまくっていた。


 「奥さん、奥さん。違います。僕は龍平でぇす」


 「オメーの母ちゃんに奥さんだなんてバカこくんでねーよ、コラァ!!」と母ちゃんが怒鳴りながら傍まで迫ってきた。


 「センパーイ、お願いだから、俺たちを弟子にしてくだせぇー。頼みますよ」と後ろからバカが迫ってもきた。


 俺は右を見て左を見て信号を渡らずに左に向かって茜と疾走しまくった。


 「悠平、テメーコラ、逃げんな、このバカたれ!! 授業料高けぇーんだぞ」


 「奥さん、龍平でぇす」


 「センパーイ、待ってくだせーぇ」


 真っ昼間から男からも女からも追い掛けられるなんて、チッ、モテる男はメチャクチャ辛いぜ。悲しい罪を1つ作ったかな。





つづく

ありがとうございました!

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