無理だっつーの
またおかしなバカが来たよ。なめんじゃねよ!
「テメーこの野郎。俺をナメんな! 本物の煙草だったら百害あって一利なしだそ。テメー、コラ。もし俺の顔が火傷していたら、お前らを確実に山紙埠頭に沈めてたぞ! テメー、コラ」と俺は言って二人組の不良にメンチを切りながら近付いていった。
「なんだテメー。コラ。喧嘩売ってんのか?」と二人の不良は二重唱で俺に言った。
「テメーコラ。掛かってこい。アッ・アァア〜♪」と俺はステップを軽快に踏むと、ジャングルジムの方角に向かってターザン並みの雄叫びを上げた。
「うるせぇー! でけぇ声を出すんじゃねーよ!」と二人組の不良が同時に殴り掛かってきた。
俺は後ろポケットからヌンチャクを取り出した。
二人組の不良が立ち止まると、俺は学ランの左腕から脱ぎ始めたのだが、右手に持っていたヌンチャクが袖口に突っ掛かった。
俺は緊張感を漂わせて左手にヌンチャクを持ち直すと、上手く無事に右腕が脱げたので学ランを素早く地面に叩き付けた。土埃が舞い上がっていく。
「そっちがそう来るなら俺逹はこれを使うぜ」と二人組の不良は持っていた木刀とバッドを俺に向けて言った。
「テメーら、見てろよ」と俺は怒鳴り、ヌンチャクを地面に置いて腰を深く落とし、お尻に力を入れてから、右手で蛇の形を作り、左手でもう1つの蛇の型を作ると、右腕の蛇に絡めつかせてダブル蛇拳の型を見せた。
「やべぇー、あれよう、じゃ、蛇拳じゃん!?」と二人組の不良の内、背の低い方が怖じけて言った。
「蛇拳で、ビビんなよ」と背の高い不良が怒鳴り付けた。
「す、すいやせん」と背の低い方が頭だけを少し下げて謝った。
俺は空気を切り裂く音を自らの口で演出しながら蛇拳の演武を披露した。
「フッフ、フォ、フォ。バッ、バッ。フッフッ。フッフッ。バァッ。フォッ、フォッ」テレビで見たカンフー映画をそのまま完璧にコピーした演武だった。
「おお、マジでスゲェじゃん。蛇拳、できんの?」と背の高い不良が俺に嬉しそうな声で言ってきた。
「えっ!? ま、まあな」と俺は蛇拳の決めポーズをした状態のまま、蛇の頭を動かすと、蛇の口をパカパカ開いたり閉じたりして蛇拳の角度を慎重に測っていた。見映えの良い角度が蛇拳にはあるのだ。
「蛇拳はカッケーよな!」と二人の不良に笑顔が浮かんでいた。
油断は金×マだ。いや、いや、禁物だ。
俺は、甘い顔を見せて、襲い掛かってきた映画のクライマックスに出たアイツの事が、ずっと子供の頃から許せないでいた。
俺は、今、あのシーンと現状が一致している。頭の中でアイツの顔を繰り返し思い描いていた。
『巧言令色鮮し仁』(こうげんれいしょくすくなしじん)には気を付けろだ!!
『もしあの時よう、アイツがよう、ソカシを傷付けていたらよう』と思うと俺は体が震えてしまう。
チッ。何を言っているのかさっぱりわかんなーい、という人が殆どだと思う。
俺もよっ、心の中で何を言っているのか、自分でも判らなくなってんの。
取り敢えずよう、映画の『蛇拳』を見てくれよ。俺の言っている事の意味がさあ100%マジで判るからさあ。
「オメーよ、いくつなんだか言えよ?」と二人の不良が俺を小馬鹿にしながら言ってきた。
「なんだテメー。コラ。カンケーねぇだろうがよ」
「歳上には礼を尽くせ」と二人の不良は、へらへら笑いながら言ってきた。
「年下かも知れねーじゃねーかよ」と俺はメンチを繰り返しながら怒鳴った。
「あんだと、コラ! 俺らはなあ、14歳だぞ! コラ。ナメんな。今年から中2なんだよコラ!」
俺はキレれて、二人の不良に向かって全力で走り込むと、両腕を開き、雄叫びを上げながらダブルラリアットをお見舞いした。
「グハァッ、いてぇー」と二人の不良が草むらに倒れながら叫んだ。よく見るとバッドも木刀もプラスチック製だった。
「年下じゃねーかよ!!」と俺は怒鳴り付けた。
「えっ? なん、何歳なんですか?」と二人の不良は二重唱で愛想笑いを浮かべて俺に言った。
「15の昼だよ」
「15歳なんすか?」
「高1をなめんじゃね」
「すいやせん」
「5か月後には16歳」
「えーっ、マジかよ、やべーよ、16なら原付き取れるんじゃねぇの? 大人だわ。すいやせんでした」と背の高い方の不良が首を擦って、気になる事を口にした。
「原付き!?」
「50なら、いけます」
「そうだった!!」俺の体は強く武者震いをした。
バイク、バイク、バイク、バイク、バイク、バイク、バイク、バイク、バイク、
バイク!
ブルルルルーン!
パパラ、パパラ♪
ブルルルルンッ!
ギューン、ギューン!
パパラ、パパラ♪
バイクに乗りてぇっ。
今から帰って、お母さんに相談しようかな? やべ、サボりがバレる。
ねーちゃんにでも相談しようかな? でも、ねーちゃんうるせーからな。
「じゃあね。帰るわ」と俺は言って茜に向かって歩いていると、後ろから「すいやせーん。弟子にしてくださーい。蛇拳を教えてくださーい!」と二人の不良が追いかけてきた。
「止めときな」
「先輩、お願いします。頑張りますから蛇拳を教えてくださーい!」
「止めとけって」
「強くなりたいんッス」
「蛇拳は悪用禁止」
「そこを何とか」
「無理」
「お願いしますよ」
「ダメだって」
「この通りです」と年下の不良は、二人とも地面に額を擦り付けながら土下座をしていた。
「しつこい」
「師匠ー! 頼むよ!!」
「無理だっつーの」
「先輩、お願いします」と二人の不良はめげずに強い口調で頼み込んでいた。『真剣な姿だなぁ〜』とは思う。
俺は頭を下げ続けている二人を置いたまま、茜に股がると、ベルを鳴らしまくりながら走り去った。
つづく