-電話越しの声-
目覚めてから初めて友達が出来た。自分からそう告げた事だが、嬉しいのだろうか。
分からない。
僕よりも年上の女性。困っている彼女の力になるには、彼女のことをもっと知らなくちゃいけない。
いけない?使命感なのか?
そんなことは無い、僕は純粋に彼女と仲良くなりたい。だって、彼女はとても魅力的な女性に見えたから。不幸な人ほど、幸せにしたくなる。
え?どこかずれてるって?それはそうだろう。だって僕の人生そのものが、ずれているのだから。
幸せにしなくちゃいけないんだ。だって僕にはそれしか無いから。その感情しか抱けないから・・。
「また会えますか?」
「勿論。だって私たち友達なんでしょ?」
「その通りです!来週は試験なんで、再来週になっちゃいますけど。」
「分かったわ。あ、連絡先教えてくれない?」
連絡先。この場合は家の住所ってことでは無いだろう。電話番号とかだろうか。
「すいません、携帯持ってなくて。」
「あ、そうなの?じゃあ、私の番号。好きな時にかけてくれて良いから。」
「どうも。」
千切ったメモ用紙を手渡される。ポケットじゃ無くなるかもしれないからと財布にしまう。そして山中さんとはその場で別れた。彼女を幸せにする方法は何だろうかと考えながらその日は終わりを告げた。
定時制高校の試験日前日、先週まで降っていた雪は解け交通インフラには問題は無さそうだ。
最後の追い込みも終わり、母が淹れてくれた紅茶を飲みながら前日の夜を過ごしていた。
明日の試験は問題無いと思う。勉強してきた時間と高校の偏差値からして合格出来るだろうと予測を立てている。ただ、試験と言う物は何があるか分からない。今だって緊張している。
明日の交通費が足りるかを確認するため、財布の中身を確認する。財布の中の紙切れが目に入った。
(そう言えば、山中さんに電話していなかったな。)
気分転換に彼女に電話をしてみようか。でも、こんな時間に迷惑じゃないだろうか。五分程悩んだ結果、僕は自分の気持ちに素直に従うことにする。
家にある固定電話の子機を部屋まで持って来て、紙に書かれた電話番号を押して行く。プルル。三回ほどコールしただろうか。出ないかなと思って電話を切ろうと子機を見た瞬間、声が聞こえて来た。
「はい?どちらさまですか?」
久し振りの彼女の声に思わず緊張してしまう。声が上ずった。
「あ!筒井です!こんばんは。」
「あー、筒井さん?どうしたの急に?」
電話だからだろうか。以前会った時にはまた違った印象を受ける。その理由は直ぐに分かる。
「何となくなんですけど・・、明日試験なんで励ましてもらおうかなって・・。」
「そっか、明日か!はは、頑張って~。」
軽い。僕にとってはかなり大事な日なんだけど・・。もしかして山中さん。
「お酒飲んでます?」
「あ、分かる~?ちょっと嫌なことあって飲みすぎちゃった。えへ。」
えへって二十六歳が使う言葉なのか。思わずツッコミを入れたくなる。酔っているなら少しからかって見ようか。
「山中さんも可愛いところありますね。」
「・・・・・・・え?」
「いやだから、笑い声が可愛いなと思ったんで。」
「・・・・・・そう?」
「って、なに恥ずかしいこと言ってんのよ!もう。」
「まったくー。大人をからかわないの~。」
「思ったことを言っただけですよ。」
「なんか照れるわね・・。筒井さんって結構思ったことズバッと言うよね。てか強引?」
「遠慮が無いかも知れないですね・・嫌でした?」
「嫌・・じゃない。可愛いって歳じゃないけどあまり言われないから嬉しい。」
・・・。お互い無言になる。その間は何秒か何分か。
「年齢なんて関係無いですよ。」
「え?」
「だってそうじゃないですか。歳なんていつ生まれたか、それだけですよ。」
「そう、かも知れないわね。六歳も年上だけどね・・。」
彼女は少し自虐的にそう言う。
「山中さんは歳相応の魅力があると、僕は思います。」
「もう・・!今日はどうしたの?酔いも冷めて来ちゃったわよ。」
「ふふ。じゃあ今日はここらへんでお暇しますね。」
「え、私が一方的に言われてただけじゃない。」
「そういう日もありますよ。では。」
「あ。待って。」
「はい?」
「明日、頑張ってね。」
ありがとうございます。僕はそう言い、電話を切った。
面白い人、いや可愛い人だなと僕は思いながら寝床に入る。
(あれ?)
自分が本心から笑っていることに気付いた。作り笑いでは無く笑顔。それは目覚めてから初めてのことだった。
次回は少し時間を頂くかもしれません。まだ未定ですが、新作の短編を書こうか検討中なのです。
最後まで読んで頂きありがとうございました。