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記憶のない僕が君に出来ること  作者: 宮日まち
1章 目覚めてからの1年間
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-覚醒-

 二〇一九年十二月六日金曜日。

 中学校卒業認定試験の合否通知が送付され、封を開けてみると無事に合格していた。

(まずは一歩目。)

 次に目指すは、定時制高校合格。両親に学費やらの負担をかけさせる訳にはいかない。何故なら、入院中の維持費で両親には多額の費用を負担してもらったからだ。

 少しでも自分の力で恩返ししたい、その一心だ。それにしっかり生きているってことを伝えたかった。

 通信制の高校を選ばなかった理由は、昼間に仕事をして学費を稼ぎ夜間に学校に通うという一定のサイクルで生活をすること。そして何より学校に通えなかった九年間を取り戻したい。学校に通いたいと言う本心からだった。

 入試まで後二ヶ月。中学卒業が決まったその日から次に向かって動き出す。


 机に向かい椅子に座って勉強を始めていた彼であったが、ふと視線の先にあるミニタオルが目に入った。

(確かこのタオルは・・。)

 雨の日とある女性が僕にくれたタオルだ。返さなくて良いと言われ困惑していたが、どちらにせよ連絡先も知らない以上返しようが無くそのまま机の上に置きっぱなしだった。

 その日のことを思い出しながら、一つ気掛かりなことがあった。それは彼女の頭上に突然文字が現れたこと。その文字が何であったのか当時も今も分かってはいない。あの現象が何であったのか探ろうと思い、他の人にも試しに右手で右目を押さえて覗き込むことをしてみたが何も変化は無かった。

 一定の条件下で起こる現象なのか、特定の人物にだけ起こるのかはっきりとしなかった。


 不意に部屋の扉がノックされる。この家には今僕の他に母親しかいないから間違いなく母親だろう。

 意識を取り戻したあの日から記憶は戻ってはいないが、自身の置かれている状況を把握し、勉強していくことで遅れていた知識も身に着いてきている。

 両親とは良好な関係を築けていると思う。不自由ない暮らしをさせてくれる両親には感謝しかない。唯、感謝はしているがどこか他人行儀になってしまうのは記憶が無いからだろうか。申し訳気持ちに悩まされる日々。


「どう?調子は。」

 母はそう言い、マグカップに紅茶を入れて運んで来てくれた。どうやら中身はアールグレイらしい。ベルガモットの落ち着きのある芳香が鼻腔をくすぐった。

 手渡されたこのマグカップは昔から使っている僕用のマグカップらしいが、何度か使ってはいるもののやはり思い出せない。


「順調だと思う。高校にも受かってみせるよ。」

「そう。無理だけはしないでね。」

 そう言い母は僕の部屋を後にする。

(やっぱり何も起きなかった。)

 母が部屋を出る瞬間、あの時と同じく右手で右目を覆ってみたが特に何も変化は起きなかった。


 翌日土曜日と言うこともあり、久し振りに都心へ出歩くことに。

 今日は一つの目的がある。それは、今まで不可解で何一つ理解できていない現象を解明すること。ずっと眠っていた僕には友人も居ないので一人寂しく街並みを歩く。


 彼が寂しいと言う感情を抱いていないことは傍から見ると分かる。歩きながらその顔はどこか明るい表情をしていたから。何をするにしても彼は楽しいのだろう。だって、ずっと眠っていたのだから。こうやってごく普通の日常を送れていること自体奇跡的なことだ。

 今朝の出来事だが、両親が心配して一緒に付いてくると言った時には必死に抵抗したものだ。一人で試したいこともあったのだが何より親と一緒では気恥ずかしいという気持ちが、どうも勝ってしまう。そう言う年頃なのだろうか、僕にはこの気持ちの真意が分からなかった。


「喫茶店でも入ってみようか。」

 独り言を呟く。その言葉は誰に聞かれることも無く。

 カランカラン。最近では物珍しく、少し古い感じの喫茶店に入る。アンティークらしき骨董品などが至る所に置かれており、素人目に見ても趣のあるお店だ。

「いらっしゃいませ、お一人様でよろしいですか?」

「あ。はい、一人です。」

「かしこまりました、こちらのカウンター席へどうぞ。」

 店員に誘導されカウンター席の一番奥、入口からすると右奥へと案内され着席する。カウンターの向かい側に三つ程テーブル席があり、店内はそれほど大きくは無くむしろこじんまりとしている。

 ご注文は?と店員に聞かれたが、喫茶店に入ったのも初めてだったこともあり咄嗟に出た言葉が、

「ホットコーヒーひとつ。」

 

 しばらくしてからコーヒーが運ばれてきてコーヒーを飲む。もしかしたらコーヒーを飲むのも生まれて初めてなのかも知れない。定かではないが家では紅茶ばかり飲んでいるので、目覚めてからは初めてだろう。

 二口目を飲んだ後、当初の目的へと移る。ゆっくりと左を向きテーブル席の方を見る。あの時と同じように右手で右目を覆ってみたり普通に見てみたり。何も知らない人からしたら変な行動だろう。

 テーブル席に座っている客には特に何も異変は無かった。気を取り直し次に同じくカウンター席に座っている女性へと視線を移す。


 その出会いは偶然か必然か。


 一人だけ僕の左目に映る世界が異なっていた。



物語の展開が遅いかも知れませんね。感想お待ちしています。良ければブクマ登録も待ってます。

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