-それぞれの答え- 思いのままに
「ねえ、今日文化祭見に行くんでしょ。私も一緒していいかな。」
彼は断らない。そういう人だから。それを分かっていて聞く私が嫌になる。でも、彼と一緒にいるためには手段を選んではいられない。だってそういうところまで彼の気持ちは先に行っているから。
君の記憶が無いから、私の恋は実らないの?
記憶があっても、君は違う人を好きになってた?
それとも、君が事故に遭ってなかったら、今頃私たちは付き合ってた?
そんな意味も無い問いかけを続けている。
これも全部、あの日にお見舞いに行ったからだ。あの時に、優真と友達が話をしているのを立ち聞きなんてしなければ、彼が好きな人のことなんて知ることは無かったんだ。
いやそれは言い訳に過ぎないか。だって、一緒にいればいつか分かること。
私が納得行かないのは、目覚めてからの半年間。私が彼にアタックしなかったこと、記憶の無い彼に接することが出来なかった私の弱さ、それを認めたくないんだ。
「友達の翔太も一緒だけど、それでいいなら。」
休日の土曜日にいきなりやってきた私を嫌がる素振りすら見せない。そんな一つ一つの態度が、昔の彼とのギャップを感じてしまい戸惑ってしまう。優しすぎる君の姿に私は、私の知っている彼はもう居ないのだと言い聞かせる。
半年ほど前まで通っていた高校とは違う場所だけど、制服姿の生徒を見ると懐かしさを覚える。そんな懐かしい記憶の中には彼がいない。彼がいなくても私の世界は回っていたのに。
彼と会って、話をするだけで胸が切なくなるのはなんでなのかな。
私が優真を好きだから?
「彩希ちゃんは、優真の幼馴染なんだよね。昔の優真ってどうだった?」
この男は、年上の女性にちゃん付けってどういう神経してるのか。思わず怪訝な顔をしてしまい、急いで繕い彼の質問に答える。
「昔の優真は、弱いくせに自分を曲げない、そんな子供だったよ。」
「なんだ、じゃああんまり変わってないんだ。」
「え?」
翔太くんが夜中に出くわしたチンピラとの武勇伝を聞かせてくれた。その時に優真が取った行動のことも。それを聞いて、嬉しい気持ちになったのはなぜだろう。
優真が、全部変わってしまった訳じゃ無いことを知れたから?
そんな私の心情を知らない彼らは、私を置いて楽しく文化祭を見て回っている。彼らにとっては初めての文化祭だろうから、気持ちは分かる。私が高一の頃は、女子の間でクラスの男子と一緒に回れるかどうかで賑わったもの。
「お、優真。お化け屋敷あんぞ。入ってみるか?」
お化け屋敷、その言葉を聞いて小学生の頃に行った地元の夏祭りを思い出す。それも隣に優真がいたからだろう、あの時も隣には今と同じく優真が居たから。
違うのはお互いの気持ちと、彼にはあの時の記憶が無いこと。
二人とも、お化け屋敷は初めてで入ったはいいものの中々出られなかった。怖くて二人で身を寄せ合って手を繋いで出口まで歩いていた記憶。
君が覚えていないなら、私がずっと覚えているから。
「優真、お化け苦手だったでしょ?」
「まじ、だせーな。そういうの信じてる系か?」
「慣れないものは、苦手なだけだよ。」
「今から、軽音部と有志による文化祭ライブを開始致します。是非、体育館まで足を運んでください。」
校内放送だろう、女性の透き通った声が校内に響く。
「お、春ちゃんの出番か?」
「芳川さんの出番は、まだ先だけどもう行く?彩希はどう?」
「そうねー、私も見に行こうかな。」
芳川さんって子が、どういう子なのか気になるから見に行くのが本音。それに、一人で回るわけにもいかないし。
ただ、女の勘って言うのかな。嫌な予感だけはしていた。
体育館の中に入ると、カーテンも扉も締め切られており薄暗い。パイプ椅子が並べてあり、私を含めた三人はその椅子に腰かける。
薄暗い空間、周りはざわついており小さな声なら届かない、そう思えた。
まるでムードなんて皆無な場所だけど、今なら私の気持ちを言うだけは言える気がする。
それが伝わるかどうかは分からないけれど。
「優真、ちょっと耳貸して。」
「どうした?」
タイミングを見計らったかのように、ドラムの音が広いと思っていたこの空間を音で占め始める。
私の運が悪いのか、勇気を出すのが遅いのがいけないのか。でも、もう発車してしまっているからそんな音では私の気持ちは止まらない。優真の手を取り、彼の手から伝わる体温を感じながら、一度も言えなかった言葉を口に出す。
「ずっと好きだったの。・・優真のこと。」




