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記憶のない僕が君に出来ること  作者: 宮日まち
3章 記憶の無い彼の答え
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-それぞれの答え- 親友として

「そりゃあ、罪だろうよ。」

「でもさ、吹っ切れちまえば友達に戻れるって話も聞く。要は相手次第だな。」


 十月九日金曜日、今週もかったるい授業が終わったと思えば親友から変な相談を持ち掛けられた。

 優真が言うには、告白されたのに断った挙句、その相手に友達として仲良くして欲しいって言うのは罪なのかどうかだと。

 俺だったら女友達の一人として仲良くしちゃうけど、相手は良い気分じゃないだろう。何せフラれた相手に笑顔を見せなきゃいけないんだから。

「なあ優真。今の話から察するとさ、春ちゃんをフルってことだけど正気か?」

「いや、まだ悩んでいるところなんだけど・・。」

「何があったんだよ、ついこの間までは春ちゃんのことしか考えて無かったお前に。」


 俺が聞いても答えないってことは、言いたくない話か言えない話のどちらかだろう。俺の勘では言えない話だろうな、それに言いたくない話なんて俺たちの間には無いと信じているし。

 親友なんだから、優真の力になってやりたい。だけど本人が口に出さない限りは、俺にはどうしようもできない。人の思考を読むなんてことはできないからだ。ましてや超能力でもなけりゃな。


「大体予想はつくけどよ。この前急に見舞いに来た、優真の幼馴染が原因なんだろ?」

「急に来たのは、翔太も一緒だけどね。」

「まあ俺は良いのさ。やっぱりあれ子か、彩希ちゃん、綺麗だもんなー。」


 男が悩むってのはそう言うことだろ、俺だけかも知れないが。真理ちゃんや春ちゃんは歳相応の可愛げってのを感じるけど、彩希さんは年上だけあって大人の魅力を感じるよな。優真が悩むのは無理も無いな。

「あのさ、一人で納得してるところ悪いんだけど。彩希にはそういう感情ないと思う。」

「え?嘘だろ。あんな美人なのになにも思わないのか?」

「綺麗だとは思うさ。でも、そういう問題じゃないんだ。」

「?」

 話を掘り下げても、優真から明確な答えは返って来ない。どうやらこれ以上聞いても意味が無いようだ。


「まあ、その悩みも明日で決着付けるんだろ?」

「そうだね、明日の文化祭で答えを見つける。」

「なら今悩んでも仕方ないな。今日は帰って寝ろ。」

 駅に着き、優真とは逆方向なのでそこでいつもと同じ言葉を投げかける。


「またな。」


 恋愛は悩んでこそ、本当の恋愛ってもんだからな。まあ俺は悩んだことなんて無いけど。

 行き当たりばったりの恋愛しかして来てないからな。そういう意味では本気で悩んでいる優真が羨ましく感じる。

 俺は俺、優真は優真。生きている人間の数だけ、恋の形はあるって誰かが言ってた。なら俺は楽しい恋愛をしたい、悩んでばかりで前に進めない、そんな時間すら勿体ないと思うから。好きだと思った相手に一直線に突き進む。それでダメなら後悔したって仕方が無い、やるだけはやったんだから。

 高校生の俺の恋愛観なんて、そんなもんだ。


 でも、優真は違うってことだよな。なら、悩んでいる親友を陰ながら応援してやるだけさ。

 それが俺にとって、思い描く親友。

「でもまあ、悩みを打ち明けてくれないのは寂しいけどな。」

 いつか酒を飲みながら、話してくれる日を待つとしますかね。



「はい。どちらさまですか。」

 静寂な空間に鳴り響く、俺の聞き慣れたメロディーとは違う音。本人が不在なまま、俺が代わりに出ることにしたが、電話の主は俺の知らない声だった。

「君は誰?」

 それはこちらのセリフだ。ディスプレイ越しに電話の主の名前は書かれてあったから、名前だけは分かる。

 山中響。それが電話の相手の名前らしい。

 だがそんなことは今はどうでもいい。むしろ今すぐこの電話を切りたいくらい、それほど切羽詰まっている。他のことなんて考える余裕が無い程に。

「端的に言うぞ。・・・。」

 俺がそういうと、彼女は場所を聞くだけ聞いて電話を切った。優真とはどういう関係なのかは分からないが、話がややこしくならなきゃ良いと切に願うだけだ。

 夜でも無いのに、まるでここには他の客が居ないのではと錯覚に陥るほど、静寂に包まれていた。

 この場に居るのは、俺を含めて三人だけだった。

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