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記憶のない僕が君に出来ること  作者: 宮日まち
1章 目覚めてからの1年間
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-目覚め-

 誰かが僕に向かって叫んでいる。

 その声は次第に鮮明になる。久しぶりの耳から聞こえる声が耳障りに感じる。


(なんだ・・。)


優真(ゆうま)、聞こえてる?」


 右隣から優しい女性の声が聞こえた。投げかけられた問いに対して答える手段を持ち合わせていない。

(ゆうまって誰だろう。)

 とりあえず声を出そうする。しかし思うように声は出ず・・。


「あ・・、ゆ・・?」


「優真!良かった、やっと目覚めたのね。お母さんだよ?分かる?」


 お母さんと言うことは、どうやらこの女性は僕の母親らしい。全く身に覚えはないが。


「?」


 言葉が出せない以上、首を動かして意思表示をすることに。首を動かすのにも時間がかかったのは言うまでもない。手足は自分の身体じゃないようで、まるで体に重りが置いてあるかのようにビクともしなかった。


「どうやら、記憶に異常が見られますね・・。」

 そう白い服を着た男性が言う。

「そんな・・。」


 即座にお母さんらしい人物は落胆したように首を落とし、目から涙を浮かべる。

 どうやら僕は、記憶を無くしているらしい。そのことについて何も思わないのは記憶が無いから。それとも、目覚めたばかりで感覚が鈍っているからだろうか。記憶が無いと言っても言葉の意味が分かると言うことは、部分的なのだろうか。


「身体も動かせるようになるために、まずはリハビリからして行きましょう・・。・・とりあえず目覚めて良かったですね!おめでとうございます。優真君、ご両親に感謝しなね。」

「は・・。」


 僅かだか首を動かし、主治医らしい人物に返事をする。

 奇跡的に助かった旨を聞き、僕は目の前の医者と両親に深く感謝していた。



 九年。彼が失った時間を一年で取り戻す。リハビリから始まり、義務教育課程を学ぶ。


 想像を絶するほどの濃密な時間。次から次へと新たな情報が入る感覚。


 病室で寝続ける僕に対して、必死に支え続けてくれた両親への恩返しの為に前へ進めるだけの努力は惜しまない。


 そして彼は信じられない程の回復力を見せ、無事に日常生活を送れる水準へと回復する。

 唯一つ不可解なことがあった。

 不可解な現象がだがそれが通常では無いことには直ぐに気付くことが出来た、あの日のことは今でも鮮明に覚えている。


 二〇一九年十月二十四日、木曜日。

 学校に通うことが出来なかった僕は、通信教育を続け中学校卒業認定試験を受験しに行っていた。

 試験は五教科あり、国語、社会、数学、理科、英語と一般的な物だ。

 日頃の勉強が実り問題もほぼ解けていたと思う、無事に試験も終了し帰る頃には夕方となり、その日は久方ぶりの雨が降り(しき)っていた。

 雨のせいで視界が悪く、久し振りの外の世界に触れたことで過度な緊張もあったからだろうか。

(目眩がする。)


 ふらふら・・。彼の足取りが道並みを真っすぐに進んで行かない。幸いだったことは車などが走っていなかったことだろうか。

 雨が降る中、彼は道端に崩れ落ちていく。膝をつき、深呼吸をしようとするも上手く行かない。

「大丈夫だ。」と自分に暗示をかけ平静を保とうとするも、思うように呼吸は落ち着きを取り戻せなかった。

「君、大丈夫?」

 後ろから声が聞こえる。透き通ったその声にゆっくりと後ろを振り返る。見覚えの無い女性。若く見える顔つき。その顔にはうっすらと化粧がしてあり歳は自分と近しい様にも見えた。大学の帰りなのか右肩にはバックを持ち、左手には傘を差している。


「あ・・、大丈夫です。」


 思わず彼女の顔を見つめていて返事が遅くなってしまう。久しぶりの他人との会話に戸惑いつつ声がしっかりと出ているか不安だった。

「そう?なら良いのだけど。・・、良かったらこれを使って。返さなくて良いから。」

「え・・。」

 彼女はそう言ってバックからミニタオルを取り出し、僕に差し出してきた。それを断ることも出来ずに彼女は歩いて行ってしまった。



「なんだあれは・・。」

 今の一連の流れに不思議に思って出た言葉では無かった。目眩で膝をついた時、咄嗟に右手で右目を覆った。その時に背後から声をかけられ振り返る。片目で彼女を見た瞬間、彼女の頭上に何か文字が見えたのだ。その文字を見るため手を放すと、その文字は消えてしまう。見つめていると彼女が不審に思ったのか首をかしげていた。咄嗟に僕は返事を返して今に至る。

(あれは・・なんだったのか。)


 彼が謎な存在より与えられし力に気付いた瞬間だった。



二話目です。読んで頂きありがとうございました。

感想お待ちしています。他の連載小説もありますので宜しければ読んでください。

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