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記憶のない僕が君に出来ること  作者: 宮日まち
2章 ココロの移り変わり
16/33

-初めてのデート-

 今週で一番笑ったのは、不良に絡まれた次の日だろう。僕も翔太も頬に湿布を貼って登校してきたんだ。互いの顔を見るや大声で笑い出す。クラスの連中からは白い目で見られていたけど関係無い。だって他人は他人、僕らは僕らだから。



 何も準備することなく日曜日を迎えた僕は待ち合わせ場所へと急いでいた。流石に今回も遅刻するわけには行かない。合コンの時は遅れてしまったけど今日は一対一のデートなのだ、男として女の子を待たせたりは出来ない。芳川さんとデートをすることを翔太に伝えると、聞いてもいないのに有り難いアドバイスを延々としてくれたお蔭で耳にたこができるかと思ったほどだ。

 待ち合わせの十分前に着いた僕は、自分の身なりがおかしくないか駅のトイレで確認をする。僕に出来ることと言ったら身だしなみを整えることだけだから。改札を出て電光掲示板の前で彼女を待つ。数分もしないうちに彼女は小走りで現れた。

「優真さん、お待たせしてごめんなさい!待ちました?」

 待ち合わせ時間より早く来た彼女はそんなことを言う。僕は遅れることも早く来ることも気にしないことを伝えると彼女は頭を下げて僕の隣に立つ。隣に立った彼女は僕よりも頭一個分背が低い。彼女に身長を聞くと秘密ですって言われてはぐらかされてしまった。体重は女性に聞けないと言うことは知っていたが、身長も聞けないとなると何を聞けば大丈夫なのか。今日は会話が成立するのか先行きが不安になるスタートだった。


 ほど良い気候の中僕らは街並みを歩いていた。時刻は午前十一時。昼ご飯には少し早く、どこか遊びに行くには微妙な時間だ。デートだからといって緊張することは無いけど、何を話していいのか皆目見当がつかない。

 僕らは歩き出す、行き先は昼ご飯までの時間つぶしを兼ねてショッピングモールへ。隣を見ると彼女と目が合う。どうやらこの数分間ずっとこちらを見ていた様だった。何が気になるのか聞いてみると、芳川さんは恥ずかしそうにはぐらかす。会話にならないので僕は問い詰め続けると彼女が答えてくれた。

「優真さんってイケメンの部類に入りますよね。」

 聞いたのは僕だが彼女の言葉に少なからず恥ずかしさを覚える。直にイケメンと褒めているのではなく、イケメンの部類ってのがミソだろう。イケメンに近い何か、少し物足りないけどかっこ悪くは無い。客観的に見てそんなのところだろうか。ずっと眠っていたからか顔の吹き出物等は無いから控えめに言っても綺麗な肌だと僕も思うし、彼女好みの顔なのだろう。僕自身はこの顔が自分だとはなぜか思えず他人の顔のように見えてしまうから好きにはなれない。でも褒められて悪い気はしない。僕はお返しに彼女のことを褒めようと考える、どこを褒めるのが一番彼女にとって嬉しいのか。歩きながら考えたが、どうもしっくりくる答えが出てこない。それは僕が人を褒めたことがあまり無いからだろうか。

 また頬を赤く染めていた彼女の顔を正面から覗き込む。傍から見たら変な人だろうが僕は他人に興味は無いから気にしない。僕が気にするのは周囲の人物と特別な存在だけ。正面から見た顔は合コンの時に見た時よりも太陽の下で見るからか色合いが変わって見えた。月並みに可愛い、そう僕は思った。


「綺麗な二重だね。」

 悩んだ挙句に出てきた言葉がこれ。くっきりとした二重まぶたが僕はとても印象に残っていたから。思わずそのまぶたに触れようとすると彼女は抵抗すること無く、目を閉じた。しかし目を閉じてしまうとかすかな皺だけが残り僕が触れたかったまぶたでは無かった。触って気付いたことだが、普通の男子はこんなことはしないのだろうなと。だって触ったからと言ってどうこうなる訳でもないし、ましてや会うのが二度目の彼女のまぶたを触る男がどこに居ると言うのか、僕以外で。

 芳川さんは急に黙ってしまった。流石に恥ずかしかったのだろう、付き合ってもいない男子に触れられるのは。でも嫌では無かったみたいで嫌われることなく、しばらく無言で歩いていると落ち着いてきたのか彼女の方から話しかけてくれた。

「わたし新しい服を買おうかなって思ってて、見てもいいですか?」

 断る理由も無い僕は彼女の先導に身を任せ半歩後ろでついていく。ショッピングモールの中でも学生が多い店へと足を踏み入れる。僕は入ったことも無い女の子ばかりのお店に戸惑いを感じずにはいられなかった。まるで女の子たちが僕のことを好奇な目でこちらを見ているかのように錯覚する。どこか居心地の悪さを感じ僕は中々店内の奥へと進んで行くことが出来なかった。それを見かねた彼女は気に入った服を持って僕の前へと歩いてきてくれた。彼女が手に持っているのはショートパンツでこれから夏が近づいてくるのに丁度ぴったりの服だった。彼女は細めだし何を着ても似合いそうだなと僕は思い、そのことを素直に伝えると彼女は嬉しそうにはにかんでいた。

「あっ、あとわたしの後ろをしっかりついて来て下さいね!そうすればカップルに見えて他の人の視線もさほど気にならなくなりますから。」

 僕が居心地が悪そうにしていることを気付いていたのか彼女は僕にそう言ってきてくれた。言葉に出さず回り道をしながら気遣ってくれる、そんなところが彼女の優しさだろうか。

 よくよく考えると彼女の口から出た咄嗟の言葉に、僕はドキリとした。他人から見たら僕たちはカップルに見えるのだろうか。考えるまでも無い、男女が休日に二人でデートをしていれば誰だってそう思うだろう。でも他人からすれば他人事で関心を抱かない。男からすれば相手の彼女が可愛いかどうか気になるかも知れないけど、それも一瞬のことで僕らのことなんて直ぐに忘れるんだ。そう思うと、じゃあ緊張しないで彼女とのデートを楽しんだ方が良いのかなと自己解決する。そもそも気になっていたのは女性の視線だったから見当違いのことを考えていたことに気付くことは無く、僕は一人納得して彼女の後ろをついていく。


 女性の着ている服は見たことは勿論あるけれど、女性の服屋に入って服を見るのは初めてのことだったから、落ち着いた僕は先ほどとはうって変わって興味深々だった。服を一着一着見ていると、男性より服が小さめなんだなって当たり前のことを考えていた。僕は自分の服装にこだわりは無いけど、彼女は何を基準に服を見ているのか、ふと疑問に思い僕は彼女に聞いてみた。

「芳川さんは、どんな服が好きとかあるの?」

「どんなですかー、私はあまり身長が高くないから似合うのも着れるのも限られちゃうんです。だから、サイズが合う服をまず探すところからなんです。そこから好きな色とか素材とか肌触りとか色々、でもやっぱり持ってる服と合うかどうかですかね!」

 僕は自分の不甲斐なさを責めた。ああ彼女はもっと話したかったんだなって、彼女の返って来る言葉を聞いてそう感じたんだ。僕が自分から話すことをしなかったから毎回彼女から何か話題を出してもらっていた。でも本当は彼女自身のことをもっと話したかったんだ。だって芳川さんは僕に好意を寄せているから、僕にもっと自分を知ってもらいたいそう思っていたのに僕が彼女に対して話題を振らないから・・。

「芳川さんって、服のセンス良いよね。今日の服も似合ってると思う。」

 僕は何が正しいか分からないけれど、彼女が喜びそうなこと、そして自分が思っていることを正直に伝えた。だって見るからに彼女の服装は気合いを入れて来ていたから。水色のワンピースが彼女の清楚な部分を表していた。元気があって活発な彼女だけど、僕の言葉を聞くと黙り込んでしまった。

 また一つ学んだことがある。素直に言うのも大事だけど、面と向かって褒めたりするのは女の子を恥ずかしい気持ちにさせることもあるんだってことを。


 

 買い物を終えると時刻は正午を過ぎていた。時間も頃合いなので僕らはレストランがあるフロアへ行くためエスカレーターで上へ向かう。六階に着くと大勢の人で混んでいた。お昼時なのでみんな考えることは一緒らしい。何を食べようか決め兼ねていると、僕は一つのお店の看板が目に入った。その看板を見ているとどこか懐かしい、そんな気持ちになったんだ。僕はそんな不可思議な気持ちを拭い切れず、彼女に提案する。了承を得てその店に入り席に着く。メニューを見る前から僕は何を食べるか決まっていた。

 しばらくして頼んでいた料理が運ばれてくると、僕はすかさず一口食べる。芳川さんも同じ物を食べていて、お互いに同じ感想に至ったらしい。前を向くと彼女の顔は笑顔で、夢中になって食べていたから。僕も目の前のオムライスを食べていて思ったことがある、僕はきっと昔からオムライスが好きだったんだなと言うことだった。


 お昼ご飯を食べ終わり、食後の散歩がてらショッピングモールを歩いて回っていると、彼女から提案を受ける。前を歩いていたから、彼女がくるっと回転しながら振り返る。短い髪が少しだけ揺れて彼女の顔がこちらを向く。そんな一連の流れに僕は鼓動が速くなるのを感じた。

「わたし、カラオケ行きたいんだけどどうかな・・?」


 カラオケは学生の人気の娯楽らしく、通る時に部屋を覗くと同じような年齢の子が熱唱していた。カラオケに来たのも歌うのも初めてのことだったが、特に緊張しないのはどんなものなのか想像できていないからだ。受付の人に言われるがまま、部屋の番号を言い渡される。三〇四とのことで三階まで階段を上る。部屋に入るなり彼女は備え付けの機械を操作していく。僕は何をしているのかさっぱりだったが、その間に部屋が少し熱いと感じたのでエアコンの操作をする。ソファーに座ると聞いたことも無い音楽が流れて来た。

「~~♪。」

 いつもの彼女の声よりも高い声だった。音楽を聞かない僕は誰の曲なのかも分からないけれど、聞いていると心地が良いそんな歌だ。芳川さんは歌が好きなのだろう、だって今日のデートで一番楽しそうにしているから。彼女が歌い終わり誰の歌なのか聞くと、とあるガールズバンドの歌らしい、彼女は中学生の頃からずっと好きらしくカラオケでは毎回歌っているのだとか。じゃあ彼女も楽器を弾くのだろうか。

「芳川さんは楽器とか弾けるの?」

「ギターを少しだけ、まだ始めたばかりで下手なんですけど。わたし軽音楽部に入ってるんです!」

 軽音楽部は、生徒同士でバンドを組んで文化祭とかでライブをする部活らしい。入学してからギターをやり始めたばかりらしく、平日も休日も常に練習をしているみたい。僕は彼女のギターを弾く姿を見たいなと思った。だから彼女にお願いをする。

「芳川さんが弾いてるの見てみたい。」

「え!まだ全然弾けなくて・・。でも、文化祭までには上手くなるのでその時は見に来てほしいです!」

 文化祭と言うと十月頃だろうか、まだ半年近く先のことで少し残念だった。少しずつだけど、僕は彼女に関心を寄せてきている。自分でもはっきり分かるくらいに。


「優真さんも歌ってください、歌声聞いてみたいです!」

 彼女のそんな催促に僕は、曲を探す機械を手に取る。思いつくまま前の人が歌った履歴を見てみるも知っている曲が無かった。それもそのはず目覚めてから歌を耳にすることはあったものの、自分から聞くことが無かったので曲名も歌手名も知らないのだ。

「ごめん、カラオケしたことなくて。何を歌えばいいのやら。」

 そんなことを言われたのは彼女も初めてのことだろう。幻滅させてしまったかな。でも言わないで選曲しても歌えないのだから遅かれ早かれ彼女に知られることになるのだ。彼女の顔色を伺うと何かを悩んでいるようだった。なにかを思い付いたのか彼女が僕の方に向き直る。

「じゃあわたしが先に歌うので、次にもう一回同じ歌を一緒に歌いましょ!」

「一緒に?」

「ですです!わたしデュエットしてみたかったんです!」

 僕の突然の告白にも動じることは無く、彼女の機転で話が良い方向に向かっていた。一緒に歌ってくれるのは僕にとってもありがたい。上手く歌えるかは分からないけど、一人で歌ってずっと聞かれるより一緒に歌うなら僕も彼女も楽しめる。そうして僕は彼女の好きなガールズバンドの歌を歌うことになった。歌いながら思ったことは、このバンドの歌は歌詞が良いなってこと。伝えたいことが分かりやすく、でも時には詩的に表現していて僕の心にも響いて来た。きっと本人が歌っているところを見たら僕も彼女たちが好きになるはずだ。



「あー、歌いましたね!どうでしたか、初めてのカラオケは?」

「すごく楽しかったよ。」

 カラオケ店から出て来たころには一日が終わろうとしていた。僕は名残惜しいと言う感情を初めて抱いた。初めて女の子とデートをして最初はどうなるかと不安になったけれど、それは杞憂に終わり何もかもが新鮮で楽しい時間だった。でも一人じゃここまで楽しいとは思わなかっただろう、芳川さんと一緒に遊びに来れたから楽しかったのだ。

 彼女になら言っても良いかも知れない、僕には記憶が無いことを。


「良かったら、また一緒に遊びに行っても良いかな。」

 独り言のような問い、僕は何故か恥ずかしくて素っ気無くそう聞いてしまった。でも彼女はにこやかに答えてくれて僕は安堵する。安堵したのは次も一緒に出掛けてくれるって分かったから。僕の過去について言うのは今じゃない、でも近い未来。今は僕から彼女をデートに誘うそれからだ。


「今日はとても楽しい一日でした!いきなり誘っちゃって迷惑じゃ無かったですか?」

「芳川さんのおかげで楽しい一日を過ごせたよ。ありがとうね。」

 彼女とは違う高校だから次に会うのは、また一緒に遊びに出かけるときだろう。僕は今からその日を待ち遠しく思っていることに気付いていなかった。


読んで頂きありがとうございました!芳川春とどうなるのか・・。

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