-合コン-
青山に誘われて合コンに参加するはずだったのだが、寄り道をしていて遅れそうだ。どこに寄り道をしたかというと、いつもの喫茶店・憩次に少しだけ顔を出していた。マスターに山中さんが来たら教えて欲しいと伝えてあるものの、一向に彼女が来たと言う知らせは無く直接出向いてみたのだ。だが来た意味も無く、マスターの小言を聞いていたら遅くなってしまうと言う体たらく。常連になった僕が来るとマスターもご機嫌になるようで、中々帰らせてくれないのだ。それも最近はあまり行かなくなってしまったから余計に。
遅れて店に入ると五人組のグループが目に入り、その中に友人の青山が居たからあそこで間違いないだろう。丁度彼が自己紹介をしているところだったから、終わる頃合いを見て席に着くことにする。席に座ると一斉に視線が僕に注がれる。周りを見て思ったことは、ああ若いなってことと、どの女性も可愛いなってことだった。
六人で話していたが、対面で話す方が盛り上がるみたいでいつしか自然とペアになっていた。だから僕も目の前の女の子と話しをする。初対面の子との会話、緊張するかと思ったけどそうでもない。山中さんという年上の女性と良く話をしていたからだろうか。彼女は今頃何をしているのかと考えようとしたら遮られる。どうやら前の女の子は良く話すらしく、僕に話題を投げかけ続けてくる。
彼女の名前は芳川春。高校一年生で十五歳、僕よりも四つも歳が下なんだから若く見えるも当然か。彼女の話を聞いているとどれも新鮮なことばかりで、最近化粧をし始めたとかメイク道具が高くて揃えるのが大変だとか、そんな話を表情豊かに僕に伝えてくる様はとても可愛らしかった。
「優真さんって呼んでも良いですか?わたし、年上の男性に憧れていたんです!」
期待を含んだ眼差しで僕を見る彼女は、僕の何が良いのか分からないが気に入ったらしく猛アタックしてくる。嫌な気はしないし、話をしていて知らない知識を得られる彼女との会話は飽きない。一つ言っておかなきゃいけないことは、年上って言っても僕たちは同じ学年だってこと。敬語は後々辞めてもらおう、だって僕と彼女に上下関係なんてないのだから。むしろ生きて来た年数で言えば彼女の方が上かも知れない。
彼女の見た目はと言うと、小柄で髪は短く、顔は童顔。性格は活発なのか生き生きと話しかけてくる。あまり自分から話をしない僕からすると話題を振ってくれる彼女の様な人は助かる。さて次の話は何かと思って耳を澄ましていると、彼女は徐に顔を膨らませた。何か不機嫌になることを言ってしまったのかと思ったが違うようで、僕から彼女に質問を投げかけなかったのがいけないらしい。興味があると自然と質問を投げかける、対人関係とはそういうものなのかと反省し、僕は何を質問したらいいか迷った挙句に言った言葉は「芳川さんって彼氏いるの?」だった。
隣でこっそり話を聞いていた青山も、僕の質問には呆れたようで首を横に振っていた。そもそも彼氏が居ないから合コンに来てる訳で何を言っているのかって話だ。だが彼女は違う捉え方をしたみたいで、なんだかご機嫌になっている。彼氏がいないかを聞くことは私に興味を抱いている、そう解釈したらしい。その後の彼女は、終始笑顔で僕の顔を写真で撮ったりしていた。初めて写真を撮られたから上手く笑えていたか不安だったが、彼女は満足していた様で安堵した。
その後解散前に芳川さんと連絡先を交換して、更に来週の日曜日遊ぶことまで彼女の言うがままに決まってしまった。特に問題は無いが、中々強引な子だなと。僕が言えたことじゃないが。
下の名前で呼ばれることが多くなったなと最近感じていた。苗字で呼び合うよりどこか親近感を覚える。なら僕からも下の名前で呼ぶべきじゃないかって、そう思ったんだ。青山にそう言ったら特に文句も言われることは無く、さも当たり前のように承諾された。今日から翔太って呼ぶ、僕がそう呼んだら彼は照れくさそうにしながらも喜んでいた。
僕が彼と仲良くなった理由は一つだけ、彼が特別な人だったから。頭上に願いを示す文字が見える人、彼の願いは「親友」。なら僕は彼の親友になること、ただそれだけなんだ。
ただそれだけ?本当にそうだろうか。友人だと思っていた彼女に縁を切られた僕は、僕自身が感じたことの無い悲しみを覚えた。確かに願いを叶えてあげることを目的として近づいたことは間違いない、でも少なからず彼女に対して情は湧いていた。彼女と連絡が取れなくなって初めて僕は、友人を無くす悲しみを味わった。だから僕は友人じゃなくて親友を作る。彼の為にも僕自身の為にも。
僕が自分自身の為に何かを求めるのはそれが初めてのことだと気付いたのは、もう少し後になってからだった。
僕たちの帰り道は駅までが一緒で、電車の方向が逆だ。彼はバイクの免許を取ったらバイク通学をするらしい。それに関しては特に禁止されていない。毎日駅まで話して帰るのが習慣になっている。今日もいつも通りの道を二人で歩いて帰っている途中に、翔太が突然立ち止まり告白する。
「俺、真理ちゃんと付き合うことにしたんだよ。」
突然の彼の言葉に僕は戸惑った。そもそも真理ちゃんとは誰なのか分からなかったし、合コンの日に一緒だったろって話を聞いて思い出す程度で僕はその子が印象に残っていなった。彼女が悪いとかでは無く、芳川さんの印象が強かったからだろう。しかし合コンの日から三日しか経っていないにも関わらず、どうやったら付き合うことになるのか。
いつもと同じ帰り道、そのはずだった。翔太に彼女が出来たって話を聞いてお互い盛り上がりさえしなきゃあんなことにはならなかっただろう。