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記憶のない僕が君に出来ること  作者: 宮日まち
2章 ココロの移り変わり
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-新しい生活-

 僕は恵まれている、他人と比べると明らかに恵まれている。春から高校に入学して朝から晩までアルバイトに勤しみ、夜は高校に通うと言うライフスタイルを送っている。今こうして生活できているのは両親の援助のお蔭だ。そもそも生きていること自体が両親あってのものだから、だから僕は恩返しをしなきゃいけない。親に対しても誰に対しても。


 初めて会った時はただの興味本位で、話しかけてみると面白い人だってことが分かった。強引に友人になることを迫ったけれど、彼女も満更じゃ無いみたいで少しずつ本当の友人になっていったと思う。だから、彼女が必要なお金を僕は何の迷いも無く渡したんだ。それで彼女が幸せになると信じていたから。一つ残念なことがあるとしたら、両親との約束を果たせなかったこと。彼女はあの日以来、喫茶店に来ることも電話に出ることも無かった。何をしているのか見当もつかないが、彼女が関係を絶ちたいと言うなら僕はそれに従うだけだ。結局、友人と言ってもその程度の関係だったのかも知れないな。

 桜も散って肌寒い季節は終わり、今では薄着で歩いても問題無い様な気候に変わっていた。来週はゴールデンウィークで久しぶりに高校が休みだから殆どの人にとっては自由に過ごせる時間、ちなみに僕はアルバイト漬けだが。


「なんだよ暗い顔して、仕事で疲れてんのか?」

 後ろの席の男が話しかけて来た。馴れ馴れしく僕の肩に手を置き、顔を近づけてくる。彼のそんな態度に未だに慣れないのも、僕が友達と言う存在に一歩距離を置いているからかもしれない。彼の名前は、青山翔太(あおやましょうた)。年齢も聞いてないし、なんで定時制の高校に通っているかも聞いていない。そう言うのはある程度仲良くならなきゃ話さない、そんな風潮があったから僕も彼も触れないでいた。彼の仕事で疲れてるのかって言葉は決まり文句で、会う度に言ってくる。だから僕は、そんなことないって答えて話を開始するんだ。

 彼との会話はいつも適当で何か趣旨があるわけでもなく、ただ思ったことを言い合うだけ。今日も授業が始まる前に話したことと言えば、朝のニュース番組に出ているアナウンサーが可愛いだの胸が大きいだのそんな話。そんな特に意味のない話でも面白いと思ってしまうのは、彼の話し方が上手いからかそれとも彼がいつも楽しそうに話しているからだろうか。

 僕と彼が通う定時制高校では、授業の前に給食の時間があり普通の高校では給食と言えば昼ご飯だが、僕らは夕ご飯を食べるのだ。入学してからこの給食が非常に助かっていて、仕事終わりのお腹空いた時間に丁度食べることが出来て更に給食が美味しいと言う良いこと尽くしだ。

 高校の時間割は、一日四時限目までの授業で終わるころには二十一時を過ぎている。元々中学校に通っていなかったから生活のリズムは崩れることは無く、むしろ今の生活がデフォルトになっている。しかし朝から晩まで働くと言うのは容易では無く、始めて一ヶ月も経っていないのに疲弊してきていた。だから彼の疲れているのかって言葉は実はその通りで、僕は疲れてきている。こんな生活を四年間も続けられるのかという不安もあるが、まずはやって見なくちゃ分からない。卒業までに三年じゃなくて四年と言うことにも驚いたが、時間割の少なさから改めて考えると当然だった。今のところ話す相手は彼だけ、青山翔太のみ。僕は社交的でも無いし、この学校では率先して友達を作って行く人は見る限り多くはいないらしい。だから僕も流れのままに作ろうとはせず、絡んでくれる彼とだけ仲良くなることにした。


「優真さ、ゴールデンウィークって暇か?」

 授業も終わり帰り支度をしていると、突然後ろからそう呼び止められた。バイトがあるから暇ではないが、丸一週間ある休みの中で二日は休みを貰っている。だから僕はその二日なら暇だと答えると、彼が即座に笑顔で言って来たことは予想外で、でも彼の勢いに負けて承諾してしまった。

 学校が始まる前の三月終わりごろから近所のスーパーで働いている。朝の仕込みから学校に行くまでの一六時まで。人手が欲しかったと言うことで、日曜以外毎日働かせてもらえて給料的には非常に助かる。流石に毎週週六日で働いていると勉強が疎かになってしまうので隔週で週五から週六日勤務を入れ替えて勉強もある程度は出来る時間を確保した。主な仕事はレジ打ちと商品の品出しで、行く行くは惣菜を作ったりする仕事も任されるのだとか。料理を磨くにもってこいなのかも知れないと今から少し期待している。


 ゴールデンウィークの客足はまばらで忙しい日もあれば、みんなどこかに出かけているのか閑散としている日もあった。ずっと働いていたからか目眩がしてきた。思わず頭を抱えて、膝をつく。右手で右目を押さえる仕草が癖になっているのか、頭を抱えていた手を目へと移動させるとある一人の女性が目に入った。彼女は今まさに店を出て行こうとしている。そんな彼女の頭上に文字が見えたのだ。だが遠くて見えない。 

 しゃがんでいると仲間の店員に話しかけられて僕はすぐさま立ち上がる。立ち上がった時には彼女はもう見えなくなっていた。久しぶりに遭遇した文字の見える人物。彼女の登場に僕は戸惑いを感じずにはいられなかった。



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