-山中響を助けるには-
彼女にはお金が必要だ。残り四百万の借金を返済しようにも先月分の返済が滞っている。そんな彼女に僕は何をしてあげられるのか。少し前まで名も知らぬ他人だったのに、今では大切な友人だと僕は思っている。彼女自身からも友達だと言われて、内心ホッとしていた。本心でそう思っているのかどうか、僕は彼女の本心だと思った。
だって、電話越しの彼女の声はとても楽しそうだったから。
僕は彼女と仲良くなりたいわけじゃない。そもそも友達って言葉の意味は分かっていても、友達が何なのかは分かっていないから。じゃあ何故僕が彼女と接するか。
ただの興味本位。
でもそれだけじゃない。頭上に現れた文字「金」。それが僕に使命感を与えているのだと思う。彼女は僕にとって特別なんだ。記憶のない僕のただ一つの願い。
誰かを幸せにすること。
じゃあ何をすればいいか。どうすれば彼女を助けられるのか。勉強の合間に考えてはいるが未だに解決策は浮かばない。だって僕に金は無いから。学生の身分で大金などあるはずも無い。
誰なら金がある?
ああ、そうか。悩んでいる時間が長いほど、解決策が思いついた時はあっさりしているものだ。お金が必要なら自分の臓器を売れば良いじゃないか。なんだ、こんな簡単なことだったのか。そう思ったが売れる臓器なんて腎臓しか思いつかない。だって二つあるし、一つくらいなら何とかなるんじゃないか。だが僕の考えは安易で、調べると二つあるから一つ売れる物でもないらしい。単純に言うと、臓器としての機能が二分の一になってしまう。それに両親に助けて貰った体を売ることはできない。だから僕は、両親からお金を借りることにした。それが手っ取り早くお金を手に入れる方法だと気付いたから。
両親に迷惑をかけたくない。その気持ちは常にある。でも、今回は話が違うんだ。さっきも言ったこと、彼女は特別なんだって。
「母さん、父さん、話があるんだけど良いかな。」
改まって二人の前で話すのは、僕が目覚めて家に帰って来た日以来だ。あの日は何を話したか覚えていない。僕からは何も話せていなかっただろう、だって記憶も知識も無かった。目の前の二人は身構えている。それはそうだろう、一年もこうして話していなかったから。僕には反抗期も思春期も来ていない。親との接し方なんて分からないんだ。
分かることはお願いする時は誠意を示すと言うことだけ。
山中響と出会ったこと、彼女が僕の友人であること。僕が彼女を救いたいのに、救う力が無いこと。話していて、自分の無力さを実感し空しくなる。恥を晒すことだって僕にも分かる、でも僕のプライドなんて関係無い。
「四百万貸して欲しい。必ず返すから。」
貸して欲しいと言って貸してくれるものなんだろうか。こればっかりは僕には判断出来ない。親と言うものが息子に対してどこまで援助してくれるのか。そもそも親ってのはなんだ。血が繋がっている、家族、産んでくれた人。僕は分からないことだらけなんだなって毎日思い知らされる。彼らは悩んでいるようで、答えは中々返って来ない。母はこの話をし出してから何も口に出さないし、父は僕の顔をずっと見ている。
見たって何も図れないさ。僕らの間に家族と言う繋がりはあったとしても、その言葉の意味で繋がってはいないから。僕には他人より優しい人としか感じられないんだから、どうしようもないんだ。
時間があるといつも色々考えてしまう。まるで僕の思想、価値観を否定したいかのように。何分経っただろうか、父は湯呑に注がれていたお茶を一口飲み話し始めた。
「貸すことは構わない。返すのだっていつだっていい。ただ一つ守ってほしいことがある。」
守ってほしいこと。そんなことを言われるのは初めてだ。目を覚ましてから自由に街に出歩くことに制限なんてされなかったし門限だってない。そんな僕に何を守れと言うのだろうか。
「その山中響さんと言ったか。その人との関係を続けることだ。優真、お前に何があっても縁を切ることは許さない。縁を切るのは、お前が彼女に何かを頼って、助けて貰った後だけだ。」
僕が彼女に助けて貰う?山中響に?そんな日が来るとは到底思えないし、誰かに何かを頼るのはこれっきりだと僕自身が決めていたのに。まあ僕が今何を考えても仕方が無い。お金を貸してくれる、この事実だけで良い。これで彼女が助けられるのだから。
「ありがとう、父さん、母さん。いつか必ず返すから。」
四百万を何に使うか、それは言ってない。彼女の立場を守るためである。言わなくてもある程度の憶測は立てられるだろうが。今週末彼女に会うために喫茶店に向かうことにする。借りたお金と、高校合格の知らせを持って。
更新遅くなりました。短編小説も投稿していますので良ければ読んで下さい!