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誰かのために、料理は作られる

 飲み物はヨーグルトに牛乳、塩を入れて作ったアイランをたっぷり用意した。

 アユはエリンと共に葉巻型パンとアイランを持って行く。

 出産が始まった家屋の外には、リュザールの母アズラがいた。なぜか、出入り口で槍を持ち、厳めしく突っ立っている。


「おや、我が息子リュザールの嫁ではありませんか。どうしたのです?」

「差し入れ。エリンと作ったの」

「おや、よく気が利きますね。そういえば、夕食を食べていませんでした。交代で、いただきましょう」


 家屋には三人の巫女と、ケリアがいるらしい。

 男性陣は役に立たないからと、追い出したのだとか。

 武器を持つアズラは、悪しき存在ものが入ってこないよう見張っているとのこと。

 アズラは家屋の中にいるケリアを呼び出した。


「ケリア、少し休憩してください」

「わかったわ」


 外に出てきたケリアは、娘エリンとアユが来ていたので驚く。


「あら、あなた達、どうしたの?」

「お母さん、夕食、食べていないでしょう?」

「そういえば、そうね」

「それで、アユちゃんが差し入れを作ろうって」

「まあ!」


 アユはエリンの持つ葉巻型パンを、灯火器ランプで照らした。


「とっても美味しそうだわ」

「揚げたてなの」

「ありがとう」


 ケリアは家屋の近くに置いてあった壺の中の水で手を洗い、くさむらに腰を下ろす。


 アユとエリンが声を揃えてケリアに「その料理がアーフィあなたのエット健康にいいように・オースン」と言うと、笑顔で同じ言葉を返す。


 そして、ケリアはエリンから差し出された葉巻型パンを、パクリと食べた。


「──わっ、このユフラ、すっごい!」


 暗闇の中でもわかるくらい、ユフラのサクサクという音が聞こえる。


「チーズのしょっぱさと、ほどよく熱が通ったトマトのトロトロ感がよく合っていて、美味しいわ」


 ケリアは葉巻型パンを味わって食べたあと、アイランを一気飲みする。

 そして、アユとエリンの手を掴んで言った。


美味しいエル料理を作ったその手がゼ・健やかであるようにサオルック!」


 アユとエリンは一度顔を見合わせ、お決まりの言葉を返す。


その料理がアーフィあなたのエット健康にいいように・オースン


 夜闇の中でも、料理を通じて気持ちを通じ合わせることができる。

 素晴らしいことだと、アユは感じていた。


「はあっ、美味しかった。アユちゃん、ありがとう。エリンも、すごいわね。こんな美味しい料理が作れるなんて」

「アユお姉ちゃんが教えてくれたの。私、これからユフラは作れるわ」

「本当? 頼もしいわね」


 ケリアはアユの両手を握りしめ、礼を言う。


「アユちゃん、エリンに料理を教えてくれてありがとう。大変だったでしょう?」

「エリンは、真面目でいい生徒だったよ」

「そう? よかった」


 そんな話をしていると、妊婦が激しくいきむ声が聞こえた。


「そろそろ戻らなきゃ」

「お母さん、頑張って」

「ええ、もちろんよ。美味しい料理を食べたから、一晩中だって頑張れるわ」


 その辺はほどほどにと言っておく。

 ケリアは家屋の中へと戻っていった。


 巫女は出てきそうにない。アユはアズラに葉巻型パンを勧める。


「お義母さんは、食べない?」

「食べたいですが、私は見張りなので、槍を手放すわけにはいかないのです」

「だったら、食べさせようか?」

「そ、それは……」

「はい」


 一口大に切り分けた葉巻型パンを、アズラの口元へと持って行く。

 数秒躊躇っているようであったが、そのあとすぐにかぶりついていた。


 暗闇の中、葉巻型パンを食べるサクサクという音だけが聞こえる。

 続いて、アユはアイランの入ったカップを差し出した。

 アズラは喉が渇いていたのか、一気飲みする。二杯目もまた、すぐに飲み干した。


「これは……飲みやすいアイランです。美味しい」

「よかった」

「葉巻型パンも、素晴らしいですね」


 葉巻型パンをすべて食べたアズラから、礼を言われる。


「とても、美味しかったです。きっと、我が息子リュザールも好きでしょう」

「だったら、今度作ってみる」

「ええ、そうしてあげてください。あとは私達に任せて、あなた達はもう休みなさい」

「わかった」


 ここで、アズラとは別れた。

 エリンをヌムガの家まで送ってから自らの家屋へと戻る。

 白いたちのカラマルはすでに丸まって眠っていた。ぴいぴいという寝息だけが聞こえる。

 歯を磨き、髪を櫛で梳ったあと、織物とフェルトを敷いて眠る準備をした。

 灯火器の灯りを消し、精霊に夜の挨拶をして横たわる。


 今まで賑やかな人達の中にいたからか。なぜか、寂しいような気がしてならない。

 いてもたってもいられず、アユはむくりと起き上がる。

 アユは遠くに置いてあったカラマルの籠を自らの頭上に置いて再度横たわった。

 カラマルのぴいぴいという寝息だけでも、いくらかは落ち着くことができた。

 早く、リュザールが帰ってきてほしい。そんなことを考えながら、微睡んだ。


 ◇◇◇


「ちょっとリュザール様! 結婚したってどういうことなの!?」


 太陽も昇っていない朝──否、まだ夜明け前と言ってもいい。

 そんな時間帯に、早すぎる訪問者が現れる。


 家屋の中を強い灯火器で照らされ、アユは目を覚ました。


「んっ……誰?」

「あなたこそ誰よ!?」


 聞こえるのは、若い女性の声である。覚醒しきっていないアユには、今の状況がまったく理解できなかった。


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