調停者たち
※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ございません。
作中の用語、歴史、文化、習慣などは創作物としてお楽しみ下さい。
どこまでも続く草原には、複数の遊牧民が暮らしている。
移動は夏秋冬の三回。
夏営地では、家畜の繁殖、出産を手伝い、
秋営地では、冬に備えて保存食を作り、
冬営地では、じっくり絨毯を織る。
遊牧民の暮らしは忙しい。
羊の毛を刈って紡いで糸にし、草木で色を染めて絨毯を作り、家畜の子育ての時季は乳を搾って乳製品作りを行う。夏季の繁殖期には活動しやすい夜に放牧させるなど、一年を通して休む暇もない。
ただ、彼らの生活は、外から見る分は穏やかである。
家畜――羊や馬、牛、山羊、などの牧草や水を求めて、草原を行ったり来たり。
草食動物がのんびりと草を食み、遊牧民の女達が手仕事をしながら家畜を見守る様子は牧歌的な風景だ。
そんな遊牧生活は、平和なだけではない。
近年、他国より侵略してくる侵略者が遊牧民を襲撃し、強奪と支配を繰り返していた。
侵略者は馬術に優れ、軍事能力が高かった。
襲われた遊牧民は一晩で壊滅し、財産である家畜と女達を奪われてしまうのだ。
しかし、遊牧民はやられっぱなしではなかった。
遡ること百年前、妻と子を奪われた一人の男が、『ユルドゥス』という新たな一族を立ち上げる。
草原で起こる悲劇は、異国からの侵略者による遊牧民の襲撃だけではない。
侵略者同士の諍いも多かった。
ユルドゥスは草原で起こる争いの場に現れ、紛争を解決してきた。
圧倒的な数を前に、ユルドゥスは劣勢となった。だが、ある日奇跡が起こった。
蛮行を繰り返す侵略者の一族に、風の大精霊の力が襲いくる。
ユルドゥスの者に、強い風の力が現われるようになったのだ。
風の大精霊の祝福に応えるようにユルドゥスの者達は、対立する者達の間に割って入って仲裁することを繰り返した。
草原で戦争が起こる度に、対立する者達の間に強い風が流れることがある。
それは、ユルドゥスの者達が戦場にやって来る合図である。
彼らは時に嵐のような力を揮い、争いを収めていた。
草原に住む者達は、ユルドゥスの者達を『調停者』と呼ぶ。
遊牧民達はユルドゥスを崇め、侵略者は敵対視していた。
今日も、調停者は草原で馬を駆る。
争いの戦火が立ち昇る場所へと。