第2話 個人的世界の始まり
気絶するということも珍しいが水をぶっかけられて起こされることも珍しいのではないだろうか。
そんなの初めてだ...
「おい!しっかりしろ。おーい!」
グラグラと誰かにゆすぶられている。
「う...うーん。」
俺は一体...
「でっかい捨て子もあったもんだな」
「へっ、違いねえ」
頭上で笑い声が聞こえる。
急速に記憶がよみがえる。
そして眼前に広がる青、空の色。
「どうした、青年。気が付いたか?」
見ると、鎧のようなものを着た、筋肉でできたかのような男が二人いた。
「え、ええ。ところでここは?」
そう聞くと、彼らは顔を見合わせた。
「おいおいお前、本当に捨て子なのか?」
と、スキンヘッドの男が言う。
「いや、違いますが。どうも、ね。よくわからないんです」
しかし捨て子ではないことだけは確かだ。
「はあ。馬車から振り落とされたんかな。ここはルベイナだ。精霊安息都市の」
ルベイナと聞いた途端、頭にいろいろな情報が浮かぶ。
これが、閻魔の言っていた...
「ああ。ルベイナですか、ルベイナ。知ってます」
「お前、自分の名前とかはわかるよな」
長身の男のほうに尋ねられる。
「ええ。えっと...」
「いやいや、大丈夫か?」
「ああ、はい。俺の名前はルートです」
ルート。
本名のモジりではあるが、この世界ではこれのほうがよい、と知識が告げた。
従おう。
知識には、地球人はいないとなっているが、この知識がすべて正しいとも限らないから全てを信用するわけにはいかないが…
「まあ、その様子だと大丈夫そうだな。町に入るためには、水晶判定受けてもらうがいいな?」
「町ですか?ええ、はい。町ですね。問題ないです」
水晶判定、うそ発見器か...
少し青色が映る水晶を手にかざす。
「なんだかボケた青年だな。いや、そんなことはいい。はい かいいえ で答えろ。これから町で犯罪を行う、あるいは犯罪の支援する気はあるか?」
「いいえ」
「以前、犯罪を行ったことがあるか?」
「いいえ」
「お前はルベイナに敵対的か?」
「いいえ」
「よろしい。まあルートは悪い奴には見えないしな」
「よく言われるんですよ」
悪い奴には見えないと言われ続けて、早何年だろうか
信号無視をいとも容易く行う俺に対して、そんなことを言われたら申し訳なくなるのだ。
「怖くなったって仕方ねえぞ。俺らなんてなあ、彼女も出来ねえし」
と、スキンヘッドの男が言うと、
「...そうだな」
と長身の男が答える。
ああ、俺もいないから…
「あ、あの、二人の名前を聞かせてもらっていいですか?」
「おう。俺はダバデ。でかいのがトロブ」
「ありがとうございます。では」
「おう。また会おう、ルート」
門を抜けると、そこは中世ヨーロッパのような、馬車と石と城でできた町だった。
空は青く、地には石畳。
そして胸は熱く、叫びたくなるほどに、騒いでいた。
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