所謂、普通の
「ほら、知ってるだろう。トラックにひかれて、神様からチートもらって異世界で活躍する話」
と、俺の友人が電話越しに言う。
「ああ。うん」
「でもさ、だからと言ってトラックにわざとひかれるバカはいないだろ」
彼は笑った。
携帯越しに聞こえる息遣い。
「おい、待てよ」
「僕は...僕はもう無理だ。流石にわかるよ。確かにさ、全く何の望みもないわけじゃない。でも、成功する確率が1%未満の実験のような手術をさ、受けるぐらいなら成功するかどうかなんて誰にも分らないトラック転生をやったほうがいいと思う、そう、ロマン」
「でも、だからって!」
「君には感謝しているから、どうしても伝えなきゃいけないと思って。本当に感謝しているんだ。いつまでも友人であり続けてくれたこと、ありがとう。じゃあね」
数秒後。
彼の紙のような体を突き飛ばした。刹那、まるで何かが爆発したような音を聞いた。
★★
「ほら、知ってるだろう。トラックにひかれて、神様からチートもらって異世界で活躍する話」
目が覚めた時、そんな言葉を聞いた。
「ここは?」
辺りを見渡そうにも頭を動かせない。
視界は真っ暗。
「ここは、閻魔の裁判場だ。それはともかく、何か望みはあるか?」
何が起こっているのかわからないけれど、多分、俺は死んだのだ。
死んだのだ?
「そうだね。で、何か望みは?」
まるで心を読んだかのようだ。
「望み?望み…?あいつの手術を成功させてください」
「ふふっ。最高だ。素晴らしい。いやはや、恐れ入るよ。この閻魔が恐れ入ると言うんだ。並大抵のことじゃない。お前の生前の行いを見るとたしかに、さもありなん。うん、引き受けた」
「そんな大それたことじゃなく、俺の命が無駄になるのが嫌だってことですよ」
「わかったよ。わかってる。そして私から一つプレゼントをしようじゃないか。特別に記憶を消さずに、肉体の造形も同じで生活させてあげよう」
「え?あ、はい。どうも」
肉体と聞いて急に、死を自覚した。
「うんうん。礼を言える若者は大好きさ。話が飛びすぎだと思うが時間がないんだよ。さて、細かい説明をしよう。
なぜ君が異世界に行くことになったのかというと、因果的な面が多々ある。
トラック云々だけじゃあ、さすがに弱いけどね。まあ、細かい条件を満たしたんだ。
運命的にね。
次に、どんな世界かというと地球の物理法則とは違う次元の世界だ。
これはしょうがないことなんだよ。転生というのはね、同じことを繰り返してはいけないということがある。
例えば極悪人を同じ条件で転生させたとしてもただ、業がたまるだけだ。転生させた意味がない。まあ、だからね、こればっかりはあきらめてくれ」
「あきらめるも何も、どうしようもないんですよね。それに記憶があるというのがどれだけありがたいことか...」
忘れるというのは何よりもつらいことで、覚えているということは何物にも代えられない宝だと思っている。
それが例え、どんなに嫌なことだとしても。
「良いことを言うじゃないか。まあいい。時間は有限だ。私がサポートするのは異世界の言語を脳に入れることと異世界の知識を脳に入れること、それと少しのサービスさ」
「はあ。しかし実感がわきませんね。落ち着いてはきたものの、いまだに何が起こっているのかわからないですから」
「無理もない。ああ、そうそう。地球の知識を広めるのはやめてくれ。薬に科学に芸術に、なんにせよそれをやったら罰が当たるよ」
「わかりました」
罰が当たる、と言った時、少し寒気がした。
「そろそろ時間だ。良い生活を」
そこでまた、意識を失った。
友人に対しては、少し申し訳ないような気持ちがあったりする。
★★
「ほら、知ってるだろう。トラックにひかれて、神様からチートもらって異世界で活躍する話
とか言ったけど、そんな話にはならないような、なるような…」
閻魔はそんなことを呟いて、仕事に戻る。
ここまでお読みください、誠にありがとうございます。
次から本編となります。