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◇「対」


XX県の山間に、大正の中ごろ土砂崩れで人が住まなくなった廃村があった。


197X年、その場所を通る形で高速道路を建築する計画が立てられ、村一帯の調査が行われることになった。すると集落の墓とは別に塚があり、調べてみると塚は全部で九つ、それぞれ二十年から五十年の間隔が空いており、最も古いものは江戸初期から最も新しいものは大正期|(おそらく土砂崩れがおきた直前であろう)のものであることが分かった。


それぞれの塚には人と動物の骨が一緒に埋められており、塚一つあたり一人分の六歳前後の女の子供の骨と一頭分の牛の骨が埋葬されていることがわかった。一番古い塚から八つ目の塚までは同じように人と牛、一対の骨が埋められていたが、最後の最も新しい塚だけは人の頭蓋が一つ余計に埋められていた。


この塚と骨を文化財とするべきかどうか議論となり、塚の由来を知る者を探すことになった。

村の事を知る者は少なく難航したが、地主の一人であった老人から証言を得ることが出来た。


この土地では、稀に牛の頭を持った子供が産まれるという。その牛頭の子は全て女子で、産まれたときに産声を上げず、成長しても決して言葉を発することは無いという。牛頭の子が産まれると、名主の元に引き取られ大切に育てられる。


そして牛頭の子が産まれてからきっかり五年後、今度は牛から人の頭を持つ牛の子、いわゆる(くだん)が産まれる。件が産まれたら名主に連絡して、牛頭の子を連れて来て会わせる。


件は牛頭の子と会うと、これから起こる災害や厄災について語り始め、牛頭の子はそれを聞いて一度だけ言葉を発し、それらの災害や厄災を解決する方法を語るという。そして互いに語る事を終えるとその場で両方共息絶える。件と牛頭の子の亡骸は一緒に埋葬され、いずれまた災害や厄災について知らせてくれるようにと塚を作り大切に祀っていた。それがこの一連の塚なのだそうだ。


災害や厄災について事前に知ることが出来、さらにはその解決する方法まで知ることで、村は戦乱や凶作に巻き込まれることがなく、長いこと繁栄していたらしい。


ところが大正に入って五十年ぶりに牛頭の子が産まれたとき、その異形な姿に恐怖した父親によってその牛頭の子は殺されてしまった。


五年後に件が産まれても、これから起こり得る災害や厄災を知るすべも、その解決方法も分からなくなってしまったことを憂えた村の住民達は一計を案じる。


たとえ解決方法が分からずとも、どのような災害や厄災が起きるのかだけでも知ろうとしたのだ。


そして五年後、件が産まれたとき、ただの娘(・・・・)に牛の頭を持たせて引き合わせた。すると件はこれから起こる災害のことを話してやはり死んだと言う。これから起こる災害のことは分かったが、解決する方法がもたらされなかったため、住民は村を捨てることにした。


斯くして件の予言どおりに災害が起きたが、被害者は出なかったと言う。


ただ一人、牛頭の子の替わりを務めた娘だけはそれまでの慣習に習うという(てい)で、件の死体と共に生きたまま埋められた。

この娘が誰の子で、そもそも村の子であったのかどうかは老人は知らないと言う。


老人の話はとても信じ難い内容だった。骨は完全に人と牛のもので、本当に牛頭の人や人頭の牛がいたとしても、判別は不可能だろうということになった。


だが、議論の争点はこの一帯の塚とそこから出土した骨が文化財として認定すべきかどうかであったため、話の信憑性はそれほど重要視されることはなかった。結局、歴史的価値はないため文化財とは見なされず、工事はそのまま着工されることになり、世間に公表しないことに決まった。塚から出た骨は集落の墓のものと合わせ、違う場所に埋葬された。


もし仮に老人の話が真実であるならば、最後の塚から出た骨は人の頭蓋が一つ余計に入っていたのではなく、牛の頭蓋が余計に入っていたことになる。


現在ならDNA検査でバッチリわかっちゃうんでしょうね。

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