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祝賀祭 藤の花籠と氷の大魔法使い

なかなか状況の説明とか描写とか難しくて四苦八苦しつつも楽しんで書いているので、読んでくださった方も楽しんでくださると良いな、と思います。

「四季ある国」で生まれた魔術師達は、魔法を習いに留学するのが一般的だ。

一昔前なら留学する人は珍しかったが、魔術、というのは季節や気候の変化の影響を受けやすい。

魔法を身につけると魔術の暴走も少なくなるらしい、と分かってから魔法を習うのが一般的になった。

海外である程度魔法を身につけて故郷に帰る、というのが一般的になり、優秀な先生を国も呼び寄せようと考え始めて、最近では「四季ある国」でも魔法が学べるようになってきている。

かく言う僕も「愛と美の国」で魔法を身につけた。

先生や周りの人は理知的なようで情熱家で何かと言うと

「愛だよ、愛。」

というのが口癖で、僕は随分戸惑った。

慣れるのに時間がかかったものだけど、今では良い思い出だ。

桜が満開の校庭は、祝賀祭の飾り付けがされていて、立食形式で料理や飲み物も振舞われる。

魔法使いが各国から出席していて賑やかだ。

なぜこんな賑やかなお祭りのようになっているかというと、今日は新しく出来た魔法使い育成学校の開校式だからだ。

魔術と魔法が両方学べる学校にする、ということで、国からも支援を受けて建てられた。

留学から帰ってきた魔術師兼魔法使いも運営に関わる。

僕も教壇に立つことになりそうだ。

開校式は、どうせならお披露目式もかねよう、ということで、学校関係者たち、行政の関係者、新入生だけでなく、各国の「四季ある国」の人間を弟子にしている魔法使い達にも招待状を送ったら、意外な程出席率が良かったらしい。

人が多過ぎて体育館では手狭になってしまい、結局ガーデンパーティのように校庭で、会を開こうということになった。

後輩の祭くんに言わせると

「町内会の盆踊り大会みたいだ。」

ということになるんだけど、運営委員の努力の甲斐あってそれなりに華やかな雰囲気になっているし、「四季ある国」の学校の様子も外国から来た人達にはそれはそれで珍しくて楽しいみたいだ。

今はそれぞれの祝辞も終わり、皆用意された料理や飲み物を取って、歓談の時間を楽しんでいる。

「イオリー!イオリーッ!!」

皿を片手に叫んでいるのは僕の師匠、シャルル=シモン・バレ先生、僕の師匠だ。

料理を運んでいたらしい女性の手を取っている。

「どうしたんですか?」

僕はああ、またかと思いながら僕は先生に近付いた。

「どうしたんですか?」

「イオリー、この美しいゴフじんに、私がすばらしーい魔法使いダということを知らせてクダサイ。」

片言の「四季ある国」の言葉で訴えてくる残念な男前に僕は大袈裟に溜息をついてみせてから、僕は先生から女性を解放した。

「この人は僕の師匠で、確かに素晴らしい大魔法使いですが、少々女性にだらしないんです。許してあげてください。」

クスクス笑いながら女性が盆を掲げて去って行くのを先生は名残惜しげに見送った。

「イオリー!彼女いってしまいマシタ。」

「先生、彼女もお仕事中なんだから、邪魔したら駄目ですよ。大体なんでそんな片言で話しているんですか?」

澄ました顔の先生を見上げて、僕は呆れた。

「魔法を使ったら良いじゃないですか。」

魔法使いは魔法でそれぞれの国の言葉を翻訳して話すことができる。

魔法をかけてが言葉が違う人同士が会話できるようにすることもできる。

「イオリ、それでは魔法の影響ウケるデショ?」

にっこり笑いながら皿に取っていた田楽を食べ始める。

田楽に焼きそばに唐揚げ・・・本当に夏祭りみたいだ。先生、もっと良いもの食べてください。

「イオリだってデキタノことですから、ワタしでもこの国の言葉つかえます。」

その言葉に僕はちょっと赤くなった。

言語の魔法は、かける魔法使いの影響を受けてしまう。悪意のある魔法使いによって商談が潰れた、という事件も稀にだが起こる。

それを嫌って「四季ある国」では自分で言葉を学ぼうとする人が多い。

魔法使いが少ないから魔法に対する拒否反応がある、というのもある。

それにまず魔術には言語の機能を操るものなんてない。

留学した魔術師は一から魔法を学ぶと同時に、一からその土地の言葉を覚えて行くしかないから自然「四季ある国」の魔法使いは何カ国かの言葉をはなせるようになる。

「それにですネェ。」

うふふと先生はクネクネし始めた。

我が師匠なら気持ち悪い。

「言葉を覚えようとガンバってる姿可愛らしいとイオリモテテマシタ!私もモテモテなりまぁす。」

なんて答えようか考えていると

「伊織くん。」

祭くんが顔を見せた。

皿に取った大量のケーキを次々とたいらげている。

その毒気を抜かれる姿の後ろに背の高い綺麗な顔立たな男の人が立っている。

その無表情な綺麗な顔と漂うひんやりした空気で、彼が祭くんの師匠『氷の大魔法使い』だということが紹介されなくても分かった。

今まで遠目でしか見たことがなくて、ゆっくり話すのは初めてだからちょっと緊張する。

しばらくとりとめもない話をしてから、もう少ししたら叔母さんが「乱舞」をするから一緒に見に行かない?と祭くんが誘ってくれた。

先ほどから、会場の真ん中に舞台が作られ、この学校の関係者たちが魔法や魔術、「四季ある国」の伝統的な歌や踊りなんかを披露している。

「それは楽しみだね。」

「うん。」

僕と祭くんは顔を見合わせてにっこりと笑った。

祭くんの叔母さんも魔術師だ。

植物を扱うのがとくいで、その様子がとても美しいと昔から評判だった。

僕も小さい時から収穫を祝う季節の奉納祭などで、彼女の姿を見て魔術師に憧れた一人だ。

舞台に向かう僕らの後ろに二人の大魔法使いも付いてきた。

重ねた衣の色合いが美しい古典的な衣装を着た祭くんの叔母さんが、舞台の上に姿を現した。

外国からの賓客達がざわめく。

叔母さんはゆっくりと手に持った扇を開き舞い始めた。

優雅な舞に、どこからともなく溜息が聞こえた。

「・・・・・!」

小さく母国語で先生が感嘆の言葉を呟いた。

優雅に舞いながら、小さく歌う声に合わせて舞台上に藤の花が枝垂れ落ちては螺旋状に舞い上がる。

甘い香りが漂う。

祭くんはもちろん、祭くんの師匠も感嘆しているのが無表情の中にも感じられて、僕は同じ魔術師として、幼い頃から知っているものとして誇らしかった。

藤の花の香りが漂い、花びらが舞い散る中、「乱舞」は終わった。

一瞬の沈黙の後、大喝采を浴びて舞台を降りた祭くんの叔母さんと話そうと、僕らは叔母さんに歩み寄った。

「素晴らしかったデス、とてもウツクシです。」

「ありがとうございます。」

先生の言葉に祭くんの叔母さんはにっこり笑って返事をする。

昔からだけど、相変わらず可愛らしい人だな、と思いながらその様子を眺めていたら

「・・・・・・・・。」

氷の大魔法使いが突然喋り出した。

喋り出したのだが、どうも母国語で話しているようで祭くんにしか伝わっていない。

叔母さんはオロオロして祭くんに目を向けた。

「え、えと、とても素晴らしかった、あんな素晴らしいもの初めて見ました、だって。」

「・・・・・・・」

「祭にも「乱舞」を見せてもらったことはあるがこれほどではなかった、だって」

「・・・・・・・・・・・・」

氷の大魔法使いの口はまだまだ動いている。それを聞いている祭くんの顔はどんどん赤くなる。叔母さんは二人を見てオロオロしていて、僕と師匠は呆然としている。

氷の大魔法使いは眉間に眉を寄せると、パチンと指を鳴らした。

あ、魔法が動いた、と思ったら氷の大魔法使いは改めて口を開いた。

ものすごい勢いで祭くんの叔母さんに対する口説き文句が雪崩れてきた。

・・・・・すごかった、本当にすごかった。

僕どころか、あのシャルル=シモン・バレまで砂を吐きそうになっていた。

叔母さんを花と星とスイーツに例えて例えて例えまくった時はきいているこっちが失神しそうになった。

最終的にはハイビスカス咲く南の島での結婚式の描写に及んだ時には僕は呆然を通り越して遠い目になっていた。

全く表情を変えることなくこんなこと話せるって氷の大魔法使いって色んな意味で怖いな。喜怒哀楽はっきりしている僕の師匠の方がマシなのかなぁ、なんて思ってたらやっぱり叔母さんに限界がやってきた。

もうやめてぇっ!と小さく叫ぶと同時に走り去ってしまった。

耳まで真っ赤だった。

氷の大魔法使いは追いかけようとしたんだけど、叔母さんが操ったらしい藤の蔓が絡みついて足止めをした。

ついでにカンカンに怒った祭くんの説教が彼を待っていた。

校庭の隅で起こったこの事件は幸か不幸か僕ら以外気付くことはなかった。



衣装を着替えてきた祭くんの叔母さんが遠くに見える。

同僚らしい人と料理を食べながら、何か喋って笑っている。

その様子を遠くから氷の大魔法使いは柱の陰から隠れて見つめている。

・・・怪しい。

弟子に、叔母さんの何メートル以内には近づかないでください!とか言われたらしい。

時々魔法が制御出来なくなって地面を凍らせたりしていてますます不審人物だ。

残念な男前がこんなところにもいたんだなぁ、と僕は思った。

不審人物の大魔法使いから少し離れた場所で、祭くんと僕と僕の師匠は座り込んで喋っていた。

祭くんは打ちひしがれていた。

そりゃあそうだろう、自分の師匠が自分の身内を熱烈に口説く現場を見ちゃったんだから。

「ふ、普段はね、本当に凄い人なんですよ。」

「うんうん。」

「クールでね、理知的でね。」

「今日は本当に・・・ナンといいますかね。」

「なんですか?」

「そうそう!スットコドッコーイです。」

「うわああんっ!」

「先生!」

祭くんは頭を抱えてしまった。もう半泣きだ。

「どうしたら良いんでしょう?」

なんとなく答えは予想できたけど、僕は先生に尋ねた。

「放っておくしかないでしょう、結局は二人の問題デース。」

「でしょうねぇ。」

僕だってそのくらいは分かる。

だてに「愛と美の国」で長年過ごしてはいない。

僕はポンポンと祭くんの肩を叩いた。

「祭くん、叔母さんのこと心配だと思うけど、もう少し様子を見守っていた方が良いよ。」

うんうんとしかめっ面を作ってみせて先生も頷いてみせる。

「結局大事なのは・・・。」

僕と先生の声が重なった。

「「愛だよ、愛。」」



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