84.夢も希望もない
……いや、じっくり待てば、いつかは……
昼前。例の場所。……の、入口あたり。
具体的にどこが入口なのか、というか“例の場所”という領域がどれくらいの範囲なのかは分からない。だから僕は適当に“ここ”を“入口”としている。けっこうどうでもいい話だけど。
自転車を停め、鍵をかける。盗まれる心配はないと思うけど一応。鍵をポケットに仕舞い、奥へ向かう。
歩きながら、上を見上げてみる。
高木の枝や葉が風に吹かれて、木漏れ日の形を様々に変える。木々の合間を、名も分からない小鳥が二、三羽飛んでいく。……あんまり上見たまま歩くと危ないからやめようか。木に顎とかぶつけても嫌だし。
ここには先に槙が来ている。10時くらいに家を出たらしい。……家に呼びに行ったらいなかったのだ。
どうせ猫と戯れてるんだろうなぁ……。
はあ……僕も猫と戯れてみたいよ。どうして槙ばっかり……。
……槙発見。やっぱり猫と遊んでる。うらやましい……。
このまま出ていくのも癪なのでしばらく観察しようと思う。異論はないな?イエス ボス。
「…………」
「…………」
会話はない。しかしいつも通り、槙は猫を抱えている。今日は仰向けで抱かれている猫。……人間で言ったらお姫様だっこだよね、あれ。片手で抱えてるけど。猫が女の子ならまだしも、男の子だったら何か色々大変な事になる気がする。猫が突然人間になったら分かりやすいと思うけど、もし女の子だったら僕の心が折れるかもしれない。槙に負けるなんて……。
「…………」
「……そういや、お前性別どっち?」
「にゃ?」
槙、猫に聞いても教えてくれないと思うよ。人語は話せない訳だし。自分で見た方が早い……ていうか、え?今猫ちゃん返事しなかった?
「……まぁ、どっちでも良いけどな」
「にゃっ」
良いんかい!猫ちゃんは差し出された槙の指に猫パンチを繰り出してじゃれている。くう……うらやましい……!
「……天気良いな」
「にゃ」
やっぱり猫返事してるよね?してるよね?
うう……猫が人間にならなくても心折れそうだよ。もうハートブレイカー槙って呼ぼうかな……。
槙「ところで樂はいつまで隠れてるつもりだろうな?」
猫「にゃっ」
樂「見つかってた!」




