8.絶対の真理
今回は文字数がいつもの半分程です。
高み。それを目指すのはもはや人類の性だと、僕は思う。他の人よりも少しでも上へ行こうとする。その“高み”とは、どれだけ上り詰めても見えることは無いだろう。しかしそれでもなお、人は高みを目指そうとする。
それは僕も例外ではない。僕も同じ。
僕だって“上”を目指している。常に、更なる高みへ向かおうと尽力している。
僕が目指すはあの坂の向こう側。
僕は急ぐ。誰にも先を越されないように。
僕は急ぐ。全力で、息を切らしながら。
僕は急ぐ。…否、急がなければならない。僕にはもう、時間がないのだ。
だから、急ぐ。
人は、言う。
そんなに急いで何処へ行くと。
決まっている。あの場所だ。僕には、僕達には、あの場所しかないのだ。
人は、言う。
急がば回れと。
無茶を言うな。ここ以外に、道などないのだ。
僕は、あの場所を目指す。
僕達に、それ以外を求めても、それは“愚”としか言えない。
それほどまでに、僕達はあの場所に執着している。
それだけのものが、あの場所にはあるから。
だから、僕はあの高みを目指し、険しい坂をかけ上がる。
例え他人からとやかく言われても、ひたすらにあの場所へと向かう。
例えあの場所へたどり着く過程に、大きな苦難が待ち受けていようとも。
僕が悪戦苦闘していると、僕の横を一人の男が駆け抜けてゆく。
彼はさして疲れた顔をしておらず、すっと走って行った。
それが誰なのか確かめたくて、僕は目を凝らす。
それは―――槙―――だった。
普段の彼からは到底予想できないような、抜群に高い運動神経。
そしてあれは、槙が僕達と談笑している時の顔。
槙にとって、この程度の坂など全力を出すに値しないのだろう。
僕がそう思案しているうちに、槙は更に遠のいてゆく。
追いかけたい。追い付きたい。いつものように笑い合いたい。
この苦難の嵐の中、ひとつだけ見つけた友達。
しかし、槙はなお速さを落とさない。遂には、見えなくなってしまった。
追いかけよう。追い付いて、あの上で槙に会おう。
―――僕は走る。あの高みを目指して。
――あと少し、あと少しで今見える一番の高みへたどり着く。
あと少し、あと少し、あと少し―――
不意に、足が楽になる。
足下へ目をやると、そこはもう坂ではなかった。
たどり着いた。遂にここへ来た。
目を前へ戻すと、そこには微笑をたたえた槙が静かに立っていた。
そして、それは僕が自転車で坂を登りきった瞬間だった―――。
さて、学校までもう少しだ。
樂「――っていう夢を見たんだ」
槙「起きろ」