70.無理がある
「例年より今年は暑いです!」
視点 槙
「………………」
夜。自分の部屋。暗くて時計は見えないが、恐らく11時あたりだと思う。
窓の外では星が輝いている……と言いたいところだが、生憎と今夜の空は雲に覆われていて星はおろか月すらも見えない。そもそもカーテンが閉まっているだめどの道見えない。
辺りはシンとしている。虫は論外で、カエルすらも鳴いていない。聴こえるのは道路を走る自動車の音のみ。風情も趣もあったモンじゃない。
相変わらず気温と湿度が高い。正直気持ち悪い。……不快指数ってどうやって割り出しただろう。
とりあえず、今言いたい事は一つ。
「ぅあっっっっっついッ!!」
なんだこの環境は!蒸し風呂か!
「うるさいなぁ君は……このくらい我慢しなさい。男の子だろう」
「槙、かけ布団めくりながら上体起こさないで……寒いから」
「いや暑いわ!そもそもお前らがここにいる事が原因なんだよ!」
「「…………?」」
「キョトンとすんな」
ここにこの暑さの原因となっている物体が二つ。……まぁ幼馴染み二人なのだが。コイツら、今日は泊まりで家に来ている。明日休みだし。
そして、この家には余っている布団という物がない。掛け布団だけならあるのだが、仮にも客となるこの二人にそんな失礼なマネはできない。
という訳で、俺の布団で三人まとまって寝る事になっているのだが。
「寝れるかぁ!!」
「槙、突然どうしたんだろ」
「しっ、見ちゃいけません」
「ひでぇな!というか、お前らなんでわざわざ泊まりに来てんだよ。布団ないの知ってるだろ?」
「良いだろう別に。人肌が恋しくなったんだよ」
「触れあうなら時と場合を考えてくれ……」
「それに明日もどうせ会うんだがら、最初からこっちにいた方が楽じゃん」
「そうだけどな……」
なら布団持参くらいして欲しいものだ。
「だいたいな、三人同じベッドで寝るとかそろそろ厳しいんだよ」
「入れるじゃないか」
「入れるがな、この時期は暑いだろ。ほぼ密着状態でさ。このベッド シングルだし」
「何?槙はキングサイズが欲しいの?」
「そんなには要らんわ。セミダブルで充分」
キングとか部屋が埋まるだろ。
「あとスルーしてたけどさ、柚」
「なんだい?」
「ブラくらい着けろ」
「!? 君、なんでボクが着けてないと知って――ハッ!?もしや、触っ……」
「見れば分かるわ。ほら、はよ着けてこい」
柚も上、シャツ一枚だし。結局暑いんじゃないか。
「ムレるんだもの」
「掛け布団しっかり掛かってる方がムレるわ。三人入ってんだぞ」
「……ボクがノーブラでも誰も被害なんて受けないだろう?」
「ハイハイそうだな早く着けてこい」
「雑じゃないかい?」
柚が下着を装着すべく部屋から出ていく。もう少し常識をわきまえて欲しいものだ。俺が小さくため息を吐いていると、樂が話かけてくる。
「柚ってホント、無防備だよね」
「まったくだ。俺達が襲うとか考えないのか」
「考えないんじゃない?現に襲わないし」
「ていうか襲えないだろ」
「そうだね……目の保養にしようにもね」
「見慣れ過ぎててな……」
「うん……」
「柚って……猫だよな」
「猫だよね……」
無防備という点ではあの猫と同レベルだ。
そんな話をしていると柚が戻っ……。
………………。
「……ツッコまないからな?」
「なんだ。つまらないな」
柚が上半身ブラのみで戻ってきた。シャツくらい着ろと心の中でツッコんでおく。
完全にツッコミ待ちだったようで、シャツを着る柚。そして布団に潜ってくる。
「さぁ寝ようか」
「だから暑――はぁ」
諦めよう……。もうどうにもならない事だ。死にはしないだろう。
「二人して掛け布団しっかりかけないでくれな?俺が真ん中だとお前らが引っ張るせいで足すら出せないんだからな?」
「なんだ、バレてたんだ」
「ボクは気付いていないと思ってたんだけどなぁ」
「お前ら……」
だいたいなんで俺が真ん中なんだ?
「ホラ寝ろ」
「良いじゃないか。明日は休日。何か話そう」
「寝る前に喋るのって、普通はみんな違う布団で向かい合ってやるんじゃないの?」
「ボク達にそんな常識は当てはまるとでも?さあさあ、話そう」
「良いけどさ、何を?」
「……えっ…………と、恋バナとか?」
「あると思うのか?」
「………………」
「………………」
「………………」
「……寝ろ」
「……うん。そうだね」
仲良いですねぇ……
え?恋愛要素?なにそれ美味しいの?




