57.使われない半袖
使わない物が配られるのは何故でしょうか?
わいわいがやがや。授業中だというのに皆さん騒ぎ放題である。ほとんど全員が席を立って歩いている。それなのに先生は注意のひとつもしない。
まぁただ単に作業着の半袖が配られて、それの試着中だからなのだが。
「これって作業する時に着るんだよね?これから暑くなるもんね」
「着るとしてもわりかし危険性の少ない作業だけだろうけどな」
「え〜?じゃああんまり意味ないじゃん」
「普通は作業着に半袖なんてないだろ。俺が見た事がないだけで実は存在してるのかもしれないけど」
「確かにあんまり聞かないけどさ」
「だいたい考えてもみろ。溶接やらなんやらの時に半袖でいられるか?フライス盤とか旋盤とか。少なくも俺は嫌だ」
「……切り屑とか飛んできそう」
「危ないだろ?」
納得。
作業着を羽織ってみる。……うん。軽い。作業着にしては。それに背中あたりも生地が薄くなっていて涼しい。作業着にしては。
「……ふむ。サイズは問題無いな」
「……一度試着したはず」
「確認だ確認。それと唐突に会話に参加するんじゃなく最初から参加しててくれ。なんかびっくりする」
「……実はそれが狙い」
「趣味悪いな」
「突然ワープしてくる槙に言われたくない……」
「やかましいわ。ワープとかしてないし。単にステルス機能搭載なだけだし」
「……じゃあちょっと消えてみて」
「ステルスって消える訳じゃないから……」
槙と愀が何やら漫才をしている。珍しいから少し見ていよう。
「……いや樂、続きなんて無いからな?」
「残念でした……」
「読心!?」
「これはどのタイミングで着るんだろう……」
「まぁ、板金あたりなら半袖でも大丈夫そうだからその辺じゃないか?」
「そもそも工業の実習がなければこんなもの必要無いと思う。機械や情報の授業もいらない」
「工業高のアイデンティティを根本から否定してるな」
「だってそう思わない!?」
「思わん」
やれやれ。相変わらず槙は頭が固いなぁ。もう少し広い視野を持って生活してほしいものだ。
「樂はもう少し現実を見たら良いと思う」
「バカな……。僕が現実を見ていないと?」
「全くではないが」
「肯定された!?」
「いやだってそのつもりで言ったんだから」
「趣味悪いね!」
「自覚してる」
「なんて性格の悪い奴だ!僕はこれまでこんなに酷い奴を見た事がないぞ!」
「酷い言われ様だ」
「事実だろう!」
「そうだな」
「肯定された!?」
「おーいそろそろ席つけー」
……先生のご命令が入ったので漫才は終了。続きはまた後でしよう。たぶんやる気なくなるけど。
槙「板金の時には着れるらしいな」
樂「まぁ妥当なところだろうね……」




