45.槙の一人語り2
槙君が誰にともなく語ります
その2
視点 槙
「雲行きが怪しいな」
「にゃあ」
例によって、例の場所。ここは居心地が良い。例え天気が悪くなりそうでも。
ところで猫だが、今日は抱かれている訳ではなく俺の膝の上で丸まっている。可愛い。そしてこの体勢でもなお返事をするあたりもまた可愛い。
そういえばココを見つけたのはコイツ……いや、コイツの先代に誘われたからだった。
10年前……いや、多少前後するがそのくらいの頃。自転車に乗れるようになってテンションがフルボルテージな状態になっていた俺は、そこらじゅう駆け回っていた。もちろん、初めの頃は知っている道しか通らなかったのだが、“迷わず帰って来れる”という謎の自信から“探険”に出掛けた。よく晴れた初夏だった。……はずだ。
とりあえず手始めに知らない脇道に入ってみた。
迷子になった。
ビックリする程早い段階で迷子になった。当然といえば当然なのだが。
路頭に迷った(用法が違うが)俺は、とりあえず帰ろうとがむしゃらに進んでみた。
周辺が見た事もない場所になった。
今思えばそこまで長い距離でもないし、一度通れば覚えられる道のり。とはいえ今と10年程前では色々と違う。頭とか、第六感の発達具合が。
完全に迷った俺は足りない頭でどうすべきか考えた。多分、30分程。もちろん答えなど出なかった。
諦めかけた時、先代が姿を現した。
ご覧の通り動物好きである俺なので、その後の行動は単純。帰る事を頭から削除して、いかに猫を撫でるかを考え始めた。
考えているうちに猫が飽きてしまったらしく、どこかへ行こうとする。現実逃避したい俺は追いかけた。
今やろうと思ったら相当無理をしないと通れない、もしくはもはや無理な道を通って、最終的にたどり着いたらのがこの場所である。自転車?考え事してた場所に放置だよ。後で回収はしたがね。
「雨、降らなければ良いけどな」
「にゃ?」
俺の指をかじって遊んでいた猫が素っ頓狂(?)な声をあげる。コイツ無防備過ぎるだろ。柚かお前は。
その時の先代には結局触れなかった。早々に諦めた俺は全力で帰り道を探し、門限前には家に帰れた。猫を眺めて和み、冷静になれたのかもしれない。教訓。まず猫でも愛でて落ち着け。
その場所と猫が頭から離れなかった俺は、後日ココを目指した。今の俺なら確実に止める。また迷子になるのがオチだ。
そして、いらん奇跡は起こる。
……いや、必要だけれども。
何故か、この場所にたどり着けたのだ。その日を境に、この周辺で迷う事は無くなった。
ここに来られるようになった俺は猫を毎日誘い始めた。そして毎日来る俺に馴れたのか諦めたのか知らないが、猫に撫でさせて貰えた。多分、3週間程だったと思う。個人的な体験から行くとかなり早い。
それからこの場所の奇異さに気付き始めた。あの建物も発見した。以後、ここに住み着く……もとい、入り浸るようになった。
「先代、あっちで元気にしてるかな」
「にゃー」
猫がやや小さめに声を出す。コイツ本当に俺の言葉理解してるんじゃないのか?
「お前は元気か?」
「にゃん」
「そうか、それは良かったよ」
「にゃっ」
気のせいだな。気のせいだ。可愛いから良いじゃないか。
手を顔の前に持っていくと手でじゃれ始める。警戒心ゼロ。樂や柚が見たら確実に言う。「君はなんでそんなに猫に好かれるのさ!」知るかよ。
なんだか眠くなってきた。少し、仮眠をとろう。
「じゃあ猫、手であそんでて良いから五時半頃に……30分ほどたったら起こしてくれ」
「に゛ゃっ」
指咥えたまま喋るなよ。
そう心でツッコミを入れつつ、俺は眠りに落ちていった。
猫「にゃ~」
槙「ん……あぁ、おはよう――って、雨降ってるし!」
猫「にゃっ」
槙「ちょうど30分だし……」




