36.忘れ物
忘れ物には注意しましょう……!
「槙ー、学校行こー」
『おーうしばし待てーぃ』
朝。槙の家の前。
現在時刻は7時56分。今から学校へ向かうと到着からHRまでおよそ30分という、良い感じの時間である。
インターホン越しに槙に呼び掛けると即座に返事が返ってくるあたり、既に準備はできているようだ。
「はよ」
「おはよー」
「やれやれ……」
「どしたの?」
槙が自転車のスタンドのロックを蹴りながら疲れた声を漏らす。月曜なのに疲れてるって槙……。
「いや、なんか自転車の鍵が見当たらなくてさ」
「探してたんだね」
「あぁ。洗濯物(洗濯済)の下に埋まってた」
「方付けなよ」
「親とか姉が部屋に放り込んでそこから放置なんだよなぁ」
ダメ人間め。
声に出して言ってやりたいが、そんな事をしても苦笑しながらの「そうだな」が返ってくるだけだろうから言わない。
「そういえば今日レポートの提出日だけど大丈夫?」
「あぁ、問題無い。昨日の夜は一時半まで起きてて仕上げたからな」
「うん。提出日的には大丈夫だけど睡眠時間的には大丈夫じゃないね」
――――――――――
学校に到着。教室までの時間を割愛。
槙がカバンを漁りながら驚いた表情を……いや、驚いたというよりは“絶望”という表現の方が正しい気がする。
……一応聞いてみるか。
「槙、どうしたの」
「…………た」
「た?」
「レポート、家に忘れてきた」
「…………」
え?は?ちょ、ちょっとそれってマズイんじゃないかな?
「えっと、槙?」
「なんだ」
「情況を整理するよ?槙は昨日必死になって書き上げたレポートを家に忘れてきた。今から取りに帰っている余裕は無い。ここまではOK?」
「OKだ」
「で、今日はレポートの提出日。機械実習はテストが無いから評価の大半はレポートであって、提出日に提出できなかった場合は単位不認定と」
「……そういう事だな」
「いや槙、なんでそんなに冷静なのさ?最悪留年だよ!?」
「わりとあわててる。偏ったキャラ育成をしてる時に一番強いキャラが死んだ時ぐらいあわててる」
「キャラはバランス良く鍛えようよ!そんなんだから砂パに弱くなるんだよ!」
「別にポ◯モンに限った話じゃないけどな。F◯零式だってそうだ」
うん。確か一人だけLv99で次点が70代だったね。ジュ◯ッカの塔とかアイテムフル活用だったもんね!
「ていうか君はアイテムに頼るプレイをやめようよ!使うアイテムが敵ドロップだけでしか入手できないのに99個集めるとか暇人かよ!」
「入手難易度は高くないだろ。200体程倒せばすぐに」
「……その200体って多く聞こえるけど99個集めるのに200体ってすごい少ないよね」
「そうだな……てか◯ュデッカの塔とか敵が規格外なんだから仕方ないだろ。何Lv128って」
「君のやり方もえげつないけどね」
敵の出現位置の近くに立って消費MPゼロのアイテムを使い、効果時間中に持続の長い連続ダメージ技を連発。出てきた瞬間死んでいく敵達。
「まぁ確かにあれくらいしないとやってられな……って、今はアイテムも砂パもアギ◯の証も関係無いでしょうが!レポート忘れて何呑気にゲーム談義してるのさ!」
「俺のボケに真面目に反応して話を拡大したのはお前だ」
「どうでもいいよ!」
「良かねぇよ」
「……で、レポートどうするの」
「どうしよう。放課後に提出するために登校する?」
「……それしか無いんじゃない?それ以外だと――」
「号令〜」
「きりーつ」
HRが始まった。しばらく話はできない。
あれ、担任いつから教壇にいた?
樂「で、槙どうする――」
槙「あ、ファイルに挟まってた」
樂「槙のお馬鹿ぁー!」




