21.てのひら、きりきず、大根おろし
関係無いけど
紙で切ると凄い痛いよね
「ん?」
「どうしたの。宇宙人からのメッセージでも受信した?」
「しねぇよ。ほらこれ」
平日。振り替え休日(部活の大会による)。昼過ぎ。槙の部屋。
槙が手のひらを見せてくる。
…………何も無い。
「どれ?」
「これ」
何も無い。
…いや、あった。槙の右手の、薬指の付け根二センチ半ほど下、長さ三ミリ程度の謎の切り傷。
なんだこれ。
「何それ」
「分からん。知らぬ間にできてた。というか今発見した」
「何をどうしたらこんなところ“いつの間にか”切れてるの…」
「それが分からないから少し困惑してるんだろ」
「ごもっとも…」
カッター突き立てたらできるかもしれな―――いや、それならもっと抉れる。グロい事になる。
「謎の切り傷というと他にもあってな」
「なんで!?」
「分からないから謎なんだろ」
「うん」
「ほらこれ」
今度はすぐに見つかった。右手人指し指、第二関節の、指を曲げた時にできるシワの先端あたり、親指側。説明長いよ。
「これまたザックリ切れてるね」
「いつ何で切ったんだろう」
「なんで一センチも切れてて気付かないかな?」
「さぁ」
「さぁって」
「でもそこまで深くないし」
「…血は出てないもんね」
と、そこで。
もう1つ発見。
右手薬指の先、やや小指側。抉 れ て る 。径七ミリほど。
え?抉れてる?
「槙」
「なんだ?」
「薬指…抉れてるけど…」
「あぁこれな」
「それも原因不明?」
「いや、大根おろしてる時に一緒に削った」
「ひぃ!」
痛い!痛い!!想像だけで痛い!!
「いやぁ大根おろし、だいぶ昔からやってるけど自分の指までおろしたのは初めてだったな」
「痛い!痛いから!ていうか笑いながら言う事!?」
「まぁ一番心配だったのは大根おろしの中に俺の指の皮が混入してないかだったけどな」
「もうやめて!僕の心のライフはゼロよ!」
「そのあと大変でさぁ、水絆創膏貼っても剥がれるの」
「いややめてって言ってるでしょ!?」
「仕方ないからサージカルテープで止めたんだけどさ、風呂入る時にはがしたらすっかりふやけてやんの」
「だから楽しそうに笑いながら言わないで!」
なんでそんな事を嬉々として話せるのか。僕には理解不能だった。
「はぁ…疲れた…」
「ここで柚呼んだらさらに疲れるな」
「わりと本気でやめて」
その時、僕は大切な事を失念していた。
―――相手は、柚である。
「ふふっ、来たよ?」
「おう」
僕が“やめて”と言った直後、槙の部屋のドア(横スライド式)がガラッと空いていつもの微笑みを湛えた柚が入って来た。――タイミングを図ったかのように。
加えて台詞が『来たよ?』である。明らかに狙っている。
「ボクが来れば樂が疲れると聞いて飛んできたよ」
「そんな配慮いらない…!」
「まったく柚は気が利くな」
「ふふっ ありがとう♪」
「まぁ座っ…もう座ってるし」
「遠慮ないね柚」
「その程度の遠慮なんて必要ないだろう?」
「まぁ」
「確かにね」
よし…話を反らす事に成功した!これで――
「じゃあ、樂を弄ろうか」
「おうよ。どうやる?」
――全然ダメだった。
「まず槙、さっきの話の続きを」
「そうだな…あ、風呂掃除してない」
「おや」
「洗ってきなよ」
「行ってくる。戻るまで柚一人で“樂で”遊んでて」
「僕で!?」
「うん分かった」
「分からないで!!」
僕の魂の叫びが虚しく木霊する。実際はしないけど。この部屋にそんな性能はない。
「そういえば樂」
「な、何っ?」
「怯え方が露骨だね。何もしないよ」
「…本当に?」
「勿論」
「………本当に?」
「――嘘だよ」
「ひいぃっ!」
「話戻すけど。部活どうなったの?」
「え?あ、うん。まだ」
いつ何をされるか分からないが、とりあえず答える。柚の怖いところは有言実行を素で行う事と嘘が見切れない事。怖い。
「ふむ。…槙には友達できたかい?」
「…うん。言いたい事は分かる」
「ボクはそこが心配なんだよ…」
「よく分かるよ…とりあえず、話しかけれられれば普通に返してるけど、ただそれだけかな」
「…槙って来たるものは拒まず去るものは追わずだからね」
「あれ、それ前後逆じゃない?」
「あれ?」
「どっちだっけ?」
「逆だ。去るものは追わず来たるものは拒まず」
「「 !? 」」
いつの間にかそこには槙がいた。柚も気付いていなかった。
「ぶっちゃけどっちでも良い気がするがな」
「君は忍者か!?」
「学生だ。落ち着け樂」
「洗うの早くないかい?」
「栓は抜いてあったからな」
「なるほど」
「さて、元の話に戻そうぜ」
……元々何の話だったっけ?
柚「話戻すより樂弄ろう」
槙「そういやまだやって無かったな」
樂「えっ?ちょっ」




