雨
しとしとと降り続く雨を見ながら、僕は立っていた。
僕の傷もこの雨と一緒に、流れてはくれないのだろうか。
痛みも辛さも、全て。
いっそのこと、感情も君との記憶も全て消し去ってくれたらどんないいのだろうか。
君と出会わなければ、傷付かなかっただろう。
君と出会わなければ、こんなに胸が痛まなかっただろう。
君と出会わなければ、こんなに辛くなかっただろう。
君と出会わなければ、君を傷つけなかっただろう。
君と出会わなければ、こんな結果にはならなかっただろう。
だけども君と出会わなければ、僕はこの気持ちの意味を知ることもなく過ごしただろう。
君は僕にとって、友達で。
仲間で、好敵手で、大切な人で、失いたくない人だった。
だけどこの選択は、お互いの未来のためには仕方のないこと。
ベンチから立ち上がり改札に向かおうとした僕を、君が背後から呼び止めた。
見送りに来なくていいといったのに、君は来てしまったんだね。
この街から、離れられなくなってしまうじゃないか。
君は何度も僕を呼び続けた。
だけど、僕は振り返らない。
振り返ってはいけない。
「ありがとう」
そういい残して、僕は改札を過ぎた。
僕の最後のわがままを許してほしい。
僕。いや私には、君の隣にいる資格なんてない。
君には、私よりもきっといい人がいる。
もし、ひとつだけ願うとしたら。
「いつまでも笑顔でいてください」
幾年の月日が過ぎた、ある雨の日。
青い傘を指した君が、私の目の前に現れた。




