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第71話 暗黒の軍勢

 神寵【オーディン】の覚醒者、槙島のスキル【兵霊詔令(ミズガルズ・サモン)】。

 その効果は、文字通り暗黒で構成された兵士を大量に召喚する。


 槙島はこのスキルで呼び寄せた暗黒兵を、有原と石野谷たち十二人の界訪者と、エストルークとエスティナを始めとするミクセス・ファムニカの両軍の敵兵に差し向ける。


 しかし、逢坂を問答無用に殺された怒り、あるいは槙島を改心させることに燃える界訪者たちはそれを難なく蹴散らしていく。


「【兵霊詔令】」

 だが、槙島はその気概に何の関心も抱かず、次々と増援を呼び続けた。


 これに、『あのせっかち』は言うまでもなく苛立ちを覚えていた。


「その程度の雑魚くらいで俺たちを倒せると思うなああああ!」

 と、気炎を吐いた後、稲田は大槍をブンブン振って暗黒兵を払いながら、槙島へ突撃する。


 この様を横目で見て、普段彼のストッパー役を務めている大関は、特に咎めようとしなかった。


「……今回は止めないんだね? 晴幸?」


「まあな。正直俺も、この雑魚ラッシュには辟易しているのでな……」


 隣にいる桐本が暗黒兵を斬り伏せると同時に、大関は自分もまた張り手で暗黒兵の頭を粉砕して、稲田へ祈る。

「まず俺たちの意地を見せてやってくれ、輝明……」


 その稲田は暗黒兵の軍勢を乗り越え、槙島を間近に捉え

「くらえええ! 【アドラ破砕脚】うう!」

 地面に突き立てた大槍を支えとし、槙島へ強烈な蹴りを繰り出す。


 二人の間に、槙島の神器の槍――グングニルが割って入り、稲田に合わせて突きが繰り出される。


 激突の末、稲田はグングニルを押し退けた。だが、その時既に、槙島は後方へ退いていた。


「おいこら! 逃げんじゃねええ!」


「つくづくこいつはやかましいな……直情的にしか動けない陽キャの見本みたいだ」

 と、稲田を評しつつ、槙島は傍に戻ったグングニルに、虚空を貫かせる。


 グングニルの刺さった場所からブラックホールの如き、黄金のゲートが開き、

「お前の相手はこいつだ……【英霊顕現(ヴァルハラ・アドヴェント)】」

 そこから黒一式の洋装の上から、浅葱色の羽織を着た長髪の侍が現れる。


「ああん!? なんだアイツ!? 新選組の沖田総司か!?」


「その手のイケメンじゃないし、もろに土方歳三でしょ!?」

 と、三好が稲田に突っ込むと、海野はそれにうんうん頷いてから、【ルルイエの掌握】を利用しその侍の能力示板を閲覧し、告げる。

「そうだぞ稲田、三好さん。実際、あれは土方歳三だ……新選組副隊長のな」


 スキル【英霊顕現】。

 現実世界の偉人・英雄を元に、この大陸においても戦えるほどの補正を掛けた戦士【英霊(エインヘリャル)】を召喚する効果を持つ。


 これを利用し召喚した土方歳三へ、槙島はただ「やれ」と言いつけ、それは何も言わず稲田へ襲いかかる。


「うるせえええ! 支倉だろうが斎藤だろうがどうでもいいわああ! とにかくあんな中ボスもどき、とっとと蹴り殺してやらああ!」


 先程槙島に逃げられた怒りが収まっていない稲田は、その怒りをもってして猛々しく土方へ駆け、

「【アドラ破砕脚】!」

 また地面に突き立てた槍を支えに蹴りを放つ。


 土方はそれを見切り、体を傾ける最小限の動きで稲田の足を紙一重で避ける。

 さらに土方は稲田の側面へ素早く踏み込み、彼の視野外を突くように刀を振るう。


「【金竜昇進(こんりゅうしょうしん)】!」

 その瞬間、大関は土方の脇に目にも止まらぬ速さで駆けつけ、彼を掌底で突き飛ばした。


「おお、あんがとよ晴幸! 今のはヒヤッとしたぞ!」


「やっぱり輝明に期待し過ぎるのはよくなかったな……」


「残念だけど、今それ言うと説得力がないよ晴幸!」

 と、言いつつ桐本は大関の背後に回り、二角帽子を被った荘厳な出で立ちの男――ナポレオンの【英霊】を正面に据える。


 二角帽子の男は自分の両脇にそれぞれ三つずつ、巨大な火の球を生成する。それはサーベルを眼前に振るうと同時に、三人へ放たれた。


「なるほど、また偉人を呼びやがったのか!?」


「悪いな光! こちらも完全に油断してた!」


「いいよ。今はとにかくあれをなんとかしないとね!」

 

 稲田、大関、桐本は各々の得意な攻撃を繰り出し、計六発の火の球を相殺する。


 その直後、暗黒兵が強固な隊列を組み、前例にない速度を帯びて、三人に襲いかかる。


「ああっ!? なんかさっきまでの雑魚と動きが違うぞお!?」


「あのナポレオンみたいな男は兵を強化できるのか?」


「恐らく元ネタからしてそうだろうね。とにかく、気を引き締めて当たらないと!」


 一方その頃。有原チームの面々もまた、無限に湧いて出る暗黒兵に苦戦を強いられていた。


「ぜぇぜぇ……クソッ! いくら倒してもキリがない……!」


 特に苦戦しているのは神寵未覚醒者の飯尾。

 戦闘の習熟度で言えばこの面子の中でも格段に高いのだが、能力者を無能力で相手するのにも限界はある。


 他の面々が普通の一撃でも兵を三体倒せるのに対し、飯尾はスキルを発動してやっとそれに追いつけるくらいの格差が、今この時生じていた。


 仲間として、これを心配した海野は飯尾へ訴える。

「おいもう下がれ飯尾! さもないとお前死ぬぞ!」


 飯尾は例のごとく乱暴に海野へこう返す。

「うるせぇ! 俺だってお前らと一緒に戦えるっての!」

 それを証明するように、飯尾は右肘で横にいた暗黒兵を粉砕した。


 しかし、海野は飯尾への警戒を決して解かなかった。

(アイツ、相当梶に一発KO貰ったのを気にしてるな……)

 功に焦る飯尾が、何かやらかさないかと心配しているのだ。


 その心配が丁度幸いになった。飯尾の背後から、大盾を両手それぞれに装備した屈強な大男――【英霊】ベオウルフが襲いかかる。


「飯尾、後ろから敵が来てるぞ、気をつけろ!」


「おうわかった!」


 飯尾は迫るベオウルフの気配を感じ取り、それに背を向けたまま距離感を察知し、

「食らえ、【旋刈脚】ッ!」

 振り向くと同時に回し蹴りを繰り出す。


 ベオウルフはそれを特に何もせず二の腕で受け止め、何事もなかったように飯尾をタックルで弾き飛ばした。


「俺の攻撃が効かないなんて……!」


「あーあ、言わんこっちゃない……【ガタノソアの束縛】!」

 海野はベオウルフの周囲から水の触手を伸ばし、彼の四肢を拘束して完全に身動きを封じ、


「【スコール・ガトリング】ッ!」 

 すぐさま水の弾丸を全身で浴びさせた。


 スキルの性質上、一度攻撃を挟んだ故にベオウルフは触手から解放されると同時に、魔法のダメージで片膝を突く。が、すぐに持ち前のタフネスで立ち上がった。


「あれだけもろに俺の魔法を食らってこれか。難敵だな……」


「大丈夫!? 海野くん!?」


 その時、飯尾の元に武藤が駆けつけた。


「うん大丈夫」


「よかったー。よし、じゃあボクと二人であのデカいのをやっつけよっか!」


「ああ! ……と言いたいところだが、この戦いはそんな単純じゃないよ、武藤さん」


「ああ、あの兵士が無限に出てくるから?」


「それもあるけど……この戦いの主旨は敵を倒すことじゃない」


 それから武藤は海野と同じ方向を向いて、その答えを察した。


 二人の視線の先では、有原と石野谷が暗黒兵を薙ぎ倒しながら、槙島の方へ向かっていた。


「やっぱり、寄ってたかっていじめることしかできないのか、貴様ら?」


「ちげぇよ! お前がやり過ぎだってことだけを言いたいんだ!」

「違います! 僕は貴方をこれ以上つらい道に行かせたくないんです。確かに見栄えは矛盾しているように見えますが……安心してください、これでも貴方を無事に……」


「黙れ! 俺がいじめられたのをはやし立てることしかできない奴と、助ける助けるなどと言うばかりで俺を助けられていない奴なんかの御託なんて聞く価値もない……!」


「んなこたやってみなきゃわかんねーだろうがぁ!」

「だったら今、それが出来ることを証明させてください!」


「だから黙れよこの愚図が!」


 槙島は有原と石野谷の前にさらなる暗黒兵の大軍を放ち、彼らの行く手を阻む。


「祐、こうなったらまたアレをやってやろうぜ!?」


「それだと槙島さんの身が危ないかもしれない。っていうのが僕の本音だけど、今はみんなのためにも、槙島さんを本気で止めるためにも……ここはやってみせよう!」


 槙島のため覚悟を決めた有原は、一度地面を強く踏みしめ、竜巻を纏うと共に足裏から突風を噴射し、彼めがけ猛烈な勢力をもってして突撃する。


 これに合わせて石野谷は、炎を帯びた七本の矢を、有原を追いかけるように放つ。


 七本の炎の矢は、有原の背後に生成された七本の風の剣にそれぞれ命中し、それに火を灯す。


 炎を帯びた風の剣七本は、突撃する有原の周囲を飛び回り、彼を阻む暗黒兵をことごとく斬り伏せる。


 そして有原は槙島を目前としたその時、全身に帯びさせていた風を両手で握る剣へ集中させ、


「さぁ、バッチリ決めてやれ祐ッ!」


「ああ、任せてよ陽星!」


 後ろにいる石野谷が両手より放った炎を、自身が握る剣で受け止め、風と炎をその刀身に織り交ぜ纏わせて、

「「【光明神(アポロ)ノ虚剣(きょけん)】!!」」

 二人の強い意志を具現化したような一撃を、有原は全身全霊で放つ。


「【極氷神楯(アースガルズ・シールド)】」


 槙島はこの二人の攻撃を、ただ絶対零度の氷の円形バリアを自分の周りに展開して、楽々と防御した。


「なっ、僕たちの渾身の一撃が……!」

「こんなあっさり防がれるなんて……!?」


「先の攻撃が貴様らの意志の権化と言うならば、これは俺の意志の権化だ――俺はもう二度と貴様らの下にひれ伏したりはしない。ということだ」


【完】

話末解説


■詳細説明

【スキルを発動する時に必要なこと】


 大陸でスキルを発動する時、それで使う武器を持っていること、魔力や気力に十分な残量があることのほかに、『きちんとスキル名を言うこと』も必要になっている。

 数々の学者が研究してもなおその原理は全く判明していないが、『すぐ目の前に立っている人に何と言ったか聞こえるくらいの声量』でスキル名をきっちり言わないと、いくら念じても発動することはできない。


 スキル名を唱えるタイミングに関してはわりとアバウトであり、実際に行動が長いスキルであれば途中で言っても許される場合がある。

 スキル名の後に『二連』、『最大出力』などと言って、追加効果を任意で発動できるスキルもある。


 ちなみに、あまりにも小さい声で言うと発動できないのは先のとおりだが、だからといって大きすぎる声でスキル名を叫んでも、その効果が強くなるということはない。

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