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第69話 和平成立

 黒幕【下劣のゲルビタ】の撃破と、元凶フラジュへの制裁を終えた後。

 

 ミクセス・ファムニカの二国は再び条約を締結し直して、


「えー、今回は、俺が冷静に対応しなかったばかりに、危うく何の罪もない人たちに被害を与えることになりそうになってしまい、本当に申し訳ありませんでした!」

 

「申し訳ありませんでした!」


「俺からも、王子を押さえきれず事を大きくしてしまって、マジですみませんでした!」


 エストルーク、エスティナ、それから石野谷一味の土下座をもって、この戦争はついに終結した。


「軽率だったということは確かだが、今回は致し方ない部分もあるにはあったからな」


「ひとまず、今度こそ協力して、この世界を平和にしましょう。それが貴方の務めです」


「はい、ごめんなさい! ゲルカッツさん、ハルベルトさん!」


 その後、最悪の事態を免れたミクセス王国とファムニカ王国の者たちは、あと二時間ほどで日が暮れるのと、皆疲れているということもあって、ここで野営をすることにした。


 友好の度合いを示すように、二国ははっきりと隣接した場所で野営地を設置した。

 それが終わると両国民はお互い入り混じって、持ってきた物資と食料を使い、簡素な宴会を始めた。


 その中で界訪者たちも思い思いに楽しんでいた。


 武藤は、大関とさっきの戦いの決着を、一応の形でつけたいと、無茶な相撲を挑んだ。


 三好は、桐本とお近づきになりたいと一緒に食事をしようとした。そして、先客のエスティナが放っていた殺意に負けて、あっさり退散した。


 松永と稲田はいつも通りだった。片方は孤独で静かに、片方は周りを巻き込んで大騒ぎしていた。


 そして有原と石野谷は、


「それな祐! あれ原作再現度めちゃくちゃ良かったよな!」


「だよね陽星! ほんと予約して買っといて正解だったよあのゲーム!」


 テーブルを挟んで一対一で向き合い、案の定、某漫画のことを熱く、そして仲睦まじく語り合っていた。


 その仲の良さを目の当たりにして、少し離れた場所にいる飯尾は唖然とする。

「祐、もうあんなに石野谷と仲良くなってやがるのか」


 その隣にいる内梨は飯尾に教える。

「はい、護さんが気を失っている間に色々ありまして……」


「そっか、俺が気を失っている間に、か……」

 飯尾は、無様にも自分が気絶した瞬間を思い出し、わかりやすく肩を落とす。


「元気そうで何よりだな、飯尾」

「とても僕のプロメテウス・メサイアのパンチをもろに食らった奴とは思えないな」

 たった今ここに、海野と、飯尾を気絶させた張本人である梶がやってきた。


 内梨はチラチラと飯尾の暗い表情を伺って一言。

「げ、元気……ですかね?」


 内梨が首を傾げているのを見るや否や、飯尾は空元気を発揮して背筋をピンと伸ばし、両腕を組んで過剰気味に笑う。

「ああ、元気だよ! ハルベルトさんたちにバッチリ治してもらってよ!」


「あっそ」

 そして海野はクソほどどうでも良さそうに返事した。


「ところで梶さん、皆さんはこの後どこで何をするつもりですか?」


「この後……ああそういうことね。それは僕に聞いたってどうともならないと思うよ、内梨さん。僕たち六人の最終決定権はリーダーの石野谷にあるからね」


「つまんねえ回答だな」


 茶々を入れてきた海野へ、梶は薄っすら青筋を立てつつ聞いた。

「だったら僕の予想でも答えてやるか?」


「それで頼む。ぶっちぎりでアイツと付き合いの長いアンタなら、アイツの考えもわかるだろうし」


「そうだな……多分アイツだったら、エストルーク王子との関係を優先して、このままファムニカ王国に残るんじゃないか?」


 内梨は共通の趣味で有原と盛り上がる石野谷の方を指さして、

「あんなに祐さんと仲良くしてるので、ミクセス王国に帰る可能性もあるんじゃないんですか?」


 梶は無い無いと言う代わりに首を大きく横に振って、

「仲良くしてるのは今っきり、共通の趣味で盛り上がってる間だけだろきっと。後で落ち着いたら、この前色々やらかして居心地悪くなったからって言って距離を取ると思う……」


 その時、石野谷は話題をブツ切って、有原に頭を下げる。

「一気に話変えてすまんが、この前――ミクセス王国にいた時は本当にごめんな!」


 これを見て梶は驚いた。

「おっとー? 予想が外れたな?」


「ミクセス王国にいた時……そうだ、色々あったね。今では具体的には覚えてなかったけど……」


「マジかよ祐!?」


「うん、ひどいこと言っちゃうけど、あの時の陽星は……久門さんの太鼓持ちみたいに見えてしまってたから、なんかその、埋もれてたんだよね……ごめん」


「太鼓持ち……それはいいよ。俺も自覚あるから。そんで、本当に覚えてねーのか? ほら、例えば、お前の友達の篠宮さんが死んだ時ときとか……」


「ごめん……その時石野谷さんに会ってなかったから何も……」


 その時、さっきから宴会場の上空を飛び回り、壊れたラジオのように竹取物語を暗唱してた(誰も聞いていないが)逢坂が、二人の近くに着陸して、


「それって確か、有原さんが三好、桜庭、槙島、畠中と『トリゲート城塞』から脱出していて、その寸前に槙島と畠中のところに『塔』が倒れてきて、有原さんはその塔を破壊しようとしたけど敵わず二人は下敷きになって、ただでさえ篠宮、御崎、佐伯の三人を死なせて心に傷を負ってるのに『余計に』メンタルボロボロになって、それでもなんとか三好、桜庭の二人をひっぱって脱出したってのに、真壁から『今そんなこと言う?』みたいなダメ押し食らって、クラスメート五人を失った悲しみが『倍増』してありえないくらい泣いてる有原を、久門さんと式部さんと一緒に陽星が嘲笑ってたことだよな?」


「もはやダイジェストかってくらい細かく説明したな、雄斗夜……まぁ、その辺とかミクセス王国やお前たちに色々迷惑かけたことひっくるめて、本当にごめん、祐!」


 再び深々と頭を下げる石野谷へ、有原は『顔を上げていいですよ』と優しく言った後、少し口角を上げて、


「もういいんだよ、陽星さん」


「え?」


「確かに前は色々あったけど、今は反省してるならそれでいいから」


「それでいいのか、マジで?」


「さらに言うと、今は仲間であり友達だからね」


 すると石野谷は、目にも止まらない速さで目を擦ったあと、

「すまん……マジでありがとよ、祐ぅぅぅ!」

 追加の涙を流して、有原に礼をした。


 こうして、一度は離れ離れになったクラスメート二人は、無事に分かり合うことができたのだった。


 それを傍から見て、

「……これで居心地悪くなりそう、って線は消えたな」と、海野。


「これは一杯食わされたな。ほんと底抜けて優しいな、有原さん」と、梶。


「よ、よかったです、クラスメートのみんながもう一度まとまりつつあって」と、内梨。


「おーっと、その決めつけはよくないぜ内梨さん。俺はたとえ一人になっても有原たちと『敵対する』つもりだぜッ!」と、逢坂。


「なんちゅう逆張りしてんだよ逢坂。てか、お前いつの間にこっちサイド来てんだよ」と、飯尾は言った。


 感極まった石野谷が落ち着いた後、有原はこんな質問をした。


「ところで陽星は、この後どうしたい?」


「どうしたい……」


 石野谷は懐からスマホを取り出す。

 この世界なら当然、電波も通じなければ、まともな電気がないため充電も切れているため、満足に機能が使えないが、彼はそれをじっと見つめて答える。

「スマホ使えるようにして、溜めた龍石使ってガチャやりたい……」


「ごめん、質問がよくなかったよ。この後、ミクセス王国に戻って僕たちと共闘するか、ファムニカ王国に残ってそこで邪神討伐に貢献するか、どっちかな?」


「ああそれね。それは……ちょっと待って、今考える……」


 石野谷が真剣に考えている間、近くで二人の様子を伺っている五人はよくない話をしていた。


「僕は『ファムニカ王国に残る』にこれを賭けるよ。アイツは無難にエストルーク王子との仲を優先すると思うぜ」

 と、梶は宴会で自分の活躍を称えてとプレゼントされたメロンを持って言う。


「だったら俺は『ミクセス王国に帰る』にこれを賭けてやる。ミクセスとファムニカの王都はそこまで遠くないんだから、ミクセスから通うことも出来るからな」

 と、海野は信頼してくれた方からプレゼントされた生ハムを持って言う。


「おお、これは……昇太、海野さん。さては君たち、その食べ物を賭けてギャンブルする気かね……グッド! じゃあ俺は『ミクセス王国に帰る』に賭けてやるぜッ!」

 と、逢坂は何も持たずに言った。


 急に賭け事が始まったことに内梨は少し驚いて、

「私は『ミクセス王国に帰ってきて欲しい』です……何も賭けるものはないですけど! あ、飯尾さんはどっちがいいと思いますか」


 飯尾は内梨に即答する。

「俺はギャンブルはやらないぞ! 親父から『そういう悪い遊びは後々自分の身を苦しめる! 最悪犯罪者になる原因になるから避けるのが一番いい!』と言われてるからな!」


「こう見えてちゃんとした教育受けてんのな、飯尾さん」

「祐と一緒で、アイツの親父は警官だからな」


「こう見えてって何だ! あとお前ら、友達をそんなつまんない賭けの対象に使うな!」

 そう飯尾が知恵者コンビに怒鳴った時、


「よし、決めた!」

 石野谷は決断し、


「ようし、この勝負、『審判(ジャッジメント)』は俺がするぜッ!」

 逢坂はその決断を聞きにまた彼らの元へ行った。


「おい逢坂、俺がキレてからすぐに行くな!」


「しかも逢坂さん、自分も賭けた側の人なのに、審判もしちゃうんですね……」


「「確かに、ズルいなアイツ」」


 そして逢坂がやたらと緊張して傍にいるのをなるべく気にしないようにしながら、石野谷は、テーブルの向かい側にいる有原へ答える。


「有原には悪いが、俺はファムニカに残るつもりだ」


「正解は『ファムニカ王国に残る』だぜッ! 昇太!」


「よーし! 勝ったぜッ! おら隆景、そのハムよこせ!」


「くっ、せいぜい生ハムメロンにするがいいさ……」


「つくづくゲスいなお前ら」


 盛り上がってる梶と海野はさておいて、有原は石野谷にそのわけを聞いた。


「まず念押しして言っておくが、お前といると居心地が悪いからってことじゃないぞ。エストルーク王子に恩があるってのもそうだが……俺は、ミクセス王国でのお前のように、ファムニカ王国の救世主になりたい。

 国をギタギタにした邪神獣二体を倒したと言えど、まだまだファムニカはボロボロだから、俺たちが立て直すまである程度見守ってやる必要があると思うんだ」


「なるほど。けど、必要な時は……」


「もちろん駆けつけるぜ。あと、必要な時だけでなく、ファムニカの安全が確かなものになった時もだ。お前とはまだまだ話したいことが山程あるからな。それに……」


「それに……?」


「ミクセスとファムニカ、二方面でアンテナを立てて、久門さんを殺した犯人を探したいからな……」


 注意を無視されるのは日常茶飯事、大陸に来ても言うことを聞いてくれず、挙句の果てには助けを求めて来た自分を逆にボコボコにする。

 まさしく不良の手本ともいえる迷惑を散々働いた久門は、有原から見ても良い印象はあまり無い。


 しかし、そんな久門でも一年二組のクラスメートであることは変わりないし、石野谷の悲しみに同情している。


「わかった、じゃあ、もし何かあったらすぐ連絡してよ」

 なので有原は、友達の頼みを快く受け入れた。


「おう、ありがとよ!」


「なぁ、お前さっき『エストルークの仲を優先してファムニカ王国に残る』って言ったよな? これって『ファムニカ王国の復興を助ける』と『久門の仇討ち』も何割かの理由を占めてるから、お前の勝ちは無しじゃないか?」


「だったら最初から『理由含めて完全解答』とルールつけてくれよ」


「だからお前ら、友達で賭け事するなっての」


 海野と梶が口論し、飯尾が呆れて、内梨が苦笑いしてその様子を眺める。


 その間、賭け事の対象にされた有原と石野谷は、


「とにかく、こうしてわかり合えて『ハッピーうれピー』って感じっつーわけで! よかったよかったッ!」


 いつもの逢坂の意味不明なノリに乗せられ、彼の両脇で肩組みして、謎のリズムで左右に揺れ動かさせられていた。


「はい、そうですね逢坂さん……」

 と、逢坂の右にいる有原は愛想笑いして、彼の生み出す流れに流される。


 一方、左にいる石野谷は苦笑いしつつ、逢坂の首に回した腕の力を徐々に強めて、極めの体勢に入ろうとする。

「おい雄斗夜、お前さっきから好き勝手やり過ぎな?」


「は、はい……すみませ……」


 逢坂は有原と石野谷から手を放した。

 

 そして、背中から地面に倒れた逢坂は、こめかみに付けられた銃痕から血を流し、その一帯に血溜まりを作る。

 こうして逢坂は、有原と石野谷、海野と梶たち四人など、この近辺にいる者全てを恐怖させ、動揺させ、凍り付いたように固まらせた。


「逢、坂、さん……!? これは一体!?」


「何だよ雄斗夜! こんな悪ふざけちっとも面白くねーぞ!」


 石野谷は半信半疑で逢坂の側でしゃがみ、彼を叩き起こそうとする。


 その時、有原は南東から不自然な閃光が輝いたことを察知し、そちらへ向けて剣を振る。

 刹那、有原の左右の地面に、両断された銃弾が転がった。


「これは銃弾……この世界に銃は無いはずなのに!」


 有原が銃弾を斬ったことを知るとすぐ、海野は、この世界で銃を使える――というより、『作ることができる』梶を睨んだ。


「おいまさかお前、僕が撃ったとか思ってないよな?」

 

「まさかのまさかが無いように確認しただけだ。俺もそれはないと思ってたっての。なんせアイツが撃たれたのは、俺たちが向かい合って話してた時だからな」


「でっちあげようとしたつもりとかでも無いのか?」


「ないない、絶対無い」


 そして海野と梶、有原と石野谷たちは揃って謎の銃弾が飛んできた方向を見つめる。


 彼らがいる場所から約五百メートル先、そこには本来は雪原で擬態するための白いギリースーツに身を包んだ狙撃手が、銃を構えていた。


 こいつこそが逢坂を射殺した犯人なのは火を見るより明らかだった。


 だが、今の彼らにとって、それはどうでも良くなってしまっている。

 何故ならその傍に立つ狙撃手の主の方の異質さが、その存在を上書きするほど意外なのだから。


 有原は、動揺を抑えきれぬまま、狙撃手の主である暗黒の髪を持つ少年へ尋ねる。


「貴方は、槙島さん……!?」


【完】

話末解説


■詳細説明

【神寵覚醒者のスキル名の法則】


 神寵覚醒者のスキル名は、その神に関連する用語が付属している。


例)

 神寵【スサノオ】覚醒者・有原のスキル【天羽々斬虚剣(あまのはばきりきょけん)】

 → スサノオが八岐大蛇を退治する時に用いた神剣『天羽々斬』より。


 神寵【トール】覚醒者・篠宮のスキル【ミョルニルズ・ヴァリアント】

 → そのままトールの雷槌『ミョルニル』より。


 神寵【アレス】覚醒者・桜庭のスキル【アロアダイ・コリジョン】

 → アレスを青銅の壺に閉じ込めた巨人の兄弟『アロアダイ』より。



 また神寵覚醒者のスキルは、ジョブの基本スキルを上書きして得ることが多いため、スキル名が一部分だけ違って、後は同じ、となることが多々ある。


例)

 神寵【アルテミス】覚醒者・矢野のスキル【オリオン・ブレイカー】

 神寵【アポロン】覚醒者・石野谷のスキル【ピュートーン・ブレイカー】



 ここからはメタ的な話になるのだが、話の性質上、神寵は一年二組の人数と同じ『三十六種』しか出せないため、使いきれなかった神の名前をスキル名にあてがって消化している。


 神寵【クトゥルフ】覚醒者・海野のスキル【ダゴンの祝福】、【ヒュドラの喝采】

 → クトゥルフの従属神『父なるダゴンと母なるヒュドラ』より。


 神寵【ラー】覚醒者・久門のスキル【ホルアクティ・ライジング】

 → ラーの息子、あるいはオシリスの息子の太陽神『ホルス』の別名『ホルアクティ』より。

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