第58話 チームバトル開幕
「おい有原ッ! 俺たちとチームバトルしようぜぇぇッ!」
あれだけ大声で言われて空耳することはまずないのだが、有原は石野谷へ再確認する。
「チーム、バトル……ですか!?」
石野谷は即答する。
「ああ、チームバトルだ! 俺たち六人、お前ら七人、界訪者同士でチームバトルしようじゃないか!」
「勝手なこと言うな!」
「ぐほぁっ!」
エストルークは石野谷のみぞおちに拳をめり込ませた後、彼へ思い切り怒鳴る。
「これは俺とエスティナのための戦いだ! なのにどうしてお前が代表ヅラして戦うんだよ、石野谷!」
おまけにエストルークは、左頬にビンタも与えてきた。
石野谷は二箇所の痛みを堪えつつ、声を絞り出す。
「それは申し訳ないっス……けど、こっちのほうが効率的だと思って……」
「は、なんでだ?」
石野谷は呼吸を整えて、エストルークだけでなく、向こうのミクセス王国軍にも大声で言う。
「俺たち界訪者にとっては雑兵なんて塵みたいなもん、【神寵】覚醒者からしたらなおさらだ! 仮にここに居る全軍でぶつかりあったとしても、結局は界訪者同士の戦いに収束する!
だからもう最初っから界訪者同士のチームバトルにしちまおうぜ、って話だ!」
「なるほど、そういうことか……」
エストルークは、石野谷の言い分に一応納得したようだ。
「確かに、今の僕たちの実力なら、皆さんには申し訳ないけど、そうなりそうだ……」
有原も、ミクセス王国も石野谷の意見に同意してくれた。周りの彼の仲間もおおむね同感だ。
「なんだよアイツ。血の気の多い久門一味の一員らしくないな。あんな理屈も言えたのか」
と、飯尾は石野谷に感心してつぶやく。
その直後、海野は素早くそれを否定しにかかる。
「いいや、多分これはアイツの考えじゃないな。本当に久門一味らしからぬ知恵者の仕業だろ」
数時間前。
必死の捜査と静止は無駄に終わり、エストルークは軍を束ねてミクセス王国へ進軍していた。
その中で石野谷は『せめて犠牲者を減らすことはできないか』と、友達五人に相談した。
そこで立案したのが一味のブレーン役、梶だった。
「有原たちと僕たちのチームバトルにすればいい。それなら傷つくのはあちらか、最悪僕たちかになる。『多分全軍衝突しても結局そうなるから』って言い訳すれば、多少は王子も納得するだろうし」
「なるほど! その手があったか!」
「じゃあ陽星リーダー、この提案はアンタが言ってくれ。多分一番王子と近しいお前が言えばより妥協してくれると思うから」
「おう、まかせろ!」
このような梶の裏回しがあって、さっきの土壇場の提案に至ったのだ。
この突然の提案を受けて、ミクセス王国側がどうするか協議している中、エストルークは石野谷に言う。
「……確かにそれなら無駄な雑魚の相手をしなくて済むかもしれないが……ただ! これは『俺の』復讐だ! なのに何で俺がハブられてるんだよ!」
すると石野谷はエストルークの左頬を思い切り殴り、彼へ諭すように言う。
「この前の魔物の群れとの戦いとか、邪神獣の戦いとかを思い出してくれるとありがたいけど、界訪者、特に【神寵】覚醒者の力はアンタがついてこれるレベルじゃない。
決してエストルークが弱いとか言いたいんじゃないけど、多分どっかしらのタイミングでもみくちゃになってド偉いことになる」
「だが俺の復讐を奪ってるのには変わりねぇだろうが!」
エストルークは間髪を入れず石野谷の左頬に拳を返す。
石野谷はそれをあえて歯を食いしばって無防備で受けてから、エストルークへ言い返す。
「それにだ、これはアンタだけの復讐じゃなくて、俺の復讐でもある!
滅びかけの国を救いたい、俺に勇気を見せてやりたかったっていう、友達の二つの意志を踏みにじったミクセス王国の連中に、俺はツケを払わせてやりたいんだよ!」
そして石野谷はエストルークの左頬に、トドメの一押しとして拳を叩きつけた。
エストルークはすぐに起き上がる。だが、彼の一歩たりとも意見を曲げないと示すような立派な佇まいに、彼はたじろぐ。
「けど、俺はエスティナのために……」
さらに石野谷は、後ろでルチザに守られている、兄の勇姿を見届けに来たエスティナへ手を向けて、
「あと、もしアイツらが隙あらばエスティナを狙ってきたらどうするんだ? 前の襲撃がこの布石だったとしたらどうするんだ?」
この戦いの最中でエスティナを今度こそ失えば、この戦いの意味もなくなる。
故にエストルークは多少冷静になって、
「もしお前らが負けそうになったら、俺たちも出ていいよな?」
そうエストルークに尋ねられると、石野谷は不敵に笑って、
「本当に敗色濃厚になったらな。でないとズルになるから……まぁ、そもそも俺たちが負けることがあり得るかって話だけどな!」
「確かに、そうだな。変なこと聞いてごめん、石野谷……じゃあ、さっさと終わらせてこい!」
「おう!」
エストルークが後方へ下がり、エスティナの護衛に行く中、石野谷はミクセス王国の方を向いて、声を張り上げて尋ねる。
「で、どうするんだお前ら!?」
有原は手を上げて、
「その前に三つ聞きたいことがあるのですが、いいですか!? まず、あなたたち六人以外の方は乱入しませんよね!?」
「もう火を見るより明らかな具合で負けた感じになってなければな! 安心しろ! 俺たちは真壁とは違って義理堅いんでな! そっちもよろしく頼んだぞ!」
「はい! 次に、さっき言った通り、こちらは七人で戦っていいんですか!? あなたたちは六人しかいませんが!?」
「構わん! 見る限りそっちは【神寵】に目覚めてない奴が二人いるだろ! そいつらは実力的に〇.五人換算でいい!」
それを聞いた途端、未覚醒者の一人、飯尾はカチンと来る。
「なっ、俺が半人分の強さしかないだと……!」
「まぁまぁ、ここは落ち着いてください護さん……」
「そうだ、ここは謙虚に甘えろ飯尾」
それを内梨と海野は必死になだめた。
「……」
一方、もう一人の未覚醒者、松永はいつもながらの無言を貫き通した。
「では最後です! 久門さん、式部さん、塚地さん、五十嵐さんたちが見当たらないんですが、皆さんはどうしたんですか!?」
石野谷は一瞬顔をしかめてから、語気を強めて答える。
「……もう死んだ! だからどうしたっていうんだ!」
「……そうですか、すみません、失礼なこと聞いて」
「あっそ。聞きたいことはもうないか!?」
「はい、これで十分です……わかりました! この戦いの犠牲を減らすために……やりますよ、チームバトルを!」
「わかってるじゃないか! 級長!」
こうして二国の争いは、ひとまず界訪者同士のチームバトルで収束することになった。
ハルベルトとゲルカッツ、エストルークとエスティナなど、両国の界訪者以外の人物は、予想される神寵覚醒者の激しい戦いに巻き込まれないよう、さらに五百メートルの間隔を空けて離れる。
有原たちと石野谷一味はその場にとどまり、双方、チームバトル開始前の作戦会議を行う。
そこで飯尾は単刀直入に海野へ問う。
「そんで、何かいい策あるか」
「いきなりはないっての。アイツらの能力がまだわかんないんだから」
有原たちは、石野谷一味のジョブなどの最低限の情報は把握しているが、神寵など、能力の詳細はわかっていない。
特に神寵については、彼らがそれに覚醒した時期が、久門がミクセス王国から出奔した後のため、有原たちの手元にはデータが一切残っていない。
さらに、海野はスキル【ルルイエの掌握】で、自分の周囲半径五十メートルの人物の能力示板を覗くことができるが、相手がその距離に達して来ていないので、それもできていない。
故に今、有原たちはパッと見でしか石野谷一味の実力を把握するしかできなかった。
「えー、本当に知らないのー!? 海野くんでもー?」
「そうだよ武藤さん。悪いが今は『何があってもいいように用心しろ』としか言えない」
「そんなー。誰がイチバン強そうとかもわかんないのー?」
(それを武藤に言えば無茶してでもそちらに行きそうだな)
と、言わんばかりに武藤を警戒したのと、自身の『私情』から、海野は『わかんない』と言いかけた。
だが、それを黙った果てに『そいつ』の思うがままにされる恐れもあるので、海野は腹をくくる。
「あくまで俺の感想だが、『梶昇太』が一番恐ろしいかもしれない」
すると武藤は目を点にして、
「ええ!? あんなおチビちゃんが?」
これに続いて、彼女と同じくらいの脳みその大きさをした飯尾は言う。
「しかもアイツ、確か【祈祷師】だろ、サポート役だろ!? 何がどうなって強くなるんだよ?」
「お前はそれ以上にチビだろ、武藤」
と、極小の声量で吐いてから、海野は訳を話す。
「だから『あくまで俺の感想だが』って言ったんだけどな……アイツはお前らが思っているように、スゲー威力の技が使えるとか、スゲーステータスが高いとかのジャンルの強さじゃない。アイツは『俺くらい頭がキレる』から恐ろしいんだよ」
「えー、あんなチビが?」
「お前以上に根暗そうなあの眼鏡が?」
「チビと根暗は頭の良い悪い関係ないだろ。武藤さん、飯尾、というかみんな、あの新入生テストの順位覚えてるか?」
真っ先に答えたのは三好。
「えっと、真壁が一位で、そこから都築、海野さん、篠宮さんだったよね?」
「いいえ違います」
と、言ってから、その結果を思い出した有原は答える。
「順番は三好さんの言った通りですが、真壁さんは二位でした……本当の一位は梶さんですよね」
「流石有原学級委員、わかってらっしゃる」
真壁すら上回るクラス一位の頭脳が敵にいる。
テストの順位が後ろから数えた方が段違いで早い男、飯尾はわかりやすく慌てる。
「け、けどよ海野! たかが新入生用のテストの結果だけで、戦いにも強いとか言い切れないだろ! テストでいい点取れたからって人生決まらないだろ!」
「お前にしてはいいこと言うな飯尾。確かに、テストで一位取れた、イコール奴は強いとはならない。だから奴にはそれ以外の根拠がある」
ここで内梨は思い出す。
「そ、そういえば海野さん……あの時、何かに勝ったみたいに喜んでましたよね?」
かつて、海野たちは真壁打倒のため、彼女を久門一味討伐に行かせている間、国王を助け出し、真壁を国王に処罰させようとした。
しかしその作戦は真壁に気づかれ、作戦途中で海野たちは彼女と遭遇してしまいピンチになった。
しかし、そこで海野が用意した第二の作戦が炸裂。ゲルカッツが救援に来たおかげで、彼らはその危機を回避できたのだった。
内梨が言う『あの時』とは、その直後のことである。
「あの時、『やってやったぞ梶さん!』みたいなこと言ってましたよね? もしかしてあの作戦に気づいたのって、真壁さんではなく、その敵の梶さんだったりしますか……?」
「……凄いですね内梨さん。それが今俺が言おうとした根拠ですよ。あの作戦を台無しにしかけたのは絶対アイツ、昇太なんだよ! こんのゲス野郎!」
そう言い終えると、海野はまるで足元に梶がいるかのように目一杯地団駄を踏んだ。比較的落ち着きのある彼にしては珍しく。
それが落ち着いてから、
「というわけで、梶昇太には気をつけろ。ただし、アイツはジョブ【祈祷師】で、軍師が前線に出るのはありえない。それを一直線に狙おうとすればきっと他の五人が全力で迎撃してくるはずだ。だから、決して迂闊にアイツへ近づくなよ……わかったか、武藤さん、飯尾」
と、海野は強く念押しした。
「う、うん……わかった」
「おう、わかった……何かあるっぽいな、お前と梶の間で……」
そして海野は大まかな方針を六人に伝える。
「ひとまず、序盤は各々のジョブのセオリーで戦う。俺と内梨さんと松永さんは後衛、飯尾と武藤さんと三好さんが前衛、で、有原さんは状況に合わせて遊撃って感じだ」
三好は言う。
「すっごい手堅い作戦だね。もちろんここから展開はあるよね?」
「当たり前だ。それをある程度続けて、相手の能力がわかってきたら、そこから俺がより的確な指示を出す。それでいいな?」
全員は海野を信頼して、すんなりと首を縦に振った。
「よし、じゃあ後は気をつけて動いてくれ」
「「「「「了解!」」」」」
と、有原たち五人は海野に返事する中、
「……」
松永は相変わらず黙っていた。
これを見て飯尾は舌打ちする。
「やっぱ感じ悪いし怪しいなコイツ。戦ってる最中にまーた真壁の任務をしようとするかもしれないな……」
それに対して有原は『まあまあ』と言って、たしなめる。
「大丈夫だって。戦いが始まる前にそんなギスギスしたこと言わないでよ護……」
あなたも心配しないで。と、言う代わりに有原は松永に笑顔を向けた。
その直後、松永は背中を向けてしまった。
(あんまり届いてないみたいだ……)
と、有原は残念に思った。
だが、それにじっくりと浸る時間は与えられない。
「おい、いつまで話してんだ有原チーム! こちらはもうとっくに準備完了してんだぞ!」
とっくに作戦会議を終えた石野谷が、有原たちへ催促する。
「わかりました! すみません! 今終わらせます!」
そして有原たちは気持ち急いで陣形も気構えを整え、既に配置についた石野谷一味と向き合う。
それから数十秒ほど、お互いにお互いの出方を伺い続ける、緊張感が漂う時間が流れる。
その緊迫を打ち破ったのは、
「うらああああ! 一気にぶちのめしてやらあああ!」
もはや恒例。石野谷一味の特攻野郎こと稲田だった。
彼はいつものように三メートルもの長さの槍を振り回しながら、凄まじい勢いで有原たちに迫る。
「前衛、行ってこい!」
これに対応して出てきたのは、飯尾、三好、武藤――あらかじめ前衛の役割を担うと決められた三人だ。
【完】
話末解説
■詳細説明
【一年二組内の新入生テストの順位・前半】
1. 梶 昇太
2. 真壁 理津子
3. 都築 正義
4. 海野 隆景
5. 篠宮 勝利
6. 桐本 光
7. 鳥飼 楓
8. 衛守 純
9. 有原 祐
10. 式部 時宗
11. 辻 利乃
12. 小清水 春
13. 矢野 恵実
14. 酒井 栄次
15. 豊本 穂香
16. 松永 充
17. 内梨 美来
18. 斯波 凜音




