↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/129

第20話 過去の思い出を切り捨てて

 真壁は有原へは非常に厳しい対応を取ったが、有原の友達へは『殺しはせず』比較的寛大な措置を取った。


 飯尾は街の復旧工事に、内梨は病院へ強制的に従事する。さっき三好が見たのはその一環。


「そして俺は研究もしてるんだよ」

 そう得意げに海野は言った。


「へ、へぇ……」

 向かいに座る三好は適当に相槌を打った。


 ここはミクセス王国王都の辺境にある海野個人の邸宅の、ある一室。

 彼はここで、邪神もしくは神寵に関する研究をし、真壁軍へ貢献している。


「『へ、へぇ……』って、何その反応、あっさりすぎないか?」


「いやだって、あの道端で『ちょっと家来い』って言われて、何すんのかなーってビクビクしながら来たら、急に自慢話をし始めたから……なんかその、『わざわざそのため?』って思っちゃって」


「流石にそれはないわ。『やっぱあの辺うろついてたらどのみち真壁から見つかる。だから家でしばらくやり過ごして欲しい』と思って、来てもらったんだよ」


「じゃあそれ、自慢話より先に言えばよかったじゃん。ビビってたんだけど、訳わかんなすぎて」


「それはすまなかった。けど一部訂正させてくれ、さっきのは自慢話じゃなくて状況説明だからな」


「わかったごめん。ていうかやっぱ、真壁さんと都築さんがいたのって、ここ来たからとかだったりする?」


「急に話題を飛ばさないでくれ」

 と、海野はやんわり三好のマイペースさにキレつつも、その質問に応じた。

「うんそう。そこそこ来てる」


「やっぱそうなんだ。けど、にしてはお忍び感が強かったような気がするんだけど……なんだったんだろあれ?」


「……それに気づいたか。だったらなおさらここに連れてきてよかった」


 三好の疑問に対して、海野は『言いふらすなよ』と前置きしてから答える。

「俺が真壁の元でやっているのは『研究』だけじゃない。『黒幕』もやってるんだ」


「く、黒幕……なにそれ?」


 真壁があの久門を従属させようとしたように、真壁は使い道のある人間はとことん自分の手中に収めて活用していく方針を取った。

 飯尾と内梨が労働者として酷使されているのとは反対に、海野がこうして良質な仕事場を与えられ、相性のいい業務を担わせているのもその方針が故。


 真壁は海野に対し、『研究者』だけでなく、『アドバイザー』としての活用方法を見出した。

 

 都築を始めとして彼女の下には優秀な人材が揃ってはいるが、その中に『第三者的視点』から『合理的』に『自分の戦略に物申せる』人は残念ながらいない。


 だから真壁は、新入生テストで自分、都築に続いて四位になるほど、聡明な頭脳を持つ海野へ着目し、彼に時折アドバイスを求めているのである。

 しかし、海野は元々有原寄りの人間だったということもあり、周りからの批判を避けるべく、この事実は公表されていない。


「へー、けっこうおいしいポジションになれてよかったね」

 と、三好は自慢話の後に返すように、そう素っ気なく言った。


「そんなおいしくないぞ。真壁は基本、なんでも自信持って自分でするタイプの人間だから、その中で他人の意見で補強したくなるような事案なんて、特に慎重さが求められる面倒事ばかりだからな。例えば『邪神獣討伐の細かい部隊分け』とか『他の騎士団長四人の関係調整』とか『三好縁の懐柔方法』とか」


「そうなの? 矢面に立たないで家でひっそり仕事できていいと思うんだけど」


「仕事のスタイルは気に入ってるんだけどな。ただやることが疲れるってだ……」


 ここで三好は食い気味に言う。

「って、今アンタ、『三好縁の懐柔方法』って言わなかった!? え、まさかアンタ、アタシにどうやって真壁に従って貰おうかどうかも考えてたの!?」


 海野は一瞬口を尖らせた後、開き直って一切悪びれずに言った。

「うん、考えた。『そんな陽キャの話なんか知らねえよ』って思いながら。で、そのときは『とりあえず、なるべく親しい人に誘わせたらどうだ』って答えてやった」


「それってつまり、依央がウチをしつこく勧誘してくるのは……」


「依央、ああ、あの人か、桜庭依央さんか。そうじゃね、多分。知らんけど」


「知らんけどって……アンタ人の気持ち考えて……」

 三好は海野に迫ると思いきや、すぐ着席した。


「……るよね。きっと」


「うん、『暗い理由で殺さないでくれよ』とは思ったよ。最低限はね」


 冷静に考えれば、邪神討伐に一向に貢献しない自分を、厳格な成果主義者である真壁が決して野放しにしないはず。

 しかし今こうして浮いた立場のままで生きながらえているのは、きっと桜庭が真壁に『殺さないで』と、頼み込んでいるからだろう。

 だから桜庭の勧誘行為は、海野の意地悪だけでは無い。自分も友達も助けたい桜庭の優しさもある、三好はそう折り合いをつけて、海野をこれ以上責めたり……


「……けど、やっぱりアンタも依央も、許せないよ……どうしてみんなみんな、真壁なんかの味方か下僕になってるの……」

 ……した。うつむいて、袖を握りしめて。そして一抹の希望を持って。


 海野は悔しがる彼女へ、無機質に告げる。

「だってしょうがないだろ。今王国内で実権握ってるのは真壁ただ一人なんだから」


 三好は今度こそ椅子から立ち、海野に詰め寄って、

「だとしても! あの人、有原級長になんの弁解もさせないで、一方的に殺したんだよ……! トリゲート城塞の時、アタシたちのことも、槙島たちのことも必死で助けようとしたあんないい人を、たった一人ヤケになって殺しただけで……! そもそも級長は本当に人殺しになったのかすらも怪しいってのに!」


「それもしょうがないだろ。言っても真壁の権力で無理やり黙らされるのが関の山だ。クローツオさんの件とか、武藤さんの件がいい例だ」


「……というか海野さん! アンタ、有原級長が死んだことについて、悔しいとか悲しいとか思ってないの!? お互い助け合いした仲でしょ!?」


 その問を食らった途端、海野は一瞬戸惑うような素振りを見せた。

 しかし、すかさず冷静さを取り戻して、

「それは思うさ。けどね、それでどうこうしようとかは思わない」


「どうして……」


「そもそも、俺は心の根っこからして、前線に出て率先して動きたくない……『目立ちたくない』んだよ。善悪関係なく何かしらの権力の影でコソコソ活躍したいんだよ」


「目立ちたくないって……じゃああの最初の邪神獣の時、級長に助けられた後恩返ししたのは何だったの!? 本当に目立ちたくないのなら、あのまま帰っちゃえばよかったじゃん!」


「あれはさっさと帰った方が余計目立つと思ったからだ。宴会の時見ただろ? アンタの言う通りのことをした槙島がひどい目にあってたのを」


「それはそうかもしれない、ね……けどその後有原と行動してたのは何だったの?」


「それは真壁と久門のどちらの勢力にもつきたくなかったからだ。その時はな……」


 海野は椅子から立ち上がり、詰め寄ってきた三好との距離を取り直して、

「そろそろこっちにターンを回してくれ。アンタはこの真壁の支配下で何がしたいんだ? 有原を信奉して真壁を退かしたいのか?」


「有原級長を信奉してってほどじゃないけど……真壁さんを止めたいのはそう!

 これ以上犠牲者を出さないためにも邪神は一日も早く倒すべきなのはわかってる! けど、味方も苦しめながら戦うのは違うって言ってやりたいんだよ!」


「だったらやれば? アンタはもう【神寵】に覚醒してるんだから、タイミングが合えばワンチャンいけるだろ?」


「それは……それは……」

 同様のことを武藤がやってしくじったばかりじゃんか。と、言葉を三好は自信の無さから喉につまらせた。


「……質問変えようか。アンタはどうして真壁を倒したいんだ? 有原に助けられた恩があるとはいえ、それっきりの縁だろ? あとは前の世界で校内のマナーうんぬんで注意されてばっかの関係だったのに……急にどうした?」


「それは……その……」


「……質問は以上。今のところ俺が思うに、アンタはずっとできなくてウジウジするよりも、俺や桜庭さんと同様に、心機一転真壁のもとで頑張ったほうが気楽でいいんじゃないか?」


 三好は顔を真っ赤にし、両拳を握りしめ、黙った。海野の指摘は今の自分にとっては大きすぎる図星だったのだ。


 海野は優しさ半分、鬱陶しさ半分で、三好に言う。

「……そろそろ、この辺には真壁はいなくなったはずだ。だからもう、外出ていいぞ」

 

「……わかった。今日は色々ごめん……」

 と、三好はボソリと海野に謝って、彼の自宅から立ち去った。


 大通りへ戻っていく最中、彼女は今になって握り拳を開いた。

「!? ……あ、あっぶない……」

 

 三好は両手から漏れ出した黒みがかった黒紫色のオーラを力んで止め、汚れを払うように手をパタパタさせた。


「……せめてこの【神寵】がもっと『使えるもの』だったら……きっとアタシは……真壁を倒せるかもしれないのに……」


 三好が大通りに戻った時、彼女はその道中で、声を拾った。


「真壁様はきっと邪神を倒すだろう」

「あの方の秀才ぶりもさることながら、部下も優秀だからな」

「そうだな、都築様や鳥飼様のような部下を持っているのだからな」


 このような、真壁一派を絶賛する声を、何度も耳にした。

 当然その話の中には有原の名前は現れなかった――彼はもう、過去の権力者と化したのである。


「……そもそも、有原級長を助けられたはずなのに……」

 

 トリゲート城塞で死んだ友達二人、真壁に支配された王国、自分を救った有原、有原を倒した真壁の世――三好は追想と現実を交互に見て、ひどくうなだれる。

 けれどもこのはけ口は、今はまだどこにもない。故に彼女はますます、胸の内に澱みを溜めた。


【完】

話末解説


■詳細説明

【基礎ステータスの項目について】

※必要時に劇中で説明するので、無理に覚えなくても構いません


・物理攻撃力:剣や拳などでの物理的攻撃の強さの値。高ければ高いほどダメージが大きくなる。

・魔法攻撃力:魔法での攻撃の強さの値。高ければ高いほどダメージが大きくなる。属性を帯びた物理攻撃もある程度強力になる。

・物理防御力:噛みつきや体当たりなどの物理的攻撃を受けた際の耐性の値。高ければ高いほどダメージが小さい。

・魔法防御力:魔法攻撃を食らったときの耐性の値。高ければ高いほどダメージが小さい。属性を帯びた物理攻撃もある程度軽減できる。

・素早さ:文字通りどれだけ早く動けるかの値。高ければ高いほど俊敏に動ける。

・魔力:生物の体内に宿る不思議なエネルギー。魔法を使うと消費する。時間経過や食事などで回復する。

・スタミナ:生物が動くときに使うエネルギー。特に物理攻撃のスキルで消費する。時間経過や食事などで回復する。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。