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第128話 異世界から

 ヒデンソル王都・王城跡地にて。


「バカな……槙島によってさらなる進化を果たした邪神が、敗れる、なんて……」


 そこで傷だらけの六人の老人――【神々】は瓦礫の山にへたりこみ、自分たちの切り札である邪神が、下民によって討伐された現実を拒み続けていた。


「となれば、次討伐されるのは、我々か……」

 神々の一人はこの窮地から逃れるべく、表世界へ通じるゲートを開こうとする。

 しかし、それはできなかった。


 邪神・槙島英傑が顕現してから、彼が持っていた強大極まりない魔力が辺りの空間にも影響を及ぼし、空間転移魔法を使用不可にした。

 故に神々はここから逃げそびれ、槙島の王都破壊に巻き込まれて傷を負ってしまったのだ。


「クソッ、槙島め、最後まで我らへ迷惑をかけおって……!」


「悔しがるのは低俗な輩の特権だ。ここはひとまず冷静にいずこかへ隠れることを優先せねば」


「私たちは生き延びるべきなのです、そしてまだ、二つの世界の絶対的な支配者を勤め上げねば……」


「そんなのさっさとやめちまえ」

 と、松永は神々たちへぶっきらぼうに言った。


「貴様は、松永……!」

「何故貴様がここにいる!?」

「仲間たちはどうした!?」


「一言入れて一旦外れた。俺はああいう賑やかなのには慣れてないからな……っていうのは今、どうでもよくて……」


 松永は一番近くにいた老婆の元に歩み寄り、その首を普通の蹴りでへし折る。


「!? な、何のつもりだ貴様!」


「見ての通り『後始末』だよ。未だにこの世でのさばろうとするゴミクズどもを掃除して、な」


「そ、そんなの許すものか!」

 一人の老人は松永に衝撃波を放った。


 松永はそれを身体を反らして楽々かわした後、その老人の頭を掴んで、

「いいや、許さない。特に俺は、貴様らの存在がとにかく嫌いだ……影から世界を操って、大勢の人の価値をないがしろにして私腹を満たす、俺の親父が狂いやがるほど大好きだった『出来の悪いおとぎ話』の悪役みたいな貴様らがな」

 ありったけの電気を流し、黒焦げにして殺した。


「皆、早くあの殺人鬼を止めろ!」

「こんなところでくたばるものか!」


 神々たちはヨロヨロと立ち上がり、様々な属性の魔法を放つ。

 松永は適当に電撃を放ちそれらを全て相殺し、ついでに老人二人の心臓を電撃で貫く。


「こうもなれば槙島がますます哀れになるな。まぐれで輝けた日々にすがるばかりで、すっかり弱り果てた過去の人間に言いなりにされるなんてな」


「まぐれなどではない! 我々は運命によって選ばれた、確固たる世界の支配者であり、神に等しい者なのです!」

 と、言い放った男の懐に松永は潜り込み、


「こんなに弱り果てた奴が神なわけあるか」

 電気を纏わせた拳を叩き込み、男の息の根を止めた。


 そして一人残された男は、腰を抜かして地面に倒れ、狼狽えながら松永を睨み、

「こ、こ、こここ……この無礼者ッ! 私たちを何だと心得る!」


 松永はその男に迫り、コツンと拳で地面をつつく。

「【真実の世戒】」

 そして松永は尋ねる。


「【能力示板(ステータスウィンドウ)】を見せてみろ」


 真実の世戒の範囲内にいる限り、真実以外を伝えることはできない。

 男はこの効果と、松永が放つ殺気に負け、

「の、【能力証明】……!」

 やむを得ず能力示板を表示した。


 松永はそこにある一つの記述――『神寵:剥奪済み』という表記を右人指し指でなぞって、

「海野さんが【ルルイエの掌握】でチラ見した通りだったな。お前たちの先祖が持っていたらしき能力は、たまたま生まれ持ったものじゃない。貸し与えられたものだったんだな」


「だ、だからどうした! 選ばれた人間であることには変わりないだろうがこの愚か者!」


「確かに選ばれた人間ではあるな。で、同時に、『見限られた人間』でもあるな――本当にいただろう神様にな」


 それから松永は「あくまで俺の仮説だが」と前置いてから、生き残りの老人へこんなことを語った。

「きっと最初の頃は、純粋に人類を繁栄させるために、お前らの祖先を使って間接的に恵みを与えてくれてたんだろう。

 それが時が経つにつれ、お前らが傲慢で酷薄で貪欲になっていくにつれ、神々は貴様らを見限って、貸し与えてた力を没収していった。

 なんなら、過去に現れたっていう、邪神の原型となった魔物たちは、『神の怒り』もしくは『お前らに対する怨念を利用した神の断罪者』なのかもな。

 で、貴様らは力を奪われようとも、隠れ家に魔物をよこされても、反省することはなかった。

 そして今、それに本気で怒った神は、ハルベルトさんに呼び出され、たまたまこの世界を救う役目を担うことになった俺たちに、『お仕置き』を任せるために、以前お前らに与えた力を、俺たちにまた預けてくれたってことだろ。

 あくまで、結果ありきの話ではあるが、筋は通っているだろ。なぁ、テメェ」


「……ああ。だが、だが私はそれを決して認めない! そして、貴様のような罪人の娘などに殺される筋合いもない! 

 それに、私たちを殺しつくしても無駄だ! 我らは先を見据えて後継者の育成も行っておる! 今ここで神々が全滅しようとも、再びその椅子は充足し、我々の支配は永遠に続くのだからな!」


「ああそう……じゃあ最後に聞くぞ。お前は、今こんなことになっているのは何が原因だと思っているんだ?」


 男は、未だに真実の世戒の中にいながら、堂々と答える。

「原因などない! 我々は永遠に完璧であり無謬であり絶対であるのだから!」

 直後、松永は老人の顔を思い切り蹴飛ばし、永遠に黙らせた。


「完璧も無謬も絶対も、永遠もあるわけない……お前らは、椅子から降りる時期を見誤ってんだよ」


 こうして裏世界に巣食っていた腐った世の歯車を片付けた松永は、空を見上げる。

 

「……さて、早くみんなのところに戻ろう。でないと置いてかれるかもしれないからな」


*


 ヒデンソル王都。第三層と第二層の境辺りにある、邪神討伐地点にて。


 一年二組と、大陸の住民は戦勝を喜び終えた後、神妙な面持ちをして、空を見上げる。


 さっきあった禍々しい雲はすっかり消え失せ、今はもう青空が広がっていた。

 だがそこには一点だけ、邪神の魔力がこもり、それの強大さから空間そのものが歪んでいる箇所があった。


「あそこに溜まった魔力ならば……いけるかもしれない!」

 ハルベルトは自分の仮説を試すため、空へ剣を掲げ、 


「【プレイン・ワープ】……開門!」

 一筋の光線を放つ。


 光線は空を閉ざす邪神の魔力に渦を作り、やがてその渦は、神秘的に輝く巨大な魔法陣に変わってゆく。


 飯尾は驚きながら言う。

「あれは……俺たちがここに来る直前、あのしょうもない山の上に浮かんでたのとまるっきり一緒の奴だ!」


 内梨はハルベルトへ尋ねる。

「あれってもしかして、俺たちの世界に通じる門……ですかね?」


「ああ、その通りだ。間違いない、二ヶ月弱前に私が作ったものと同じ……この世界と、皆様の世界を繋ぐゲートだ」


「よっしゃ! 邪神が現れた時、キーパーツって言われてた邪結晶も吸い込まれちゃったから一時はどうなるかと思ったけど……とにかくありがとうございます、ハルベルトさん!」

 と、三好は言って、ハルベルトにペコペコ頭を下げた。


「ありがとう、ハルベルトさん!」

 武藤もハルベルトにお礼を言った後、

「ね、よかったね! 有原さん!」

 と、有原に尋ねた。


 その時、有原は仲間たちが集まる場所からやや離れた所で、槙島が消えた地点をじっと見つめていた。

「……ん、ああ、よかったですね! 武藤さん!」


「そ、そうだね、有原さん……アハハ……」

 と、愛想笑いをしつつ、武藤は声をかけるタイミングを間違えたことを恥じた。


 有原は再び槙島の消失地点を見つめる。


 そんな有原を気遣って、海野は言う。

「俺は槙島が消える前後も抜かりなく、【ルルイエの掌握】を使い奴の状態を調べていた。そして俺は、あのおっかないデカブツが消えた瞬間に、槙島の情報が感知できなくなった。

 つまり残念だけど、こないだの鳥飼と同じく、もうアイツは邪神に変わりきったんだ。だからもう……言葉が悪いかもしれないけど、ここは諦めてくれ、祐」


「……わかったよ、隆景……」


 あと少しで助けられた命を助けられなかった悔しさを噛み締めながら、有原は海野と一緒に、既に無事助けきった仲間たちの元に戻った。


 時同じく、

「お待たせしました、海野さん」

 有原と海野の元に、松永が小走りで来た。


「あ、松永さん。そういえば邪神を倒した後から見てませんでしたが、どこに行ってたんですか?」


「俺がお使いを頼んだんだ。『あの【神々】とかいう老人どもを見つけてこい』って。黙っててごめんな」

 と、海野は依頼主として、松永より先に答えた。


 一歩遅れて、松永は、

「そして王城の跡地の方へ行ってみたところ……邪神の力をもろに食らって死んでました」

 と、両手を開いて見せつつ言った。


「なるほど。ありがとうございます、松永さん」


「どういたしまして」


 そして松永は、有原と海野の隣に並んで、仲間たちが集まる場所へ戻る。


「悪い松永。お前に汚れ仕事を押し付けたみたいで……」


「いいんです。これで有原さんの『悔しさ』が少しくらいは減りますし、何よりも俺がスカッとしたんで……」


 最中、海野と松永はこうして小声でやりとりした。


 三人が仲間たちの元に戻った時、空には、かつて見た魔法陣が完成していた。


 ハルベルトは空に掲げた剣を一旦下げて、界訪者九人へ言う。

「後は私が『起動』と言えば、すぐに移動出来る。なので皆様、心の準備をお願いします」


「わかりました。ハルベルトさん」

 と、返事した直後、石野谷はエストルーク、エスティナ、ルチザの元へ小走りで行った。


 その時すでに、三人とも、石野谷の顔を見るなり目をうるうるさせていた。


 ルチザは何度もハンカチに目を当てながら、

「本当に、本当に今までありがとうございます……石野谷様……!」


「こちらこそありがとうございます。ルチザさんたちが俺たち一味を受け入れてくれたからこそ、ようやく真っ当な道を歩むことができたようなもんっスから」


 エスティナは強引に石野谷の両手を掴み、号泣しながら、

「オレ絶対忘れないからね……! 石野谷と梶と桐本様と大関と稲田と逢坂と出会えたこと、ずっとずっと忘れないから……!」


「ありがとよ、エスティナ……俺もお前らと会えたこと、死んでも忘れないからな……! あと、せっかくだから俺にも『様』つけてくれよ……」


 そしてエストルークは思い切り涙を袖で拭って、無理くり笑顔を作ってから、

「あっちに帰っても元気でいてくれよ石野谷……! 俺もこっちでバリバリやってくからよ……多分今回のことが認められて、ようやく俺は国王になれるだろうしな!」


「ああ、俺も俺で、五人の分も精一杯生きるし、別な世界からお前のこと応援するよ……!」


 エストルークと石野谷はお互い、まあまあ本気の力で拳をぶつけ合った。

 その光景に、エスティナとルチザと、何故かそこに居合わせた一人の兵士はありったけの拍手を送った。


 石野谷とファムニカの三人のように、他の八人もミクセス王国の人たちへお別れをしていた。


「王として、ミクセスの全国民を代表して言う……皆様、この世界を救ってくださりありがとうございました」


「まさか本当に、あの邪神を退けてるとはな。出会った当初はそれを信じきれず、酷いことをしたものだ。ありがとう、そしてすまなかった、界訪者の皆様」

 

「あなたたちの活躍は、きっと未来永劫この大陸の神話――いや、英雄譚として残るでしょう……心の底から感謝いたします」


 と、ミクセス王、ゲルカッツ、レイルは、八人に最大級の感謝をした。


 これを受けて八人は言う。


「こちらこそ、今まで色々と手助けしてくれてありがとうございます」と、有原。


「私たちも、皆さんが無事で嬉しいです」と、内梨。


「色々あったな。けど、綺麗に終わってよかったよかった」と、飯尾。


「真壁や逢坂みたいに、俺たちも俺たちで、皆さんに一部よくないことをしてしまってますけど……飯尾の言う通り、ギリギリ綺麗に終わらせられてよかったです」と、海野。


「ありがとうございます! 皆さんも、これからの復興とか色々頑張ってください!」と、三好。


「応援してくれてありがとう、みんな!」と、武藤。


「コメント雑ですね武藤さん……まぁ、かくいう俺も、活躍してたのがかなり後なんで、あんまり深いこと言えませんけど……今までありがとうございました、ミクセス王国の皆さん」と、松永。


 最後に畠中は、

「どういたしまして!」

 と、ミクセス王国の中心から誰よりも離れていた故に、八人の中で一番安直な返しをした。


 一通り最後の挨拶を終えた後、一年二組の九人は、いよいよ元の世界に帰るため、ハルベルトの元へ行く。


 するとハルベルトは即座に頭を下げかけて、

「改めて、貴方たちのような普通の少年少女をこの戦いに巻き込……」


 その途中、有原はハルベルトへ向けて大きく首を振って、

「最後くらい、明るくいきましょう。ハルベルトさん」


「……ああ!」

 と、ハルベルトは笑って相槌した。


 そして九人が魔法陣の真下に立ったところで、ハルベルトは空に剣を掲げ、高らかに詠唱する。

「では、お元気で……【プレイン・ワープ】、起動!」

 すると上空の魔法陣は神々しく輝き、真下の九人を照らす。


 光を浴びた九人は、地面から両足を離し、地上に居る大陸の住民が盛大に見送ってくれる様を見て感動しながら、空へと昇っていった。


 最中、九人の足下に――地上に、漆黒のオーラが集まった。


「!? おい皆、なんか下に変なのがあるぞ!」

 その石野谷の言葉を受けて、一同は下を見る。


 漆黒のオーラはみるみる内に膨れ上がり、やがてそれは、先程の槙島と比べるとやや物足りなさを感じる漆黒の魔物――本来の【邪神】の姿になっていく。


「じゃ、邪神だ! え、あれ、さっきアタシたち倒したよね!?」

 と、三好は言い、


「こんな短期間で復活するもの、だったのか……」

 松永は首を傾げた。


 このまま帰れば、大陸の住民は再び苦しめられてしまう。

 故に有原たちは、再び戦うべく地上へ落ちようとした。


 その寸前、半分、姿がおぼろげな邪神は自らの力で浮き上がり、有原たちを追い始めた。


「ヒィィィ、こっちに来てるこっちに来てる!?」

 畠中が慌てふためく中、海野は邪神を見て一言。

「なるほど……『ただでは返さん』ってところか」

 

 この緊急事態に驚いたのは有原たちだけではない。

 当然、地上にいる大陸の住民たちも邪神の復活に戸惑っていた。


 しかしその直後、

「諸君! 絶望するのはまだ早い! ただちにあの邪神を完全に征伐して、界訪者の皆さまを無事に帰すのだ!」

 と、ミクセス王の号令のもと、大陸の住民たちは個々の力を可能な限り発揮し、邪神への攻撃を開始した。


 武藤は大喜びして言う。

「見て見てー! 下でみんなが邪神を倒そうとしてるよ!」


 内梨も下を凝視して、

「ですね……最後までありがとうございます、皆様」


「いくぞエスティナ! 俺たちの力で、石野谷をゼッテー送り返すぞ!」

「あいよ兄貴!」


 ファムニカの王族兄妹は勢いよく跳躍し邪神に迫り、

「「【裂空脚】!!」」

 その腹部に同時に飛び蹴りを叩き込む。


 すると身体が完成しきっていない邪神は半分に折れ、下半身が消滅した。

 そして残る邪神の上半身は、下半身を再生するための魔力を放ちつつ、有原たちを追って上昇し続ける。


 エストルークはエスティナと一緒に着地し、邪神を見上げて、

「……クソッ、さっきのが限界だったってのに!」


 時間が経ち、邪神は大陸の住民の矢も魔法も、軍の中で屈指の実力者であるエストルークとエスティナの飛び蹴りすらも届かない高さまで行ってしまった。


 ハルベルトは再び剣を空に掲げ、【プレイン・ワープ】の上昇速度を速めようとした。が、ただでさえ次元を繋げるという大規模なことをしているために、それは出来なかった。


 そしてハルベルトは剣を地面に突き立てて、

「クソッ! 最後くらい平穏に終わらせてくれないのか……!」

 この苦境に対してただただ怒り、自分の無力さを恨んだ。


 その時、一人のファムニカ王国の兵士の装備を着た男は、ハルベルトへ言葉を投げかける。

「界訪者を呼び出し、世界を救う一因を気付いた英雄は、こんな簡単に諦めるのでありますか?」


「……」

 ハルベルトは一瞬、その男を睨むも、八つ当たりは良くないと自分に言い聞かせ、すぐに目をそらした。


 男は再びハルベルトに言った。

「こんなことでは貶されてしまうでありますよ。有原たちにも、吾輩たち騎士団長にも、陛下にも……それから、貴方の祖国の王にも、ね」


「……吾輩……! さては貴様!」

 この一人称から、ハルベルトはある人物を脳裏に浮かべながら、男へ振り向いた。


「汚名返上のため、ファムニカ王国の義勇兵に加わってみたのですよ。ハルベルト」

 と、兜を半分上げ、そのニヤケ顔をよく見えるようにして、ミクセス王国の元騎士団長、フラジュは言った。


 そしてハルベルトは、地面に突き立てた剣を引き抜き、

「そうだ……このまま敗北を受け入れてはならない。あの戦馬鹿な王でも、最後まで諦めず有原殿へ希望を繋げたのだ……ならば、私も、界訪者の皆様へ希望を見せねばならない!」

 構えを正し、呼吸を整えて、右足を一歩力強く踏み出す。


「私とて、ただ界訪者に頼っていただけではない……今こそ、私なりの修行の成果を見せる時だ!」

 

 ハルベルトは足裏から魔力を噴出し、斜め上方向へ飛び上がると同時に、地面から展開した魔力の壁に突っ込み、自分の身体を保護する。

 邪神を目前としたところで、ハルベルトは身に纏う魔力を剣に集中させ、

「【虚剣】ッ!」

 邪神を縦に両断した。

 

 刹那、ハルベルトは上を向いて、手足を振りながら、全力で叫ぶ。

「界訪者の皆様! 改めて、今までありがとうございました!」


 有原は、ハルベルトが【虚剣】を使ったことを感慨深く思いながら、

「こちらこそ、今までありがとうございました、ハルベルトさん!」


 そしてハルベルトはうまい具合に受け身を取り、安全に大陸へと着地した。


「……やるではありませんか。ハルベルト」


「お褒めいただき光栄です……フラジュ殿」


 横にも縦にも両断された邪神は、とうとう人の形を保てなくなり、魔力の塊に逆戻りした。

 しかし、それでもなお消滅することはなかった。随分と小さな質量の魔力となりながらも、邪神はじわじわと再生しつつあった。


 有原はそれを見下ろしつつ、

「あれだけの攻撃を受けてもなお再生しようとするなんて……」


「【ピュートーン・ブレイカー】!」

 石野谷は炎の矢を放ち、蠢く邪神の魔力の中心を射抜く。

 射抜かれた邪神の魔力は、矢の炎により激しく燃え盛った。しかし数秒立つとまた元通り黒い輝きを放った。


「流石は負の感情から生まれた怪物だ、もはや天晴だなその執念はよ……」


「負の感情……ハッ!」

 石野谷の言葉を聞いて、畠中は気付いた。


 そして彼は、一瞬葛藤して頭を抱えてから、

(これは僕にしかできない仕事だ……だから、ここは逃げたりしない!)

 

「有原さん!」


「何ですか畠中さん!?」


「今までお世話になりました! 元の世界に帰ったら、僕の分も頑張ってください!」

 

 畠中は有原の返事を待たず、頭を下に向けて、キリモミ回転を起こして落下していった。


「待って、行かないでください畠中さん!」


「畠中ァ! そんなくだらない特攻なんてするなぁ!」


 残された八人は瞬く間に小さくなる畠中に、何度も呼びかけた。

 しかし畠中は決して心変わりせず、高速で落下し続けた。


 有原たちも同じようにして畠中のところに戻ろうとした。しかしその時、彼らは魔法陣の直ぐ側まで来てしまっていた。

 魔法陣は近くに来た八人を吸い込むように一気に上昇させて、そしてこの裏世界から消したのだった。


 同じ頃、落下した畠中は邪悪の魔力に飛び込んだ。


「……ごめんな。お前のこと一人ぼっちにさせちゃって。けど、安心して。僕がこうして来たんだから」


(……なんデ俺なんかの所に戻って来るんダ……!)


「僕はお前のたった一人の友達だからだ。だからこうして側にいてやるのが当然だろ、な、英傑(ひでとし)」


(そっか……ありガとよ、そしてゴめん……新(あらた)……)


 そして、孤独感という唯一の負の感情がなくなった、邪悪の魔力は、瞬く間に消滅した。


*


「ここは……」


「山、ですね……」


「滅茶苦茶暗いけどな……」


 八人は、夜の山の中の、崩れた土の上で寝ていた。


 全員、一番最新の記憶の時に来ていた戦闘用の装備ではなく、いつの間にか泥まみれの学制服に着替えており、ついでに校外学習用に持ってきたカバンも中身そのままに近くに転がっている。


 ただし、髪や目の色は神寵覚醒者特有の不思議な色のままだった。


「よ、よかったー、あんな物騒な鎧姿でお家帰ったら皆びっくりしちゃうもんね」

 と、武藤は自分の制服の土を落としつつ言った。


 一方、三好は自分のカバンをあさりスマホを取り出し、掲げるように握って、

「よかった〜、無事元通りで帰れて!」


「何で服や荷物が元に戻ったのかもわかんないし、何で髪だけは異世界仕様のままなのかもわかんないし、もう滅茶苦茶だな……」

 海野はスマホのライトで前髪を照らし、それが緑色のままなのを確認して苛立っていた。


 それから八人は起き上がり、スマホのライトで辺りを照らしながら、起き上がった場所の周辺を散策する。

「ここはやっぱり、校外学習で行ってた山みたいですね……無事帰れてよかったですね」

 と、内梨は安心した。


「なんか凄い山崩れを起こしたようになってますけどね」

 八人の中で唯一スマホを持たされていない松永は、両手に帯びさせた電気の灯りで崩れた土や、倒れた木を照らす。


 山登りの最中にスマホの充電を使い込んでしまっていたので、石野谷も自分の両手に火を灯し、それを光源にする。

「髪だけでなく能力もそのまんまなのかよ。なんかの拍子にボヤ騒ぎ起こさないように気をつけな……」


 ここで突然飯尾は叫ぶ。

「おいお前ら! ちょっと静かにしろ!」


「お前が一番うるせぇよ飯尾!」

 と、海野は一回ツッコミを入れてから、大人しく黙る。


 飯尾は、有原と一緒に山の斜面をかなり下っていた。


 そこで二人は耳をすまして、周囲の音を探る。

 すると山のさらに下方から、男女二人の話し声が聞こえてくる。


「今日という今日こそは俺が見つけてやるぞ、護(まもる)! 山岳救助隊ばっかに頼ってられるかよ!」


「飯尾さん、私たち警官ですから、関係者の悪口は言わないほうがいいですよ……」


「確かに……すみません、有原さん。以後気をつけます!」


「別に私に謝らなくてもいいのに……実際、私も任せっきりじゃいてもたってもいられずにこうして来ていますから……祐(たすく)! お願いだから返事して!」


「護ー! お前もさっさと返事しろ!」


「はい、お母さん!」

「はい、親父!」


 有原祐と飯尾護――二人の子供はそれぞれの親に言われた通り返事して、山を駆け下り、両親の前で急停止した。


「え……た、た、た、祐……!?」

「ま、ま、護ゥッ!? お前ら、無事だったのか!?」


「ああ、まぁ……色々偶然が重なってな……」

「はい、見ての通り無事中の無事です。それと、僕のクラスメートがあと六人……」


「祐ぅぅ……心配させないでよ私たちのことッ!」

「護ゥゥゥ! 生きててくれてありがとよォォォ!」


 有原の母と飯尾の父は、感極まり、二人まとめて強く抱きついた。


「……ごめんなさい。母さん。あともう一度言うけど、上の方にクラスメートが他にいて……」

「おう、どういたしまして……けど、喜んでるところ悪いんだけど、他の人も……」


「ちょっと待ってごめん! 今は一通り泣かせて、祐!」

「うるさい護! 空気読んで黙れ!」


「……はい、母さん」

「……はい、すいません」


 この後、他の皆も、有原と飯尾の呼びかけのもと、彼らの元へ自ら歩いていった。


 そして翌日、某市高校の校外学習中に起こった土砂災害で、『八人』の生存者が確認されたとのニュースが大きく報じられた。


【完】

話末解説


■魔物

【邪神】

 レベル:測定不能

 主な攻撃:不明(完全復活前に消滅したため)


 【神々】が裏世界の人々の蜂起を未然に防ぐため、負の感情由来の強大な魔力を元にして創られた、大陸を脅かした厄災の権化。

 最終決戦においては槙島と合体して進化を遂げたものの、救済者パーティーの力に敗れる。

 しかし極僅かに残った魔力によって辛うじて生き残り、表世界に帰ろうとした有原たちを追った。

 その最後に残った魔力の源は、槙島が死に際に感じてしまった『孤独感』。

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