第119話 当たり前の決意
有原たちは、槙島軍の防衛と鳥飼の討伐を終えた後、すみやかにトリゲート城塞に帰還した。
「皆様、此度も我々のために戦ってくださり、誠にありがとうございます」
するとすぐに、騎士団長レイルら護衛たちと共に、ミクセス王が彼らの武働きに感謝の意を示してくれた。
だが、有原たちの反応はミクセス王の想定より鈍かった。
数秒ほど沈黙を挟み、一同は、自分たちが無礼なことに気づき、慌ててひざまずいた。
そしてハルベルトは急ぎ襟を正してから主へ尋ねる。
「へ、陛下……!? 何故陛下がこんな前線に!?」
理由は二つ。と、前置きしてから王は答える。
「国の重要な局面にもかかわらず、ただ王城でじっと報を待つのも臣民たちに申し訳ないと思ったのと……何やら今回の戦は胸騒ぎがしたからだ」
ゲルカッツは慌てて襟を正してから言う。
「胸騒ぎですか!? それならご心配なく! 我らが軍に大きな犠牲はなく、我々の快勝という結果で終わりました!」
「ただ、こちら側ではない、僕たちのクラスメートの、鳥飼さんが……」
有原はついさっきの悲劇を思い出し、後悔故にうつむいて言った。
ミクセス王は有原の心境を察し、彼の方に手を置き、かぶりを振る。
「もうよい、有原殿……貴方は十分に務めを果たしたのだろう……」
「お気遣いありがとうございます」
続いて、レイルは有原たちに尋ねる。
「ところで、槙島殿の様子はどうでしたか?」
ここは飯尾が代表して答えた。
「前とほとんど同じ。俺たちの再三の説得を頭ごなしに突っぱねて、殺す、裁く、復讐する、大義を示すとか言って、スキルなり偉人なりをぶっ放してきた」
「しかも今回は相当ヤバイことまで仕掛けたんスよね……」
と、石野谷は補足しつつ、畠中の右肩にそっと手を置いた。
畠中はこれに応えて、
「はい、アイツの数少ない友達だった俺にまで槍を向けてきました……『お前もそっち側なんだな』って怒って、です」
「そうか……心中お察しいたします、畠中殿」
王の傍らにいるレイルは、畠中の不幸を憐れみ一礼した。
「ありがとうございます……えっと……」
畠中はミクセス王国から長い間離れていた。
それを思い出した海野は、畠中が失礼しないように彼へ耳打ちする。
「レイルさん」
「ありがとうございます、レイルさん」
「どういたしまして……そして、この戦いの中で槙島殿はどうなったのですか? さっきの話を考えますと、此度は全く敵わなかったとは思えないですが……」
今度は海野が答える。
「はい、栄光の遺跡での修行の成果が実り、今回は勝てていました。それで槙島を圧倒したところで、俺たちは槙島に説得をしていたのですが、先の通り奴はそれを全て拒否し、俺たち全員を消し飛ばそうと大技を使いかけました」
「使い、かけた……続けてください」
「はい。使いかけました。ところがその寸前、奴の臣下が『ここで全力を出すのではなく、また後ほど、体勢を整えて俺たちを潰すべきだ』と進言したのです。
そして奴はその臣下と共に一時撤退していきました。その時、例の臣下は、あの邪神珠を使って鳥飼を殿に変貌させました」
「なるほど、教えてくださりありがとうございます、海野殿。手筈を整えてですか……」
王は首をかしげながら言う。
「事前に伝令から聞いた話には、今回、彼が率いた軍勢の総数はおおよそ十五万という。それですらミクセス王国を壊滅させるには十分なはず。ならば、それをさらに上回る手筈となれば……ヒデンソル王国の情勢が情勢故に、単なる物量押しではなく……」
「その通りです陛下」
と、海野は答えた。
槙島が次に目論んでいるのは『ヒデンソル王国の王都での最終決戦』。
彼は残り余る総力をそこに注ぎ、完全無欠の武力と防備を備えて、そこで有原たち怨敵を待ち受けるつもりである。
槙島は【堕落のジェナフォ】の邪結晶と、邪神を呼び出す秘宝と言われる邪神珠。
世界を救い、有原たちは元の世界に帰る。という一同の最終目標を果たすためのキーアイテムを槙島は持っている。
故に、一同が『この戦いは逃れられない宿命』だと察するのはあまりにも容易だった。
「それに勝てば邪神の厄災も、界訪者の苦難も、全てが終息する。まさしく最終決戦であるな……」
ミクセス王は邪神顕現から始まったこれまでの長い道のりを追憶する。
そしてミクセス王は、界訪者のリーダー――有原祐を見つめて、尋ねる。
「では有原殿、この戦いに際し、貴方はどう致しますか?」
片膝を突いてひざまずいていた有原は、ゆっくりと立ち上がる。
彼は師匠グレドに渡された剣の鞘を握りしめて、決意を強めて、はっきりと答える。
「戦います。この世界の悲しみを終わらせる。僕の仲間たちの平穏な日常を取り戻す。道半ばで倒れてしまった沢山の方々の無念を晴らす。……そして全てを余すこと無く『助ける』ためにも、僕は絶対に戦います」
「ですよね、祐さん!」
と、うなづいた後、内梨も立ち上がってミクセス王たちへ言う。
「今私たちが出来ることは『槙島さんを止めること』と『邪神を倒すこと』。そしてそれらは私たちがすべきことと一緒なんです! だから今更悩むことは……ないですよね!?」
「先に言ってくれてありがとな祐、美来ちゃん!」
さらに飯尾も立ち上がって言った。
「そうだ! 槙島を改心させて邪神を倒せばこれでキレイさっぱり事は収まるんだ! そんくらいわかってるだろ、王様さんよ!」
「こら飯尾殿! 気持ちはわからなくもないがそれは口が過ぎる……」
「ゲルカッツ、暫し待て……」
「……はッ!」
「有原殿、内梨殿、飯尾殿、貴方の言い分は重々に理解しています。しかし、この最終決戦に挑むのが必然として、そこで貴方たちは完璧な態勢で待つ槙島殿から勝利を得られるという自信はあるのですか?」
「当然あります!」
「はい、あります!」
「あるに決まってる!」
有原、内梨、飯尾に続いて石野谷も国王へ答える。
「ああ、アイツがどんな力をつけようが俺たちはもう負ける気はない! こっちだって超絶張り切って今日以上に快勝してやるだけだ!」
さらに武藤も言う。
「そうだ! ボクたちはもうメチャクチャ強くなったんだ! だから次だって絶対勝てるよきっと!」
「……そうか。であれば……」
五人の言葉を聞き終えて、ミクセス王は一同に向かって深々と頭を下げる。
「すまない、答えはわかりきっているにも関わらず、貴方がたの決意を試すような質問をして」
国王が頭を上げた後、有原は、
「謝らないでください陛下。むしろありがとうございます。これで僕たちの決意をはっきりさせられましたので……」
「そうか、お気遣いありがとうございます。では、念には念を入れて確認する。皆様、槙島殿と邪神と戦う覚悟は出来ていますか?」
「はい、できています!」
「おう、できているぞ!」
「ああ、今度こそアイツを止めてやる!」
「そんでもってボクたち皆で邪神を倒します!」
と、内梨、飯尾、石野谷、武藤は再び威勢よく返事した。
さらに、松永も一歩遅れて立ち上がって、
「ええ、俺も皆と一緒です。あの槙島を止めない限りどうともならないんで。
特に、あんな好き勝手大勢の人を恨んでギャーギャー言ってる奴は、早く止めないととんでもないことになる。ってのを俺はよーくわかってますんで」
次に三好も、
「アタシも同感。早くこの世界を救いたいってのもそうだし、アタシの身勝手みたいな意見だってのは承知だけど、奏や紬や依央のように先に倒れた皆の願いを早く引き継いで叶えたい。でもって、あっちの世界で皆の分まで生きたいから」
と、答えた。その後『真面目かよ』とつぶやいて、赤くなった顔を手で隠した。
続いて畠中は答える。
「はいはい! 僕もトーゼン戦います……まぁ、まさしくって感じの戦いは、僕弱いんでできませんけど……」
そして他の仲間の返答を静観していた海野もようやく口を開く。
「以下同文。最後まで俺もやり切りますよ。一年二組の知恵者の片割れとして」
「というわけで、僕たち一年二組は全員、理由は色々ありますが、とにかく大勢の皆さんを助けるため……戦います。よろしいでしょうか、陛下?」
ミクセス王は礼をして答える。
「是非とも、よろしくお願いいたします」
「はい、お任せください!」
直後、ミクセス王はならって礼をする騎士団長三人へ命ずる。
「では、ハルベルト、ゲルカッツ、レイル、ヒデンソル王国王都での大戦の支度を頼む。
無理なく、速やかに、そして、貴様らもこの世界を救う勇士たる自覚をもって!」
「「「はっ、仰せの通りに!!!」」」
かくして、有原たちは仲間たちと、大陸の住民と共に決意を強めたのだった。
大陸を破滅へと落とす邪神の災禍。
一年二組の暗部と歪みが齎した悲しき復讐。
それら全ての影の因縁を断ち切る日は、近い。
【完】




