夕暮れは魔法使いに女子高生が百合の恋
イギリス人の父と日本人の母をもつハーフの高校1年生のスイフト 萌々香は、今日もマフラーを編んでいた。憧れの先輩、理梨亜 百合絵に、バレンタインデーの日にチョコと一緒に渡すためだ。憧れるきっかけ、それは百合絵の日本人離れしている顔立ち。そして上品な美しさにあった。
バレンタインデーまではあと1か月。不器用な萌々香は急がないと間に合わない。
そんな萌々香は看護師を目指していた。注射を打ったりするのが不安だが、やりがいがありそうなので目標にしている。
一方、百合絵は、バレンタインデーの前日の2月13日に、この世界での修行を終え魔法国シリウスに帰ることになっていた。百合絵は魔法国シリウスから、この世界に来て素性を隠し高校生になりすましていたのだ。将来は魔法国シリウスの第2453代女王になることが決まっている。百合絵の本名はエリザベスといった。
ある日、百合絵は魔法国シリウスに帰らないといけないと知った萌々香は愕然とする。ちなみにそれを知った経緯はこうだ。放課後の教室の机で眠る百合絵の周りに浮かんでいたのだ。机の上にあるはずの教科書やノートが。萌々香がそれを掴むと、丁度百合絵が目を覚ましたので、「なぜこんな現象が起きているのですか」と聞いたのだ。すると、百合絵は白状した。自分の素性を。そして少し気を抜いていたからそんな現象を起こしてしまったということを。
そして萌々香は2月13日にこの世界での修行を終えて魔法国シリウスに帰らないといけないと聞き、一日待って欲しいと頼むが、聞き入れられず、「では、2月14日に魔法国シリウスに招待してほしい」と頼み込む。百合絵はそれを許した。但し、「理由を聞きたいな」と言う。萌々香は顔を赤らめ、こう言った。「それはその日まで内緒にしたいのです」と。すると事情を察した百合絵は、了解した。
そして二人はSNSのアカウントを交換して、互いにフォローすることを約束した。萌々香は、ちょっとしたことだったが嬉しかった。家に帰る途中、バスの中で萌々香は学校での使用が禁止されているスマホを取り出し、早速今日交換した百合絵のアカウントをフォローした。
2月11日。萌々香はマフラーをぎりぎりで完成させた。学校が終わってから今までの続きを始め、完成させたのは深夜のことだった。チョコは出来合いのものを日曜日に買い求めておいた。そして萌々香はマフラーとチョコのそれぞれを一つにまとめてラッピングし、2月14日のバレンタインデーの準備は完了した。
次に、萌々香はバレンタイン当日のコーディネートを考え始める。魔法国シリウスに招待されるにはそれなりの服装が必要と考えてのことだ。萌々香は自分のワードローブの中から控えめな、ピンクのドレスを選ぶ。これなら問題ないだろう、萌々香は思った。
2月12日、百合絵はSNSで、幼馴染のイリアス王子のことを呟いた。萌々香は何故か心が騒いだ。
2月13日、バレンタインデー前日。朝、授業が始まる前の学校で、百合絵は萌々香に言った。
「今日、学校が終わったら、一度家に帰るでしょう?」
「はい、明日の準備をする為に、そうするつもりです」
「準備が出来たら、学校の校門の所に夜9時に来て頂戴な」
指定された時間の5分前に、萌々香は、制服を着て、旅行用のスーツケースを引きながら現れた。百合絵はもう来ていて、萌々香が来るのを待っていた。
「じゃぁ、行きましょう」百合絵はそういうと、持ってきていた魔法の杖を振った。
気が付くと、二人は魔法国シリウスの城の中に立っていた。百合絵はお姫様の格好に変わっていた。
「明日は、夕暮れから晩さん会を開くから、今日はもうお眠り。あなたの部屋は準備してあるわ。爺、萌々香を用意した部屋に連れて行って」
「かしこまりました、姫」爺と呼ばれた老人がそう言うと、萌々香は老人に部屋に案内された。萌々香は、持ってきたスウェットに着替えると、ベッドに潜り込んで、眠った。
翌日の朝。萌々香は用意したドレスを着た。そして、やってきた昨日の老人の持ってきた朝食を食べた。メニューは、コーヒー、ベーグルサンド、ゆで卵、サラダ。昼まで、魔法国シリウスを老人に案内された。昼食は、シチュー。午後3時には紅茶タイム。その後、萌々香は晩さん会の時間まで、部屋にあったシリウス神話の分厚い本を開き、挿絵の部分だけ眺めた。萌々香には魔法国シリウスで使われている文字が全く読めなかったのだ。
「萌々香様。晩さん会の時間です。姫が呼んでいます」夕暮れ老人が萌々香がいる部屋に来てそう言うと、萌々香は用意してきた、百合絵へのバレンタインデーのプレゼントを手にした。
晩さん会の会場に着くと、百合絵は少し中性的な顔立ちの男性と赤いワインを片手に談笑していた。イリアス王子だろう。萌々香はイリアス王子は自分に似ていると思った。
萌々香は持ってきたバレンタインデーのプレゼントを、また魔法国にいつか招待してくださいと一言書いた紙を添えて百合絵に渡した。そして、プレゼントを渡しながら萌々香は百合絵に百合絵に思い切って言った。
「先輩、好きです」
漂う晩さん会の匂い。
百合絵はイリアス王子の前で、萌々香をハグしながら、萌々香の耳元で「いつかまた会いましょう」と言って、キスをした。
気が付くと萌々香は元の平行世界の自分の家の自分の部屋で、茫然と立ち尽くしていた。
ふと窓の外に目をやると、月が綺麗だった。
FIN




