第5話 昔なじみのソファ
夜の家は、静かだった。
灯りを落とした居間で、
古い2.5人掛けのソファにセレナは横になっている。
ひじ掛けに頭を預けたまま、
片足だけを外に投げ出して、ぶらぶら。
そのすぐ隣に、レオンがいる。
最初から、いつもどおりの距離だ。
「……今日さ」
「はい」
「患者、いっぱいだった」
「多かったですね」
「腰も、指も、肩も」
「ええ」
「平和だったね」
「そうですね」
ぶらぶらが、少し大きくなる。
「ねえ、レオン」
「はい」
「このソファ、やっぱり持ってきて正解だった」
「でしょうね」
「新しいのもいいけどさ」
「ええ」
「これ、落ち着く」
「長い付き合いですから」
「んー」
セレナは体を少し丸めて、
ひじ掛けに頭を押しつける。
「王都の家でも、ここで寝てたよね」
「よく寝ていました」
「その言い方」
「事実です」
「……むー」
ぶらぶらが止まる。
一拍置いて、また動く。
今度は、さっきより大きい。
「機嫌、いいですね」
「うん」
「分かりやすいです」
「だって、今日は」
「はい」
「誰も泣かなかったし」
「ええ
珍しいですね」
「ね」
少し間。
「レオン」
「はい」
「肩」
「……」
「さっきのは仕事」
「はい」
「今のは、お願い」
「……」
「もー。けちー。」
ぶらぶらが、最大になる。
「揺らさないでください」
「やだ」
「危ないです」
「じゃあ、早く」
レオンは小さく息を吐いて、手を伸ばす。
「いきますよ」
「はーい」
淡い光。
「……あ」
「どうですか」
「軽い。
すごい軽い」
「戻るのが早すぎます」
「気分の問題」
「医学的ではありません」
「生活の問題」
「反論になっていません」
「いいの」
セレナは満足そうに笑って、
ぶらぶらをゆっくりに戻す。
「ねえ」
「はい」
「ここに来て、よかったよね」
「ええ」
「逃げたけど」
「選びました」
「うん」
セレナは目を閉じる。
足が、止まる。
「……起きてる?」
「起きてる」
「ほんと?」
「……半分」
「うそ」
「半分は本当です」
「ふふ」
セレナは、そのまま動かなくなる。
「……寝た?」
「……」
「セレナ」
「……起きてる」
「起きていませんね」
「……もうちょっとだけ」
レオンは、灯りをさらに落とした。
この家で、
このソファで、
この距離で。
それが、ずっと続いてきた夜だった。
そして今も、変わらない日常だった。




