第4話 いつもの診察
朝の診療所は、空気を入れ替えるところから始まる。
レオンが窓を開けると、冷たい風が入り込み、薬の匂いが少し薄れた。
「今日は晴れそう」
セレナが白衣を着ながら言う。
「ええ。
人が来る日は、だいたい天気がいい」
「来ない日は?」
「天気が良くても来ません」
「身も蓋もないね」
セレナは包帯の在庫を確認する。
「昨日の夜のせいで、
今日は多い気がする」
「可能性は高いですね」
その言葉どおり、扉はすぐに開いた。
「おはようございます」
腰を押さえた老人だった。
「おはようございます。
どうされましたか」
セレナはすぐに敬語に切り替える。
「腰が痛くてな」
「いつ頃からでしょうか」
「今朝起きたら」
「昨日、何か重いものを?」
「……張り切った」
レオンが手をかざす。
「少し楽にします」
淡い光が走り、老人の背がすっと伸びる。
「……おお」
「無理はなさらないでください」
「わかってる。
でも、やっちゃうんだ」
「その前に来てください」
「はいはい」
次は、指に布を巻いた若い村人だった。
「切りました」
「見せていただけますか」
セレナが丁寧に布を外す。
「……少し深いですね」
「包丁です」
「動かさないでくださいね」
レオンが近づく。
「創縁、離れていますね」
「寄せますね」
セレナが鉗子を取る。
慣れた手つきで、傷の両側をそっとつまみ、位置を合わせる。
「少しだけ、引っ張ります」
「……はい」
指先が合ったのを確認してから、レオンが手をかざす。
「この状態で治します」
光が落ちる。
皮膚が自然に閉じていく。
「……もう?」
「はい。
傷跡も残りにくいと思います」
「すげえ……」
「今日は水仕事、控えてください」
「はい!」
昼前になると、人が途切れなくなった。
ガッチリとした体型の男性がやってくる。
「肩が凝っていて」
「いつ頃からでしょうか」
「兵士やめてからです」
セレナは頷く。
「その症状、よく伺います。
急に力を抜くと、出やすいです」
「そういうものか」
「はい」
レオンが治癒魔法をかける。
「楽になりましたか」
「ああ、軽い」
「無理はなさらないでください」
その様子を見て、セレナが肩を回す。
「……」
レオンが視線を向ける。
「何か?」
「いや」
少し間を置いて。
「……私も、同じ症状」
「診察時間内なので特別ですよ」
「やった」
レオンは手を伸ばす。
「動かしますよ」
「うん」
光が走る。
「……軽い」
「でしょう」
「患者優先じゃなかった?」
「看護師も、重要な戦力です」
「言い方」
昼過ぎ、果物籠を抱えた人たちが来た。
「昨日のお礼です」
「お気遣いありがとうございます」
セレナが丁寧に受け取る。
「今度、お茶の葉もお持ちしますね」
「ありがとうございます」
「命の恩人だって、皆言ってます」
「この村に住むものとして、
当然のことをしただけです」
夕方、最後の患者を見送る。
「今日は多かったね」
「ええ。
平和でした」
「それが一番」
セレナは椅子に腰掛ける。
「レオン」
「はい」
「肩、もう一度」
「診療時間外です」
「じゃあ明日働けないかもー」
「……仕方ありません」
短く光。
「完璧」
「働きすぎです」
「医師のせい」
「看護師の責任です」
二人は同時に、少し笑った。
外では、村の音が続いている。
診療所は、今日も普通だった。
それが、何よりだった。




